横道寄り道ねこ屋台

「赤ちゃん猫のころ……?」

 猫は大体一年から一年半で大人になると言われていると聞く。ということは、一年から一年半前に、私が猫を助けた——。
 頭の中で、ぱちんともやが弾けたかのように、霧が晴れていく。
 そうだ。確かに一年と少し前ぐらいに、私は一匹の猫を助けたことがある。
 大学三年生、下宿先の自宅から大学に行くまでの道中の道路で、足を怪我したエキゾチックショートヘアの猫がよたよたと歩いていた。歩道の脇には赤茶色の目をした子猫が数匹いて、「みゃあみゃあ」とか弱い鳴き声をあげていた。
 このままだと危ない——そう思った刹那、一台の車がブオンと勢いよくエンジンを吹かせて走ってきたのだ。
 私ははっとして、信号のない道路を飛び出した。
 キキーッと、車が急ブレーキを踏むのと、私が猫を抱き抱えたのが同時だった。

『……っ!』

 間一髪、危機を回避した私は、心臓が小刻みに鳴って、恐怖で足がすくんでいた。だけど、抱き抱えた猫の温もりを感じて、ひどく安心したのだ。 

 ああ、助けて良かった。
 
 あのまま見て見ぬふりをしていたら、私は一生後悔したかもしれない。

 車の運転手の男性は唖然と目を見開いたあと、私の腕の中で縮こまる猫を見て、はっと目を瞬かせた。おそらくスピード違反の速度で車を走らせていた男性は、猫の存在に気づいていなかったのだろう。ばつが悪そうに、私の横をすり抜けて走り去っていった。
 あまりいい気分はしなかったが、この猫が無事で良かった。
 私は母親猫を道端の子猫の元へと連れていった。

『もう大丈夫?』

『にゃおん』

 親猫が、ちょこんと私に頭を下げるような仕草をした。そんな親猫に、子猫たちが擦り寄る。
 この子たちのお母さんが死ななくて良かった。
 
『じゃあまたね。気をつけるんだよ』

 私は小さく手を振って、その場から離れた。
 大学に着く頃には、猫アレルギーなのに猫に触れたせいで、鼻水が止まらなくなっていた。
 でも、心はずっと満たされていた。
 あの猫ちゃんのこと、無視しないで良かった。
 お母さん猫が死んじゃったら、きっと子猫たちも飢えて死んでしまっただろう。
 それに、母親が亡くなってどれだけ悲しいかを想像すると、やっぱり助けて正解だったと思えた。

 その日の出来事は確かに人生の中でも印象的なものではあったが、大学での刺激の多い日々の中で、記憶はどんどん薄れていった。
 ぶにゃ助に言われて久しぶりに思い出すぐらい、もうすっかり忘れてしまっていた。