美玲(メイリン)からの悲痛な電話を受けた翌日、
私は京都での仕事を放り出し、関西国際空港へ向かっていた。
居ても立ってもいられなかったのだ。
原因不明の衰弱。解決策の見えない焦燥。
電話の向こうで泣き崩れる美玲を、ただ指をくわえて見ていることなどできなかった。
桃園国際空港に到着した私は、その足で美玲のアパートへ向かった。
ドアを開けると、そこはまるで廃墟のような静けさに包まれていた。
積み上げられた段ボールの壁。その隙間に、三匹の猫たちの気配が沈殿している。
「裕……」
出迎えた美玲は、げっそりと頬がこけ、目の下に濃い隈を作っていた。
平平(ピンピン)は冷蔵庫の上から私を睨みつけ、低い声で唸った。
安安(アンアン)の姿はない。
阿福(アーフー)はクッションの上で、死んだように眠っていた。
惨状は、ビデオ通話で見るよりも遥かに深刻だった。

その夜、美玲が一枚の名刺を差し出した。
「明日、この人に来てもらうことになったの」
『寵物溝通師』――動物通訳士。
彼女は縋るような目で私を見た。
「台湾ではね、こういう不思議な力を持つ人が、昔から信じられているの。
動物と話ができる人がいて、迷子になった猫を探したり、病気の理由を聞いたりするのよ。
廟(びょう)にお参りに行くのと同じくらい、普通のことなの」
日本人の私にはとても突飛に聞こえた。
それを危惧してか、彼女は必死に言葉を継いだ。
「笑うかもしれないけど、もうこれしか方法がないの。あの子たちの声を聞けるなら、何だってしたい」
私は美玲の手を握りしめた。
「笑うもんか。僕も同席させてくれ。あの子たちが何を考えているのか、僕だって知りたいんだ」
実は正直なところ、半信半疑だった。いや、一信九疑くらいだったかもしれない。
(猫と会話ができる能力???台湾にはそんな職業があるのか?)
だが、科学や理屈で救えないなら、オカルトだろうが迷信だろうが構わない。
この地獄のような沈黙を破れるなら、悪魔にだって魂を売る覚悟だった。
翌日の午後。
アパートに現れたのは、三十代半ばと思われる、ごく普通の女性だった。
ラフなシャツにジーンズ姿で、手にはクリップボードを持っているだけだ。
動物通訳士の女性――リンさんは、部屋に入るなり、驚いたように足を止めた。
「……重いわね」
彼女は段ボールの山を見上げ、短く言った。
「猫たちの悲鳴で、部屋がいっぱいだわ」
リンさんは部屋の中央、阿福のクッションの近くに座り込むと、静かに目を閉じた。
私と美玲も、固唾を呑んでその様子を見守る。
数分後、リンさんがゆっくりと目を開けた。その視線は、どこか悲しげだった。
「お母さん」
彼女は美玲に向かって言った。
「あなた、この子たちに『引っ越し』の意味をちゃんと説明した?」
「え? はい、何度も。日本へ行くよって……」
「違うわ。そうじゃない」
リンさんは首を振った。そして、私たちが想像もしなかった言葉を口にした。
「この子たちは、自分たちが捨てられると思っているわ」
時が止まったような気がした。
美玲が息を呑む。
「捨て……られる?」
「ええ。まずは、あそこの優しい目をしたキジトラの子……安安ちゃんね」
リンさんが指差したのは、安安が隠れている押し入れの方角だった。
「あの子は震えているわ。『毎日、私の匂いがついた家具が消えていく。私の居場所が削られていく。
最後は私たちがこの茶色い箱(段ボール)に詰められて、ゴミ捨て場に運ばれるんだ』って」
私は頭を殴られたような衝撃を受けた。
そうか。そういうことだったのか。
猫には「引っ越し」という概念がない。
