◇
生徒会長が言葉を切ると、室内に沈黙が流れた。
思っていた何倍も重い話で、なにを言うのが正しいのか、まったくもってわからない。
昨日は、頭の硬い真面目な生徒会長としか思わなかったのに。
友達の罪を暴けなかった、目を逸らしてしまったゆえの行動だと知ると、責める気にはなれなかった。
かなり反省している様子が見て取れるから、余計に。
というか、それほどの罪悪感を抱く会長ならきっと、嘘をついたとしてもあそこまで俺を責めたりはしなかったんじゃないかとも思う。
あれは、俺を犯人だと決めつけ、揺るがなかった紘都が招いた結果。
となれば、そこまで気にしなくていいと言いたいところではあるけれど、紘都のせいだからといって、会長の弱さを肯定するほどの優しさは持ち合わせていない。
のんちゃんへ視線をやると、のんちゃんもまた、言葉に迷っているみたいだった。
まあ無理もないか。のんちゃんは結衣子先輩が犯人だと思っていても、明言はしなかったくらい、結衣子先輩が犯人ではないことを願っていたのだから。
「……花音たちは、誰が犯人なのかを確かめに来たのよね?」
生徒会長に尋ねられ、俺はのんちゃんに視線をやった。
のんちゃんは俯いたまま、動かない。
ここに来たのは、結衣子先輩が犯人であることの追及が目的ではなかった。生徒会長が隠していることが、知りたかっただけ。
でも、本人に「貴方がなにかを隠していると思ったから、話を聞きにきました」とは言いにくいだろう。
だから、俺がのんちゃんの代わりに答えることもできなかった。
「それなら、このあと結衣子のところに行くの?」
のんちゃんは首を横に振った。それに対して、生徒会長は少し意外そうな顔をしている。
「どうしてそう思ったの?」
「ここで確信を得て結衣子を追及するのだとばかり思っていたのだけど、違った?」
それを聞いて、さっきの校舎裏での会長の背中を思い出した。
思考が読み取りにくい、凛とした背中。
あれは、覚悟を決めた背中だったんだ。友人が犯人である事実を受け止め、明かす覚悟を。
「違うのなら、その役目、もらってもいい?」
のんちゃんはわずかに固まるも、その提案を受けた。
今じゃなくても、結衣子先輩と話をするのはのんちゃんの役目だと勝手に思っていたから、少し意外だ。
なんて戸惑う俺と裏腹に、会長はどこか安堵の表情を見せている。
結衣子先輩と話す勇気はなくても、話したいという気持ちはあるってわけね。
あ、だから、教師に知られたくなかったとか? それならまあ、納得しないこともないけど。
「のんちゃん、いいの?」
小声で尋ね、のんちゃんが俺のほうを向いたそのとき、ノックの音がした。
会長が「はい」と応えると、ドアが開く。
入ってきた男子生徒は、大道具で足りないものがあるとかで、貸し出しの許可を取りに来たらしい。
「早希センパイ、のんたち行くね」
のんちゃんは生徒会長と彼の会話に割って入り、小声で言うと、先に生徒会室をあとにした。
会話を切るには中途半端のような、ナイスタイミングのような。複雑な気分ではあるが、のんちゃんがもう部屋を出てしまっては、俺にできることはのんちゃんを追いかけることだけだ。
歩きながら考えごとをしているのんちゃんは、いつもより少しだけ、歩くのが早い。早歩きをしなければ、追いつけなさそうだ。
「ねえ、のんちゃん。本当にこれでよかったの?」
なんとか隣に立ち、ついさっき答えがもらえなかった質問をもう一度してみる。
すると、のんちゃんは浮かない顔をして立ち止まった。
「……早希センパイが、結衣子センパイと話すって言ったんだもん。のんは、それを信じるだけ」
口ではそう言っているが、信頼しているようには見えない。
どちらかというと、自分に言い聞かせているような感じだ。
「って言うわりには、当てにできてないみたいじゃん?」
しかし思ったままに言ったのは、少し間違ったかもしれない。
俺の言葉のせいで、のんちゃんは不貞腐れてしまった。
「碧羽くん、ヒロくんみたい」
「うえ、それは嫌かも」
即座に、不味いものを食べたときのように、舌を出して吐きそうな真似をする。
