〇六道珍皇寺・境内・夜(帰り際)
地上に戻ってきた一同。 西園寺たちはそれぞれの馬車や人力車で去っていく。
残された蓮人と琴乃。
蓮人「……はは。言われ放題だな、俺たち」
蓮人、拳を握りしめる。
琴乃「…蓮人くん。私、悔しいわ」
蓮人「でも、俺たちみたいな底辺にチャンスが回ってきた。……これで家を再興できる」
蓮人「あいつらが馬鹿にしてる間に、俺たちだけの方法で勝つんだ」
琴乃「でも……蓮人くん」
琴乃「西園寺さんたちに勝てるのかな…。お金も、コネも、人脈も……彼らは全部持ってる」
琴乃「現実のところ、私たちは……ゼロだよ?」
不安げな琴乃。
蓮人は、琴乃の方を向き、ニッと不敵に笑う。
蓮人「関係ない」
蓮人「金がなけりゃ、知恵を使えばいい。コネがなけりゃ、ハッタリで作ればいい」
蓮人「俺のハッタリと、お前の……」
蓮人、言葉を切る。
蓮人「お前の『観察眼』とその『優しさ』があれば…できる」
琴乃「嬉しい…」
蓮人「俺たちが力を合わせれば、絶対に何かできるはずだ」
蓮人「見返してやろうぜ。琴乃……あの閻魔も、西園寺も、アリスも、全員だ!」
琴乃「うん。一緒に大きな挑戦ができる。わくわくしてきたわ」
蓮人「「安心しろ。金も権力もないが、俺には『話術』がある。……世界ごと騙してやるよ」
月明かりの下、決意を固める二人。
その背後で、井戸の底から赤い光が一瞬だけ漏れ、すぐに消えた。
〇京都市中・大通り・昼(1週間後) 多くの人が行き交う目抜き通り。
しかし、その空気はどこか殺伐としている。
怒鳴り声が響く。
烏丸「ええい! 嘆かわしい!」
烏丸玄五郎(17)が、数名の取り巻き(風紀委員)を引き連れ、大通りを練り歩いている。
彼は洋装の町人を捕まえ、ステッキで地面を叩いて説教をしている。
烏丸「貴様、日本人なら袴(はかま)を履け!その西洋かぶれの格好は何だ!」
町人「ひ、ひぃ!勘弁してくださいよぉ」
烏丸「そんな軟弱な精神だから、京都は衰退したのだ!」
烏丸「復興とは、古き良き日本の心を取り戻すこと!洋装など言語道断!」
通りがかった蓮人と琴乃、物陰からその様子を見ている。
蓮人「……うわ。烏丸先輩だ」
琴乃「何してるの? あに人たち」
蓮人「『風紀粛正』だとさ。……時代錯誤もいいとこだな」
蓮人「あんな精神論で腹が膨れるなら、誰も苦労しねえよ」
烏丸が二人を見つける。
烏丸「おお、天宮!九条!ちょうどいいところに!」
蓮人「げっ」
烏丸「貴様らも手伝え!この街から西洋の毒を排除し、美しき封建の世を取り戻すのだ!」
蓮人「い、いえ……俺たちは俺たちのやり方があるんで……」
蓮人、愛想笑いで後ずさる。
烏丸「フン。貧乏人のやり方など知れておる。……邪魔だけはするなよ?」
烏丸は再び、通行人に怒鳴り散らしながら去っていく。
市民たちは「関わりたくない」という顔で、迷惑そうに道を空ける。
〇同・路地裏 気を取り直して歩く二人。
今度は、長屋の並ぶ路地で人だかりができている。
白川「どきなさい! ここは私が買い上げましたのよ!」
白川紗代子(17)が、扇子で口元を隠し、貧しい住人たちを見下ろしている。
後ろには、怖そうな男たち(地上げ屋)が控えている。
住人「そ、そんな殺生な……ここを追い出されたら、わしらはどこへ……」
白川「知りませんわ。手切れ金(小銭)は払いましたでしょう?」
白川はうっとりと、ボロボロの長屋を見上げる。
白川「ここを更地にして……富裕層限定の『会員制サロン』を作りますの」
白川「貧乏人は排除して、選ばれた人間だけが優雅に過ごせる、真の京都……素敵でしょう?」
そこへ、蓮人たちが通りかかる。
白川「あら、天宮さん。九条さんも」
白川「ごきげんよう。…まだ登用試験に参加するおつもり? 資金も人脈もないのに?」
琴乃「……」
琴乃M(……かわいそうな人。お金で高い壁を作らないと、自分の価値も守れないの?)