彼らの目に見えているのは、自分たちの縄張りが破壊され、得体の知れない箱に置き換わっていく光景だけだ。
彼らにとって、段ボールは「新しい城への船」ではなく、「自分たちを葬る棺桶」に見えていたのだ。
リンさんの視線が、次は部屋の高い位置、冷蔵庫の上にうずくまっている平平に向けられた。
「そして、あの子.平平くんの怒りは、もっと具体的よ」
リンさんはクリップボードに何かを書き留めながら、部屋の隅に立っていた私をちらりと見た。
「あの子は、犯人を知っていると言っているわ」
「犯人?」
「ええ。この平穏な生活を壊した元凶のことよ。彼はこう言っている。『ユウという男が、すべてを奪おうとしている』」
心臓が、早鐘を打った。
背筋に冷たいものが走る。
ユウ。裕。私の名前だ。
美玲がハッとして私を見た。
リンさんが私を指差す。
「あなたがユウさんね?」
私は強張った顔で頷くことしかできなかった。
「平平くんは言っているわ。『あの男が来てから、お母さんは変わってしまった。
あの男が、僕たちからお母さんを盗もうとしている。だから僕は戦っているんだ。
お母さんを守るために、あの男と、あの男に従うお母さんを噛んでいるんだ』って」
視界が滲んだ。
平平のあの攻撃性は、ただのパニックではなかった。
彼は彼なりに、必死で家族を守ろうとしていたのだ。
見えない敵――私という侵略者から、大好きな美玲を守るために、小さな牙を剥いていたのだ。
私たちはなんて愚かだったのだろう。
彼らのことを「守られるべき弱い存在」だとばかり思っていた。
だが違った。彼らもまた、愛するもののために戦う、誇り高き家族だったのだ。
「誤解よ!」
美玲が泣き崩れるように叫んだ。
「違うの、平平。裕はあなたたちを奪うんじゃない。
新しいお父さんになるのよ!段ボールは捨てるためじゃないの!」
リンさんが静かに頷く。
「ええ、その誤解を解くのが私の仕事。……さあ、伝えてあげて。
今、回路は繋がっているわ。あなたたちの言葉は、今はそのまま彼らの心に届くはずよ」
リンさんに促され、美玲が涙を拭って顔を上げた。
「裕、あなたも。あなたの口から言ってあげて」
私は冷蔵庫の下まで歩み寄り、膝をついた。
見上げると、平平が警戒心剥き出しの目で私を見下ろしていた。
怖いとは思わなかった。ただ愛おしかった。
「平平、安安、阿福。聞いてくれ」
私は腹の底から声を絞り出した。日本語でいい。魂で語ればいいのだ。
「俺は、お前たちを捨てない。絶対にだ」
平平の耳が、ぴくりと動いた。
「段ボールは、ゴミ箱じゃない。あれは新しい城へ行くための舟だ。京都という新しい場所へ行くための」
「そうよ」
美玲が私の隣に跪き、私の手を握った。
「みんなで行くの。私も、裕も、平平も安安も、阿福も。
誰一人、置いていったりしない。ずっと一緒よ。約束する」
部屋の空気が、ふわりと動いた気がした。
冷蔵庫の上の平平が、ゆっくりと威嚇の姿勢を解き、頭を上げた。
押し入れの隙間から、安安がおずおずと鼻先を出した。
そしてクッションの上で死んだように眠っていた阿福が、大きく、深く、息を吐いた。
「……伝わったわ」
リンさんが小さく微笑んだ。
「彼らが言っているわ。『本当?』って。『本当に、一緒に行けるの?』って」
「本当だとも!」
私は猫たちの眼を、順に見つめながら言った。
「僕が保証する。どんな壁があっても、僕が必ずお前たちを連れて行く。
だから……頼むから、ご飯を食べてくれ。生きてくれ」
奇跡は、その直後に起きた。
通訳士のリンさんが帰った後、美玲が三つの器にキャットフードを盛った。
カサカサ、というドライフードの乾いた音が、静寂な部屋に響く。
数秒の沈黙の後。
