「まもなくー、下井草ー、下井草ー」

 ハッと目を覚ますと、いつものように西武新宿線に乗っている。車両にはほかに誰もいなくて、アナウンスは自分の家の最寄駅の名前を告げていた。
 あれは、夢だったのか。とてもリアルで、素敵な、幸せな夢だった。ああ、もう一回もふもふに包まれたいなあ。ノクティアとももう少しお話ししたかった……。
 最寄駅のホームが見えてきて、慌ててリクルートバッグを抱えて立ちあがろうとする。すると、スーツのスカートに白い毛が光った。よく見ると、ジャケットにもいろんな色の細い毛がたくさん付いている。
 ——夢じゃ、なかったんだ。
 電車を降り、改札を抜ける。いつもの何倍も晴れやかな気持ちで帰り道を歩く。胸の中にほんのりともる灯火を感じる。
 そうだ、私は小説が好きなんだ。明日、もう一度自分の「好き」から職業を考えてみよう。インターンは頑張るとして、そのあとのことは、いままでみたいに不安に思うことはない。きっと、好きなことなら頑張れると思うから。
 でも、今日はひとまず寝ないとな。せっかく、ノクティアに素敵な魔法をかけてもらったんだし。
 見上げると、黒猫城ほどではないけれど、東京の夜空にも星が美しく瞬いていた。