琴乃M(蓮人くんが見ている「未来」に比べたら……あんたのサロンなんて、ただの鳥籠よ)
白川「ここは『持てる者』が動かす世界ですの。……身の程を知りなさいな」
白川は高笑いと共に、住人たちを追い立てる作業に戻る。
〇京都市中・通り 蓮人と琴乃、重い足取りで歩いている。
蓮人「……はぁ。どうしよう」
蓮人「烏丸先輩も白川先輩も、やり方は最悪だけど……『力(金と権威)』は持ってる」
蓮人「実際に人を動かして、場所を確保して……着々と進んでる」
琴乃「あの2人、方向性は何だかズレてるわね」
蓮人、道端の石ころを力なく蹴る。
蓮人「それに比べて、俺たちは……」
蓮人「京都を復興させるって言ったけど……金もコネもない、ただの学生にそんなことできるのかな」
琴乃「それに西園寺さんたちも『鉄道』『疎水』とかスケールの違う話をしてるのに
……私たちはまだスタートラインにも立ててないよね」
二人が、神社の前を通りかかる。一本だけ桜が咲いている。
市民「わあ、綺麗!」「咲いてるぞ!」「春やなぁ」
その桜の木の下だけ、人々が立ち止まり、笑顔で花を見上げている。
貧しい身なりの者も、裕福な者も、桜の下では平等に笑っている。
蓮人「……あ」
蓮人、足を止める。 その光景を見つめる
蓮人「……これだ」
琴乃「え?」
蓮人「見ろよ琴乃。……みんな笑ってる」
蓮人の瞳が輝く。
蓮人「金なんかなくても、立派な建物なんかなくても……『桜』が一本あるだけで、人は集まって、笑顔になるんだ」
蓮人の脳裏に、ビジョンが広がる。
(荒廃した灰色の京都の街並みが、満開の桜色に染まるイメージ)
灰色の京都 → 花びらが舞い始める(まだ現実じゃない)
蓮人の空想
蓮人「もし……京都じゅうに桜が咲いたら」
京都全景・桜満開
舞妓、子供、兵士、商人、貧乏人、富裕層——
すべてが笑顔で共有する光景。
蓮人「東京になくて、京都にしかない春になる。」
蓮人「人が来る。店が戻る。職人が息を吹き返す。」
蓮人「桜が、この街を助ける――。」
琴乃、満面の笑みで聞いている。
蓮人「京都中を、桜の名所にするんだ」
蓮人「そうすれば、日本中から観光客が来る。宿も潤う、土産も売れる」
蓮人「しかも桜は、一度植えれば毎年咲く。百年先、二百年先も……この街の財産として残り続ける」
蓮人、琴乃の肩をガシッと掴む。
蓮人「これぞ、未来への投資だ! これ以上の復興案はねえ!」
琴乃「す、すごい…!それなら私にも手伝える!苗木を植えるだけなら……」
二人の顔が輝く。 蓮人は拳を握りしめ、勝利を確信する。
蓮人、拳を強く握る。
蓮人「勝てるぞ!西園寺の疎水なんかより、よっぽど人の心を動かせる!」
蓮人「よし、すぐに苗木の手配を……」
蓮人の表情が凍りつく。
蓮人「……いや、待て」
琴乃「何?どうしたの?」
蓮人、指を折って数え始める。
蓮人「苗木を植えて……花が咲くまで、何年かかる?」
琴乃「えっと……桜の種類にもよるけど、早くて3年……普通は5年以上かな」
蓮人「…………」
蓮人、ガクリと膝をつく。
蓮人「……ダメだ」
蓮人「閻魔の期限は『一年』だ。…5年も待ってられない」
琴乃「あ……」
希望が大きかった分、絶望も深い。
琴乃「時間はどうしようもないわね。このアイデアはボツ?」
蓮人「はは……。そうだよな、そんな上手い話あるわけないよな」
蓮人「時間を飛び越える魔法でもなきゃ、無理だ……」
蓮人ナレーション(希望を掴んだと思った瞬間―手の中から、こぼれ落ちた。)
蓮人、微笑みながら膝をつく。
蓮人「……俺、バカだな。」
琴乃、寄り添う表情で笑う。
琴乃「ううん。いまの蓮人くん……すごく素敵だったよ。」
蓮人、空を見上げて深いため息をつく。
蓮人「あーあ……閻魔大王様の言ってた『報酬』って、一体なんなんだろうな」
蓮人「『未来永劫の繁栄』……それさえあれば、俺たちの家も、借金も、全部解決するのに」
琴乃「……楽しみだね。どんなものなのかな」
蓮人「ああ。金塊の山か、魔法の杖か……」
蓮人「まあ、考えてもしょうがねえ。この疑問の答えは……登用試験に合格して確かめるしかねえよな」