トン、と軽い音を立てて、平平が冷蔵庫から飛び降りた。
彼は私の足元まで来ると、一度だけ「ニャッ」と短く鳴き、餌皿に顔を突っ込んだ。
ガリガリ、ガリガリ。
その音を合図にしたように、押し入れから安安が出てきた。
阿福もゆっくりと起き上がった。
三匹が並んで、夢中で肉にかぶりついている。
その光景を見て、私と美玲は抱き合い、声を上げて泣いた。
夢中になりすぎて、平平の顎にはカリカリのかけらが一つ張り付いたままになっていた。
美玲が指で取ってやろうとすると「まだ食べてるんだけど!」と言わんばかりに顔をそむける。
安安は一度、口に入れた粒が床にこぼれてしまい、慌ててそれを追いかけてテーブルの脚に頭をぶつけた。
痛みにびっくりして固まったあと、何事もなかったふりをして再び皿に戻る。
その後ろ姿を見て、私たちは泣きながら笑った。
阿福は、皆より少し遅れて皿から顔を上げ、満足そうに一度だけ「フウ」と息を吐いた。
さっきまで曇っていた金色の瞳には、再び穏やかな光が宿っていた。
憑き物が落ちた、とはまさにこのことだった。
彼らの目からは、あの野生動物のような怯えは消え、
「これから旅に出るのだ」という希望の光が宿っていた。
私は窓を開け、台北の湿った夜風を胸いっぱいに吸い込んだ。
ただ一つ確かな事実は、私の猫たちが生きる気力を取り戻したということ。
そして、私たちが「言葉」という不完全なツールの向こう側にある、もっと確かな何かで結ばれたということだ。
この日を境に、私たちの「チーム」は強固になった。
もはや、迷うことはない。
あとは1月11日の渡航予定日に向かって、突き進むだけだ。
しかし運命というのは皮肉なものだ。
私たちが心を一つにし、最大の危機を乗り越えたと思ったその矢先に、
最後の、そして最も残酷な試練を用意していたのだから。
私は京都での仕事を放り出し、関西国際空港へ向かっていた。
居ても立ってもいられなかったのだ。
原因不明の衰弱。解決策の見えない焦燥。
電話の向こうで泣き崩れる美玲を、ただ指をくわえて見ていることなどできなかった。
桃園国際空港に到着した私は、その足で美玲のアパートへ向かった。
ドアを開けると、そこはまるで廃墟のような静けさに包まれていた。
積み上げられた段ボールの壁。その隙間に、三匹の猫たちの気配が沈殿している。
「裕……」
出迎えた美玲は、げっそりと頬がこけ、目の下に濃い隈を作っていた。
平平(ピンピン)は冷蔵庫の上から私を睨みつけ、低い声で唸った。
安安(アンアン)の姿はない。
阿福(アーフー)はクッションの上で、死んだように眠っていた。
惨状は、ビデオ通話で見るよりも遥かに深刻だった。

その夜、美玲が一枚の名刺を差し出した。
「明日、この人に来てもらうことになったの」
『寵物溝通師』――動物通訳士。
彼女は縋るような目で私を見た。
「台湾ではね、こういう不思議な力を持つ人が、昔から信じられているの。
動物と話ができる人がいて、迷子になった猫を探したり、病気の理由を聞いたりするのよ。
廟(びょう)にお参りに行くのと同じくらい、普通のことなの」
日本人の私にはとても突飛に聞こえた。
それを危惧してか、彼女は必死に言葉を継いだ。
「笑うかもしれないけど、もうこれしか方法がないの。あの子たちの声を聞けるなら、何だってしたい」
私は美玲の手を握りしめた。
「笑うもんか。僕も同席させてくれ。あの子たちが何を考えているのか、僕だって知りたいんだ」
実は正直なところ、半信半疑だった。いや、一信九疑くらいだったかもしれない。
(猫と会話ができる能力???台湾にはそんな職業があるのか?)
