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レコード盤上の 冬の調べ

〈この調べと ともに〉
アントニオ・ルーチョ・ヴィヴァルディ
四季 協奏曲第4番 「冬」 RV.297 ヘ短調

   ♪

「ねえ、ヴィヴァルディの協奏曲『冬』って、寒いけど、暖かいよね」
「え?」

 ブラバン部で一緒に活動していた、僕のガールフレンド(多分)のトモちゃんが、独り言のようにつぶやいた。

 受験が終わり、部活の練習もない、手持ち無沙汰な冬と春との狭間。
 コートを少し重く感じながら、いつもの帰り道を歩く。
 僕らはこの春から別々の高校に進む。

「寒いけど暖かい?」

「うん。寒くて辛い一楽章と、寒くて心細い三楽章に挟まれているのに、いや、挟まれてるから、二楽章は、優しくて暖かい」

 少し前を歩くトモちゃんは、顔の前で軽く丸めた両手に、はーっと息を吐く。まだそれは白く見える。

「夕べね、パパがアナログのレコードで聴かせてくれてね。その時、そう感じたの」

 彼女は、振り向き、息で暖めた両方の手のひらで、僕のほっぺたを包んだ。

 そして、ささやく。
「寒くて辛くても、心細くても。暖かいものは私の心の中に、ずっとある……忘れない」

 僕はそれを聞いて初めて、季節が変わっちゃうんだと気がついた。

 冬は、高い空から薄雲と一緒に降りてきて、二人を優しく抱き締めた。
 凍えてしまわないように。そっと。

 そして、すぐそばで待ってくれていた春に、二人を引き渡した。


(了)