蓮人、自嘲気味に笑う。
琴乃「今の私たちは、合格どころかスタートすら立ててないし……」
二人の前をカラスが鳴いて飛び去っていく。
地上に戻ってきた一同。 西園寺たちはそれぞれの馬車や人力車で去っていく。
残された蓮人と琴乃。
蓮人「……はは。言われ放題だな、俺たち」
蓮人、拳を握りしめる。
琴乃「…蓮人くん。私、悔しいわ」
蓮人「でも、俺たちみたいな底辺にチャンスが回ってきた。……これで家を再興できる」
蓮人「あいつらが馬鹿にしてる間に、俺たちだけの方法で勝つんだ」
琴乃「でも……蓮人くん」
琴乃「西園寺さんたちに勝てるのかな…。お金も、コネも、人脈も……彼らは全部持ってる」
琴乃「現実のところ、私たちは……ゼロだよ?」
不安げな琴乃。
蓮人は、琴乃の方を向き、ニッと不敵に笑う。
蓮人「関係ない」
蓮人「金がなけりゃ、知恵を使えばいい。コネがなけりゃ、ハッタリで作ればいい」
蓮人「俺のハッタリと、お前の……」
蓮人、言葉を切る。
蓮人「お前の『観察眼』とその『優しさ』があれば…できる」
琴乃「嬉しい…」
蓮人「俺たちが力を合わせれば、絶対に何かできるはずだ」
蓮人「見返してやろうぜ。琴乃……あの閻魔も、西園寺も、アリスも、全員だ!」
琴乃「うん。一緒に大きな挑戦ができる。わくわくしてきたわ」
蓮人「「安心しろ。金も権力もないが、俺には『話術』がある。……世界ごと騙してやるよ」
月明かりの下、決意を固める二人。
その背後で、井戸の底から赤い光が一瞬だけ漏れ、すぐに消えた。
〇京都市中・大通り・昼(1週間後) 多くの人が行き交う目抜き通り。
しかし、その空気はどこか殺伐としている。
怒鳴り声が響く。
烏丸「ええい! 嘆かわしい!」
烏丸玄五郎(17)が、数名の取り巻き(風紀委員)を引き連れ、大通りを練り歩いている。
彼は洋装の町人を捕まえ、ステッキで地面を叩いて説教をしている。
烏丸「貴様、日本人なら袴(はかま)を履け!その西洋かぶれの格好は何だ!」
町人「ひ、ひぃ!勘弁してくださいよぉ」
烏丸「そんな軟弱な精神だから、京都は衰退したのだ!」
烏丸「復興とは、古き良き日本の心を取り戻すこと!洋装など言語道断!」
通りがかった蓮人と琴乃、物陰からその様子を見ている。
蓮人「……うわ。烏丸先輩だ」
琴乃「何してるの? あに人たち」
蓮人「『風紀粛正』だとさ。……時代錯誤もいいとこだな」
蓮人「あんな精神論で腹が膨れるなら、誰も苦労しねえよ」
烏丸が二人を見つける。
烏丸「おお、天宮!九条!ちょうどいいところに!」
蓮人「げっ」
烏丸「貴様らも手伝え!この街から西洋の毒を排除し、美しき封建の世を取り戻すのだ!」
蓮人「い、いえ……俺たちは俺たちのやり方があるんで……」
蓮人、愛想笑いで後ずさる。
烏丸「フン。貧乏人のやり方など知れておる。……邪魔だけはするなよ?」
烏丸は再び、通行人に怒鳴り散らしながら去っていく。
市民たちは「関わりたくない」という顔で、迷惑そうに道を空ける。
〇同・路地裏 気を取り直して歩く二人。
今度は、長屋の並ぶ路地で人だかりができている。
白川「どきなさい! ここは私が買い上げましたのよ!」
白川紗代子(17)が、扇子で口元を隠し、貧しい住人たちを見下ろしている。
後ろには、怖そうな男たち(地上げ屋)が控えている。
住人「そ、そんな殺生な……ここを追い出されたら、わしらはどこへ……」
白川「知りませんわ。手切れ金(小銭)は払いましたでしょう?」
白川はうっとりと、ボロボロの長屋を見上げる。
白川「ここを更地にして……富裕層限定の『会員制サロン』を作りますの」
白川「貧乏人は排除して、選ばれた人間だけが優雅に過ごせる、真の京都……素敵でしょう?」
そこへ、蓮人たちが通りかかる。
白川「あら、天宮さん。九条さんも」
白川「ごきげんよう。…まだ登用試験に参加するおつもり? 資金も人脈もないのに?」
琴乃「……」
琴乃M(……かわいそうな人。お金で高い壁を作らないと、自分の価値も守れないの?)
