〇六道珍皇寺・境内・翌日夜(22時) 闇に沈む境内。
蓮人と琴乃が、恐る恐る山門をくぐる。
するとそこには、すでに西園寺響一郎(16)、鹿鳴館アリス(16)
烏丸玄五郎(17)、白川紗代子(17)の4名が待機していた。
琴乃「……えっ」
蓮人「お前ら……結局、全員、来たのかよ」
西園寺、懐中時計をしまいつつ、冷ややかな視線を向ける。
西園寺「勘違いするな。オカルトを信じたわけではない」
西園寺「だが……調べたところ、二条校長の実家は代々、朝廷の祭祀を司る家系だ。
彼が『真実』と言うなら、確認する義務がある」
西園寺「もし詐欺なら、その場で警察に突き出すだけだ」
アリス「私もよ。パパに話したら『1%でもプロフィット(利益)になる可能性があるなら、
ドブの中でも拾いに行け』と言われたわ」
アリス「万が一、本当に『繁栄』が手に入るなら、みすみす逃すわけにはいかないもの」
烏丸「わ、私は……西園寺君が行くと言うから、見届け人としてだな……」
白川「わたくしもですわ!」
蓮人M(……なるほどな。こいつら、抜け目がない)
琴乃M(ただプライドが高いだけじゃないのね。貪欲なんだわ)
その時、山門の外から、調子の外れた鼻歌が聞こえてくる。
???「六道の~辻~♪酒の~入り口~♪」
六角紫門が、千鳥足で境内に入ってくる。
手には一升瓶、顔はほんのり赤い。完全に出来上がっている。
アリス「……来たわね。昨日の『ドランカー(酔っ払い)』」
西園寺「22時集合と言っておいて遅刻とは。……これが『救済官』の規律か?」
紫門「んあ? ……おー、揃ってる揃ってる」
紫門、悪びれもせず一升瓶を振る。
紫門「悪いな。現世の酒が美味すぎて、つい一本空けちまった」
紫門「ま、疑いながらも全員来たわけだ。……その『欲深さ』こそが、救済官の第一条件だぜ?」
烏丸「ふん。やはりタチの悪い悪戯だったか。帰るぞ」
紫門「帰る? ……ハッ、こいつを見てから言いな」
紫門、一瞬で目つきを変える。
古びた井戸の前に立ち、持っていた一升瓶の中身(酒)を、ドボドボと井戸の中に注ぎ込む。
紫門「清めの酒だ。……開けろ」
ボウッ!! 井戸の底から、青白い鬼火が吹き上がる。
生徒たち「!?」
紫門「さあ、来な。地獄への片道切符だ」
〇同・冥土通いの井戸
井戸を覗き込む生徒たち。底は見えず、冷たい風が吹き上げてくる。
白川「ここに入るんですの? 泥だらけになりますわ」
紫門「嫌なら帰れ。誰も止めねえよ」
紫門が先頭を切って飛び込む。 顔を見合わせる生徒たち。
蓮人「……行くぞ」
蓮人が迷わず足をかける。驚く西園寺たち。
西園寺「……正気か?」
蓮人「チャンスが底にあるなら、肥溜めだって潜るさ」
蓮人に続いて、琴乃も小さく頷いて降りる。
舌打ちをして、西園寺たちも続く。
〇地下道 井戸の底とは思えない、横穴のトンネル。
壁は土ではなく、脈打つような黒い岩肌。 松明(たいまつ)の炎が、青白く燃えている。
ゆっくりと歩く7人。琴乃は怯えて、蓮人の服をしっかりと握っている。
琴乃「蓮人くん。私、ちょっと怖い」
蓮人「大丈夫。俺が側にいるし。何とかなるっしょ」
アリス「な、何なのここは……」
烏丸「おい、出口はあるんだろうな!」
紫門「もう少しだ。……ほら、見えてきたぞ」
トンネルの先に、眩い光が見える。
〇地獄の庭園(見開き大ゴマ)
一同がトンネルを抜けた瞬間、視界が一気に開ける。
そこは、地下とは思えない広大な空間。
見渡す限り、真っ赤な彼岸花(曼珠沙華)が咲き乱れている。
天井はなく、どこまでも続く夜空には、見たこともない巨大な赤い月が浮かんでいる。
幻想的で、美しく、そして恐ろしい「死の世界」の絶景。
琴乃「きれい……」
アリス「嘘でしょう……?ビューティフル……」」
圧倒され、言葉を失う生徒たち。 紫門が、彼岸花の海を割って歩く。
紫門「ここは『賽の河原』の特別区。閻魔王庁への正面玄関だ」
庭園の中央に、巨大な黒塗りの門がそびえ立っている。
〇閻魔王庁門前
紫門が門に手を当てる。
紫門「開(あ)けろ。客を連れてきた」
紫門の手から青白い「念」が放たれる。
ゴゴゴゴ……と地響きを立てて、巨大な門がひとりでに開く。
中から、強烈な威圧感(覇気)が風となって吹き出してくる。
西園寺「くっ……!」
蓮人「……!」(思わず腕で顔を覆う)
〇閻魔庁・執務室
門の奥は、朱塗りの柱が並ぶ広大な和室。
その最奥、一段高い玉座に「彼」は座っている。
閻魔大王(外見20代後半・美貌の青年)
大量の書類(巻物)の山に囲まれ、筆を走らせている。
紫門「連れてきましたぜ、大王様」
閻魔大王「……遅い。報告が1分遅れるごとに、貴様の寿命を1年縮めるぞ、紫門」
思わず怯む琴乃、アリス、白川
「……!」
閻魔大王の威圧感に圧倒され、硬直する6人