だが、科学や理屈で救えないなら、オカルトだろうが迷信だろうが構わない。
この地獄のような沈黙を破れるなら、悪魔にだって魂を売る覚悟だった。
翌日の午後。
アパートに現れたのは、三十代半ばと思われる、ごく普通の女性だった。
ラフなシャツにジーンズ姿で、手にはクリップボードを持っているだけだ。
動物通訳士の女性――リンさんは、部屋に入るなり、驚いたように足を止めた。
「……重いわね」
彼女は段ボールの山を見上げ、短く言った。
「猫たちの悲鳴で、部屋がいっぱいだわ」
リンさんは部屋の中央、阿福のクッションの近くに座り込むと、静かに目を閉じた。
私と美玲も、固唾を呑んでその様子を見守る。
数分後、リンさんがゆっくりと目を開けた。その視線は、どこか悲しげだった。
「お母さん」
彼女は美玲に向かって言った。
「あなた、この子たちに『引っ越し』の意味をちゃんと説明した?」
「え? はい、何度も。日本へ行くよって……」
「違うわ。そうじゃない」
リンさんは首を振った。そして、私たちが想像もしなかった言葉を口にした。
「この子たちは、自分たちが捨てられると思っているわ」
時が止まったような気がした。
美玲が息を呑む。
「捨て……られる?」
「ええ。まずは、あそこの優しい目をしたキジトラの子……安安ちゃんね」
リンさんが指差したのは、安安が隠れている押し入れの方角だった。
「あの子は震えているわ。『毎日、私の匂いがついた家具が消えていく。私の居場所が削られていく。
最後は私たちがこの茶色い箱(段ボール)に詰められて、ゴミ捨て場に運ばれるんだ』って」
私は頭を殴られたような衝撃を受けた。
そうか。そういうことだったのか。
猫には「引っ越し」という概念がない。
彼らの目に見えているのは、自分たちの縄張りが破壊され、得体の知れない箱に置き換わっていく光景だけだ。
彼らにとって、段ボールは「新しい城への船」ではなく、「自分たちを葬る棺桶」に見えていたのだ。
リンさんの視線が、次は部屋の高い位置、冷蔵庫の上にうずくまっている平平に向けられた。
「そして、あの子.平平くんの怒りは、もっと具体的よ」
リンさんはクリップボードに何かを書き留めながら、部屋の隅に立っていた私をちらりと見た。
「あの子は、犯人を知っていると言っているわ」
「犯人?」
「ええ。この平穏な生活を壊した元凶のことよ。彼はこう言っている。『ユウという男が、すべてを奪おうとしている』」
心臓が、早鐘を打った。
背筋に冷たいものが走る。
ユウ。裕。私の名前だ。
美玲がハッとして私を見た。
リンさんが私を指差す。
「あなたがユウさんね?」
私は強張った顔で頷くことしかできなかった。
「平平くんは言っているわ。『あの男が来てから、お母さんは変わってしまった。
あの男が、僕たちからお母さんを盗もうとしている。だから僕は戦っているんだ。
お母さんを守るために、あの男と、あの男に従うお母さんを噛んでいるんだ』って」
視界が滲んだ。
平平のあの攻撃性は、ただのパニックではなかった。
彼は彼なりに、必死で家族を守ろうとしていたのだ。
見えない敵――私という侵略者から、大好きな美玲を守るために、小さな牙を剥いていたのだ。
私たちはなんて愚かだったのだろう。
彼らのことを「守られるべき弱い存在」だとばかり思っていた。
だが違った。彼らもまた、愛するもののために戦う、誇り高き家族だったのだ。
「誤解よ!」
美玲が泣き崩れるように叫んだ。
「違うの、平平。裕はあなたたちを奪うんじゃない。
新しいお父さんになるのよ!段ボールは捨てるためじゃないの!」
リンさんが静かに頷く。