琴乃M(蓮人くんが見ている「未来」に比べたら……あんたのサロンなんて、ただの鳥籠よ)
白川「ここは『持てる者』が動かす世界ですの。……身の程を知りなさいな」
白川は高笑いと共に、住人たちを追い立てる作業に戻る。
〇京都市中・通り 蓮人と琴乃、重い足取りで歩いている。
蓮人「……はぁ。どうしよう」
蓮人「烏丸先輩も白川先輩も、やり方は最悪だけど……『力(金と権威)』は持ってる」
蓮人「実際に人を動かして、場所を確保して……着々と進んでる」
琴乃「あの2人、方向性は何だかズレてるわね」
蓮人、道端の石ころを力なく蹴る。
蓮人「それに比べて、俺たちは……」
蓮人「京都を復興させるって言ったけど……金もコネもない、ただの学生にそんなことできるのかな」
琴乃「それに西園寺さんたちも『鉄道』『疎水』とかスケールの違う話をしてるのに
……私たちはまだスタートラインにも立ててないよね」
二人が、神社の前を通りかかる。一本だけ桜が咲いている。
市民「わあ、綺麗!」「咲いてるぞ!」「春やなぁ」
その桜の木の下だけ、人々が立ち止まり、笑顔で花を見上げている。
貧しい身なりの者も、裕福な者も、桜の下では平等に笑っている。
蓮人「……あ」
蓮人、足を止める。 その光景を見つめる
蓮人「……これだ」
琴乃「え?」
蓮人「見ろよ琴乃。……みんな笑ってる」
蓮人の瞳が輝く。
蓮人「金なんかなくても、立派な建物なんかなくても……『桜』が一本あるだけで、人は集まって、笑顔になるんだ」
蓮人の脳裏に、ビジョンが広がる。
(荒廃した灰色の京都の街並みが、満開の桜色に染まるイメージ)
灰色の京都 → 花びらが舞い始める(まだ現実じゃない)
蓮人の空想
蓮人「もし……京都じゅうに桜が咲いたら」
京都全景・桜満開
舞妓、子供、兵士、商人、貧乏人、富裕層——
すべてが笑顔で共有する光景。
蓮人「東京になくて、京都にしかない春になる。」
蓮人「人が来る。店が戻る。職人が息を吹き返す。」
蓮人「桜が、この街を助ける――。」
琴乃、満面の笑みで聞いている。
蓮人「京都中を、桜の名所にするんだ」
蓮人「そうすれば、日本中から観光客が来る。宿も潤う、土産も売れる」
蓮人「しかも桜は、一度植えれば毎年咲く。百年先、二百年先も……この街の財産として残り続ける」
蓮人、琴乃の肩をガシッと掴む。
蓮人「これぞ、未来への投資だ! これ以上の復興案はねえ!」
琴乃「す、すごい…!それなら私にも手伝える!苗木を植えるだけなら……」
二人の顔が輝く。 蓮人は拳を握りしめ、勝利を確信する。
蓮人、拳を強く握る。
蓮人「勝てるぞ!西園寺の疎水なんかより、よっぽど人の心を動かせる!」
蓮人「よし、すぐに苗木の手配を……」
蓮人の表情が凍りつく。
蓮人「……いや、待て」
琴乃「何?どうしたの?」
蓮人、指を折って数え始める。
蓮人「苗木を植えて……花が咲くまで、何年かかる?」
琴乃「えっと……桜の種類にもよるけど、早くて3年……普通は5年以上かな」
蓮人「…………」
蓮人、ガクリと膝をつく。
蓮人「……ダメだ」
蓮人「閻魔の期限は『一年』だ。…5年も待ってられない」
琴乃「あ……」
希望が大きかった分、絶望も深い。
琴乃「時間はどうしようもないわね。このアイデアはボツ?」
蓮人「はは……。そうだよな、そんな上手い話あるわけないよな」
蓮人「時間を飛び越える魔法でもなきゃ、無理だ……」
蓮人ナレーション(希望を掴んだと思った瞬間―手の中から、こぼれ落ちた。)
蓮人、微笑みながら膝をつく。
蓮人「……俺、バカだな。」
琴乃、寄り添う表情で笑う。
琴乃「ううん。いまの蓮人くん……すごく素敵だったよ。」
蓮人、空を見上げて深いため息をつく。
蓮人「あーあ……閻魔大王様の言ってた『報酬』って、一体なんなんだろうな」
蓮人「『未来永劫の繁栄』……それさえあれば、俺たちの家も、借金も、全部解決するのに」
琴乃「……楽しみだね。どんなものなのかな」
蓮人「ああ。金塊の山か、魔法の杖か……」
蓮人「まあ、考えてもしょうがねえ。この疑問の答えは……登用試験に合格して確かめるしかねえよな」
蓮人、自嘲気味に笑う。
琴乃「今の私たちは、合格どころかスタートすら立ててないし……」
二人の前をカラスが鳴いて飛び去っていく。

