「思い出したにゃ?」
芳香な出汁の匂いが香る屋台で、ぶにゃ助が私を見上げながら問う。
「うん、思い出した。あの時助けた猫が、ぶにゃ助のお母さんだったの?」
「そうにゃ。美似衣のおかげで、オレの母親は助かった。だから、そのお礼をしたくて、美似衣の前にオレは現れたんだ」
「そうだったんだ……。そんな、気にしなくて良かったのに」
確かに私はぶにゃ助のお母さんを助けた。でもそれは、恩返しをしてほしいとか、見返りがほしいとか、そういう気持ちでしたことではない。気がつけば身体が勝手に動いていただけだ。
それなのに、どうしてぶにゃ助は……。
「そういうわけにはいかないにゃ。オレたち猫界では、人間に命を救われたら恩を返しに行くのが風習にゃんだ。初めて会った日、美似衣、猫アレルギーって言ってただろ?」
「うん、そうだね。だから今もぶにゃ助は私から距離を置いてくれてるよね」
「ああ。美似衣が猫アレルギーだって言った時、思ったにゃ。美似衣は、自分の身を危険に晒してまで、オレの母親を助けてくれたんだって。そう思うと、居ても立ってもいられなくなったにゃ」
「だからあのとき……」
私が以前、ぶにゃ助に猫アレルギーだと告げた時、彼は何かを悟った様子ではっとしていた。その彼の表情の裏には、ぶにゃ助の複雑な想いがあったのだ。
「身を挺してオレの母親を守ってくれた美似衣に、ほんの少しでもいいから、心癒される時間をあげたかった。だから今日、美似衣を横道に連れてきたんだにゃ」
「そうだったんだ」
ぶにゃ助の話を聞いて、ようやく今自分がこの場所にいる意味を理解することができた。
この横道は、ぶにゃ助のように人間に恩返しをしたい猫たちが人間の心を癒すためにやってくる場所なんだろう。ほくほくのご当地飯を食べて、身も心も確かに満たされていく。
なんて素敵な恩返しだ。
漫画やアニメの世界でしか見たことのない、このファンタジーな世界を、私は今真っ向から受け入れ、浸っている。
そこでふと、一つの疑問が湧き上がってきた。
「ねえ、ぶにゃ助。私に恩返しがしたくて私をこの場所に連れてきてくれたのは分かったんだけど、一つ腑に落ちないことがあるの。どうして私に恩返しをするのがぶにゃ助なの? さっき、もともとはお母さんが人間をこの横道に連れてきてたって言ってたよね? 普通に考えたら、あなたのお母さんが私をここに連れてくるのが妥当だと思うんだけど、何かそういうルールでもあるの?」
「それは……」
そこでぶにゃ助は一度、瞳を伏せる。何か、胸に大きな秘め事があるかのように、言葉にするのを躊躇っている様子だった。
が、やがて決心がついたのか、そっと口を開く。
「オレの母親は、一週間前に亡くなったにゃ」
「えっ……」
言葉にならない小さな悲鳴が口から漏れる。
ぶにゃ助のつぶれた瞳がふるふると揺れている。思わず鞄からハンカチを取り出そうとしたが、こんな時に限ってハンカチを忘れていることに気づいて、あたふたと慌てるばかりだ。
「ごめん、余計なこと聞いちゃったね」
素直に申し訳ない気持ちになり、頭を下げる。だがぶにゃ助は、「大丈夫にゃ」と再び顔を上げた。
「病気だったから仕方がにゃかったんだ。でも、お母さんが死ぬ前に、オレに言ったんだ。『去年、自分の命を助けてくれた美似衣という子に恩返しがまだできていないから、私の代わりに、お前が彼女を横道に連れて行ってほしいにゃ』って。それがお母さんの最後の言葉だったにゃ。だからオレ、どうしても美似衣をここに連れてきたかったんだにゃん」
芳香な出汁の匂いが香る屋台で、ぶにゃ助が私を見上げながら問う。
「うん、思い出した。あの時助けた猫が、ぶにゃ助のお母さんだったの?」
「そうにゃ。美似衣のおかげで、オレの母親は助かった。だから、そのお礼をしたくて、美似衣の前にオレは現れたんだ」
「そうだったんだ……。そんな、気にしなくて良かったのに」
確かに私はぶにゃ助のお母さんを助けた。でもそれは、恩返しをしてほしいとか、見返りがほしいとか、そういう気持ちでしたことではない。気がつけば身体が勝手に動いていただけだ。
それなのに、どうしてぶにゃ助は……。
「そういうわけにはいかないにゃ。オレたち猫界では、人間に命を救われたら恩を返しに行くのが風習にゃんだ。初めて会った日、美似衣、猫アレルギーって言ってただろ?」
「うん、そうだね。だから今もぶにゃ助は私から距離を置いてくれてるよね」
「ああ。美似衣が猫アレルギーだって言った時、思ったにゃ。美似衣は、自分の身を危険に晒してまで、オレの母親を助けてくれたんだって。そう思うと、居ても立ってもいられなくなったにゃ」
「だからあのとき……」
私が以前、ぶにゃ助に猫アレルギーだと告げた時、彼は何かを悟った様子ではっとしていた。その彼の表情の裏には、ぶにゃ助の複雑な想いがあったのだ。
「身を挺してオレの母親を守ってくれた美似衣に、ほんの少しでもいいから、心癒される時間をあげたかった。だから今日、美似衣を横道に連れてきたんだにゃ」
「そうだったんだ」
ぶにゃ助の話を聞いて、ようやく今自分がこの場所にいる意味を理解することができた。
この横道は、ぶにゃ助のように人間に恩返しをしたい猫たちが人間の心を癒すためにやってくる場所なんだろう。ほくほくのご当地飯を食べて、身も心も確かに満たされていく。
なんて素敵な恩返しだ。
漫画やアニメの世界でしか見たことのない、このファンタジーな世界を、私は今真っ向から受け入れ、浸っている。
そこでふと、一つの疑問が湧き上がってきた。
「ねえ、ぶにゃ助。私に恩返しがしたくて私をこの場所に連れてきてくれたのは分かったんだけど、一つ腑に落ちないことがあるの。どうして私に恩返しをするのがぶにゃ助なの? さっき、もともとはお母さんが人間をこの横道に連れてきてたって言ってたよね? 普通に考えたら、あなたのお母さんが私をここに連れてくるのが妥当だと思うんだけど、何かそういうルールでもあるの?」
「それは……」
そこでぶにゃ助は一度、瞳を伏せる。何か、胸に大きな秘め事があるかのように、言葉にするのを躊躇っている様子だった。
が、やがて決心がついたのか、そっと口を開く。
「オレの母親は、一週間前に亡くなったにゃ」
「えっ……」
言葉にならない小さな悲鳴が口から漏れる。
ぶにゃ助のつぶれた瞳がふるふると揺れている。思わず鞄からハンカチを取り出そうとしたが、こんな時に限ってハンカチを忘れていることに気づいて、あたふたと慌てるばかりだ。
「ごめん、余計なこと聞いちゃったね」
素直に申し訳ない気持ちになり、頭を下げる。だがぶにゃ助は、「大丈夫にゃ」と再び顔を上げた。
「病気だったから仕方がにゃかったんだ。でも、お母さんが死ぬ前に、オレに言ったんだ。『去年、自分の命を助けてくれた美似衣という子に恩返しがまだできていないから、私の代わりに、お前が彼女を横道に連れて行ってほしいにゃ』って。それがお母さんの最後の言葉だったにゃ。だからオレ、どうしても美似衣をここに連れてきたかったんだにゃん」