それがのんちゃんに刺さったのか、のんちゃんは小さく笑った。
ずっと表情が強張っていたから、ちょっとでものんちゃんの笑顔が見れたことで、勝手に安心した。この程度でのんちゃんに笑顔が戻るのなら、紘都に似ていると言われたことは流してあげよう。
しかし、すぐにその笑みは消えてしまった。
「……のんでも、早希センパイと話すのちょっと怖かったから……早希センパイは、もっと怖がりさんになってもおかしくないのかなって、ちょっとだけ思っちゃったの」
「なるほどね」
のんちゃんが言葉に詰まる様子を目の前で見たから、説得力が違った。
「じゃあ、やっぱりのんちゃんが話をつける?」
のんちゃんは首を横に振った。
信頼しきれないのなら、てっきりのんちゃんが話すんだと思ったんだけど、違うのか。
「明日は、待ってみる」
のんちゃんがそう決めたのなら、俺が言うことなんてない。だから「了解」と短く答えたのに、のんちゃんは申し訳そうな目をして俺を見てきた。
「碧羽くん、なんか不満そう?」
探偵モードののんちゃんの目は、そう簡単には誤魔化せないか。
「いや、不満ってわけじゃないよ? ただもし、のんちゃんの嫌な予感のほうが当たって、会長が話できなかったってなったら、またなにか壊されるんじゃない?って思ったっていうか……」
のんちゃんは「そんなことない」とは言わなかった。きっと、俺と同じような思考を辿っているのだろう。
なんせ、今の話でTシャツを傷付けた理由はあったけど、垂れ幕を切った理由はわからなかった。となれば、文化祭の開催が気に入らず、無差別になにかを壊してもおかしくないわけだ。
しかし、のんちゃんの表情はどんどん曇っていった。
しまった、余計なことを言った。
「まあほら、全部俺の嫌な妄想ってだけかもしれないしさ。一回、生徒会長を信じよ」
極力明るく言ってみたけど、あまり意味はなかったか。
もう単独行動禁止命令はないようなものだろうし、明日、できる限り結衣子先輩を見張ってみよう。
教室に戻りながら、そんなことを思った。
生徒会長が言葉を切ると、室内に沈黙が流れた。
思っていた何倍も重い話で、なにを言うのが正しいのか、まったくもってわからない。
昨日は、頭の硬い真面目な生徒会長としか思わなかったのに。
友達の罪を暴けなかった、目を逸らしてしまったゆえの行動だと知ると、責める気にはなれなかった。
かなり反省している様子が見て取れるから、余計に。
というか、それほどの罪悪感を抱く会長ならきっと、嘘をついたとしてもあそこまで俺を責めたりはしなかったんじゃないかとも思う。
あれは、俺を犯人だと決めつけ、揺るがなかった紘都が招いた結果。
となれば、そこまで気にしなくていいと言いたいところではあるけれど、紘都のせいだからといって、会長の弱さを肯定するほどの優しさは持ち合わせていない。
のんちゃんへ視線をやると、のんちゃんもまた、言葉に迷っているみたいだった。
まあ無理もないか。のんちゃんは結衣子先輩が犯人だと思っていても、明言はしなかったくらい、結衣子先輩が犯人ではないことを願っていたのだから。
「……花音たちは、誰が犯人なのかを確かめに来たのよね?」
生徒会長に尋ねられ、俺はのんちゃんに視線をやった。
のんちゃんは俯いたまま、動かない。
ここに来たのは、結衣子先輩が犯人であることの追及が目的ではなかった。生徒会長が隠していることが、知りたかっただけ。
でも、本人に「貴方がなにかを隠していると思ったから、話を聞きにきました」とは言いにくいだろう。
だから、俺がのんちゃんの代わりに答えることもできなかった。
「それなら、このあと結衣子のところに行くの?」
のんちゃんは首を横に振った。それに対して、生徒会長は少し意外そうな顔をしている。
「どうしてそう思ったの?」
「ここで確信を得て結衣子を追及するのだとばかり思っていたのだけど、違った?」
それを聞いて、さっきの校舎裏での会長の背中を思い出した。
思考が読み取りにくい、凛とした背中。
あれは、覚悟を決めた背中だったんだ。友人が犯人である事実を受け止め、明かす覚悟を。