「ええ、その誤解を解くのが私の仕事。……さあ、伝えてあげて。
今、回路は繋がっているわ。あなたたちの言葉は、今はそのまま彼らの心に届くはずよ」
リンさんに促され、美玲が涙を拭って顔を上げた。
「裕、あなたも。あなたの口から言ってあげて」
私は冷蔵庫の下まで歩み寄り、膝をついた。
見上げると、平平が警戒心剥き出しの目で私を見下ろしていた。
怖いとは思わなかった。ただ愛おしかった。
「平平、安安、阿福。聞いてくれ」
私は腹の底から声を絞り出した。日本語でいい。魂で語ればいいのだ。
「俺は、お前たちを捨てない。絶対にだ」
平平の耳が、ぴくりと動いた。
「段ボールは、ゴミ箱じゃない。あれは新しい城へ行くための舟だ。京都という新しい場所へ行くための」
「そうよ」
美玲が私の隣に跪き、私の手を握った。
「みんなで行くの。私も、裕も、平平も安安も、阿福も。
誰一人、置いていったりしない。ずっと一緒よ。約束する」
部屋の空気が、ふわりと動いた気がした。
冷蔵庫の上の平平が、ゆっくりと威嚇の姿勢を解き、頭を上げた。
押し入れの隙間から、安安がおずおずと鼻先を出した。
そしてクッションの上で死んだように眠っていた阿福が、大きく、深く、息を吐いた。
「……伝わったわ」
リンさんが小さく微笑んだ。
「彼らが言っているわ。『本当?』って。『本当に、一緒に行けるの?』って」
「本当だとも!」
私は猫たちの眼を、順に見つめながら言った。
「僕が保証する。どんな壁があっても、僕が必ずお前たちを連れて行く。
だから……頼むから、ご飯を食べてくれ。生きてくれ」
奇跡は、その直後に起きた。
通訳士のリンさんが帰った後、美玲が三つの器にキャットフードを盛った。
カサカサ、というドライフードの乾いた音が、静寂な部屋に響く。
数秒の沈黙の後。
トン、と軽い音を立てて、平平が冷蔵庫から飛び降りた。
彼は私の足元まで来ると、一度だけ「ニャッ」と短く鳴き、餌皿に顔を突っ込んだ。
ガリガリ、ガリガリ。
その音を合図にしたように、押し入れから安安が出てきた。
阿福もゆっくりと起き上がった。
三匹が並んで、夢中で肉にかぶりついている。
その光景を見て、私と美玲は抱き合い、声を上げて泣いた。
夢中になりすぎて、平平の顎にはカリカリのかけらが一つ張り付いたままになっていた。
美玲が指で取ってやろうとすると「まだ食べてるんだけど!」と言わんばかりに顔をそむける。
安安は一度、口に入れた粒が床にこぼれてしまい、慌ててそれを追いかけてテーブルの脚に頭をぶつけた。
痛みにびっくりして固まったあと、何事もなかったふりをして再び皿に戻る。
その後ろ姿を見て、私たちは泣きながら笑った。
阿福は、皆より少し遅れて皿から顔を上げ、満足そうに一度だけ「フウ」と息を吐いた。
さっきまで曇っていた金色の瞳には、再び穏やかな光が宿っていた。
憑き物が落ちた、とはまさにこのことだった。
彼らの目からは、あの野生動物のような怯えは消え、
「これから旅に出るのだ」という希望の光が宿っていた。
私は窓を開け、台北の湿った夜風を胸いっぱいに吸い込んだ。
ただ一つ確かな事実は、私の猫たちが生きる気力を取り戻したということ。
そして、私たちが「言葉」という不完全なツールの向こう側にある、もっと確かな何かで結ばれたということだ。
この日を境に、私たちの「チーム」は強固になった。
もはや、迷うことはない。
あとは1月11日の渡航予定日に向かって、突き進むだけだ。
しかし運命というのは皮肉なものだ。
私たちが心を一つにし、最大の危機を乗り越えたと思ったその矢先に、
最後の、そして最も残酷な試練を用意していたのだから。

