十九時、最後に残っている夕真くんは私に見られていると感じたのか、カプセルトイの人形は鞄にしまいこんで、教室にあるブロックで遊んでいた。小さな背中を見て、なんだか切ない気持ちにさせられる。家でもあんなふうにひとりで遊んでいるのだろうか。娘の美奈も、つい家事で忙しいときには部屋でひとりで遊ばせることが多い。申し訳ないと思いつつ、どうしてもつきっきりで遊んであげられないのが歯痒かった。

「夕真くん、先生と何か作ろうか」

 たまらずに声をかけると、夕真くんの表情がほんのり楽しげに和らいだ。

「何作る?」

「ぼく、お城を作りたい」

「いいね。じゃあ先生はお城に住む人間を作ろうかな」

「それならこの人形があるから、これでいいよ」

 夕真くんはそう言うと、再び例の人形を取り出した。

「夕真くん、それは……」

 また注意しなければならないのかとため息を吐く。が、今は夕真くん以外他に誰もいないし、まあ大目に見ようと思った。
 カプセルトイ、私も昔ハマったなあ。
 何が出てくるか分からないドキドキ感が楽しいんよね。それに、つい全種類集めたくなっちゃう。カプセルトイを回す瞬間のあの幸せな気持ちを思い出していたところで、「預かり室」の扉がガラガラと開いた。

「先生、今日も遅くなってすみません」

 扉の向こうでぺこりと頭を下げていたのは紛れもなく夕真くんのお母さんだった。

「ママ!」

 夕真くんが嬉しそうにお母さんに飛びつく。

「遅くなってごめんねえ。今日も楽しかった?」

「うん、先生が遊んでくれた」

「そっか。良かったわねえ」