「違うのなら、その役目、もらってもいい?」
のんちゃんはわずかに固まるも、その提案を受けた。
今じゃなくても、結衣子先輩と話をするのはのんちゃんの役目だと勝手に思っていたから、少し意外だ。
なんて戸惑う俺と裏腹に、会長はどこか安堵の表情を見せている。
結衣子先輩と話す勇気はなくても、話したいという気持ちはあるってわけね。
あ、だから、教師に知られたくなかったとか? それならまあ、納得しないこともないけど。
「のんちゃん、いいの?」
小声で尋ね、のんちゃんが俺のほうを向いたそのとき、ノックの音がした。
会長が「はい」と応えると、ドアが開く。
入ってきた男子生徒は、大道具で足りないものがあるとかで、貸し出しの許可を取りに来たらしい。
「早希センパイ、のんたち行くね」
のんちゃんは生徒会長と彼の会話に割って入り、小声で言うと、先に生徒会室をあとにした。
会話を切るには中途半端のような、ナイスタイミングのような。複雑な気分ではあるが、のんちゃんがもう部屋を出てしまっては、俺にできることはのんちゃんを追いかけることだけだ。
歩きながら考えごとをしているのんちゃんは、いつもより少しだけ、歩くのが早い。早歩きをしなければ、追いつけなさそうだ。
「ねえ、のんちゃん。本当にこれでよかったの?」
なんとか隣に立ち、ついさっき答えがもらえなかった質問をもう一度してみる。
すると、のんちゃんは浮かない顔をして立ち止まった。
「……早希センパイが、結衣子センパイと話すって言ったんだもん。のんは、それを信じるだけ」
口ではそう言っているが、信頼しているようには見えない。
どちらかというと、自分に言い聞かせているような感じだ。
「って言うわりには、当てにできてないみたいじゃん?」
しかし思ったままに言ったのは、少し間違ったかもしれない。
俺の言葉のせいで、のんちゃんは不貞腐れてしまった。
「碧羽くん、ヒロくんみたい」
「うえ、それは嫌かも」
即座に、不味いものを食べたときのように、舌を出して吐きそうな真似をする。
それがのんちゃんに刺さったのか、のんちゃんは小さく笑った。
ずっと表情が強張っていたから、ちょっとでものんちゃんの笑顔が見れたことで、勝手に安心した。この程度でのんちゃんに笑顔が戻るのなら、紘都に似ていると言われたことは流してあげよう。
しかし、すぐにその笑みは消えてしまった。
「……のんでも、早希センパイと話すのちょっと怖かったから……早希センパイは、もっと怖がりさんになってもおかしくないのかなって、ちょっとだけ思っちゃったの」
「なるほどね」
のんちゃんが言葉に詰まる様子を目の前で見たから、説得力が違った。
「じゃあ、やっぱりのんちゃんが話をつける?」
のんちゃんは首を横に振った。
信頼しきれないのなら、てっきりのんちゃんが話すんだと思ったんだけど、違うのか。
「明日は、待ってみる」
のんちゃんがそう決めたのなら、俺が言うことなんてない。だから「了解」と短く答えたのに、のんちゃんは申し訳そうな目をして俺を見てきた。
「碧羽くん、なんか不満そう?」
探偵モードののんちゃんの目は、そう簡単には誤魔化せないか。
「いや、不満ってわけじゃないよ? ただもし、のんちゃんの嫌な予感のほうが当たって、会長が話できなかったってなったら、またなにか壊されるんじゃない?って思ったっていうか……」
のんちゃんは「そんなことない」とは言わなかった。きっと、俺と同じような思考を辿っているのだろう。
なんせ、今の話でTシャツを傷付けた理由はあったけど、垂れ幕を切った理由はわからなかった。となれば、文化祭の開催が気に入らず、無差別になにかを壊してもおかしくないわけだ。
しかし、のんちゃんの表情はどんどん曇っていった。
しまった、余計なことを言った。
「まあほら、全部俺の嫌な妄想ってだけかもしれないしさ。一回、生徒会長を信じよ」
極力明るく言ってみたけど、あまり意味はなかったか。
もう単独行動禁止命令はないようなものだろうし、明日、できる限り結衣子先輩を見張ってみよう。
教室に戻りながら、そんなことを思った。



