灰谷雪音さんが自宅で亡くなっていたというニュースを今朝テレビで目にした。ニュースによると、雪音さんは先週の金曜日、10月3日に命を落としていたらしい。
テレビを見ながら、ぼうっとこの一週間の記憶を思い返していた。
10月3日以降、夕真くんを迎えにきていた“雪音さん”はやっぱりあの人形だったのか——今ではもう、何も考えられない。
「夕真くん」
雪音さんの通夜に参列した私は、雪音さんのご両親の隣にちょこんと座って泣くのを堪えている彼をそっと抱きしめた。
「ママは夕真くんの心のなかにずっといるよ」
「心のなか……?」
「そう。夕真くんがママのことを大好きでいる限り、ママは夕真くんのことをお空から見てるし、夕真くんを抱きしめてくれる。だから、夕真くんはこれからもママとずっと一緒だよ」
子どもを安心させるための方便のようなものだけれど、それでも夕真くんは私の言葉を聞いてすこしだけ安心したのか、「うん」と小さく頷いてくれた。雪音さんのご両親が私に向かって深々と頭を下げる。
「夕真のこと見てくださってありがとうございました。夕真は転園することになりますが、どうか先生も、お元気で」
「ありがとうございます。夕真くんのこの先の人生がどうか少しでも明るいものになるように願っています」
これから彼を待ち受ける現実は辛く、苦しいものだろう。
でもどうか、一刻も早く傷を癒して前を向いて生きていってほしい。
彼の前に広がっている茫漠とした未来を思い、胸が締め付けられるような思いがした。
「ただいまー」
家に帰り着くと、時刻は二十時過ぎだった。
「ママおかえり!」
喪服姿の私に飛びつく娘の美奈。昨日——というか今日の深夜にカプセルトイを壊したときの映像がぼんやりと頭に浮かんだ。どうして今、と思ったが、次に美奈が放った一言に、背筋が凍りついた。
「ママ見てこれ! 新しいお人形またもらったのー。じゃーん!」
美奈がポケットから取り出した“それ”を見て、息が止まりかけた。
黄土色の肌。
黒髪の女。
よく見ればそれは、自分に似ているような気がした。
人形と目が合って、“彼女”の口がにゅるりと持ち上がる。
その刹那、私の意識はふっと途絶えた。
テレビを見ながら、ぼうっとこの一週間の記憶を思い返していた。
10月3日以降、夕真くんを迎えにきていた“雪音さん”はやっぱりあの人形だったのか——今ではもう、何も考えられない。
「夕真くん」
雪音さんの通夜に参列した私は、雪音さんのご両親の隣にちょこんと座って泣くのを堪えている彼をそっと抱きしめた。
「ママは夕真くんの心のなかにずっといるよ」
「心のなか……?」
「そう。夕真くんがママのことを大好きでいる限り、ママは夕真くんのことをお空から見てるし、夕真くんを抱きしめてくれる。だから、夕真くんはこれからもママとずっと一緒だよ」
子どもを安心させるための方便のようなものだけれど、それでも夕真くんは私の言葉を聞いてすこしだけ安心したのか、「うん」と小さく頷いてくれた。雪音さんのご両親が私に向かって深々と頭を下げる。
「夕真のこと見てくださってありがとうございました。夕真は転園することになりますが、どうか先生も、お元気で」
「ありがとうございます。夕真くんのこの先の人生がどうか少しでも明るいものになるように願っています」
これから彼を待ち受ける現実は辛く、苦しいものだろう。
でもどうか、一刻も早く傷を癒して前を向いて生きていってほしい。
彼の前に広がっている茫漠とした未来を思い、胸が締め付けられるような思いがした。
「ただいまー」
家に帰り着くと、時刻は二十時過ぎだった。
「ママおかえり!」
喪服姿の私に飛びつく娘の美奈。昨日——というか今日の深夜にカプセルトイを壊したときの映像がぼんやりと頭に浮かんだ。どうして今、と思ったが、次に美奈が放った一言に、背筋が凍りついた。
「ママ見てこれ! 新しいお人形またもらったのー。じゃーん!」
美奈がポケットから取り出した“それ”を見て、息が止まりかけた。
黄土色の肌。
黒髪の女。
よく見ればそれは、自分に似ているような気がした。
人形と目が合って、“彼女”の口がにゅるりと持ち上がる。
その刹那、私の意識はふっと途絶えた。



