子どもにも分かるようにゆっくりと彼の目を見つめながら軽く注意をすると、夕真くんは今度は小さく首を横に振った。

「……家に置いてたらママに捨てられちゃうから」

「ママに?」

 はて、と首を傾げる。
 夕真くんのお母さんはそんなに厳しいひとだっただろうか。
 いつも夕真くんの送り迎えの際はバタバタとしていてあまり実のある会話ができたことはないが、それでも「いつも本当にありがとうございます」とへこへことこちらが恐縮してしまうぐらい頭を下げてくるところを見ると、腰が低くて優しい母親だと思う。夕真くんを迎えに来る際にも、「今日も遅くなってごめんね〜ただいま!」と笑顔で彼のことを抱きしめている。きっと、夕真くんに寂しい思いをさせていることに申し訳ないと思っているのだろう。
 そんな灰谷さんのことだから、夕真くんのカプセルトイを家に置いていたら捨ててしまうというのはあまり理解できなかった。
 もちろん、私が知らない母親の顔だってあると思うけれど……。
 だが、夕真くん自身も、普段からふざけてはしゃぎ回ったりするようなタイプの子どもではない。危険な遊びをすることもないだろうに、捨てられるとはどういうことだろうか。

「ママ、おうちで厳しいの?」

 今度は首を捻る。「厳しい」という言葉の意味がよく分からなかったようだ。

「えっと、ママはよくおうちで怒る?」

「ううん、いつもは怒らない。でもこの人形見たら怒る」

「そうなんだ。どうしてだろう? この人形を投げて遊んだりしたのかな」

「投げてない。ふつうに持ってるだけ」

「ふうん」

 夕真くんの言葉をそのまま信じるなら、このカプセルトイの人形が気に食わなくて、夕真くんが持っていたら怒るということになる。
 まあ確かに、気味が悪いと言えばそうだけど……。
 でも、持っているだけで怒るほどのものだろうか。
 目に障るなら夕真くんが見ていない隙にこっそり捨ててしまえばいいだけだろうに。
 疑問に思ったが、それ以上夕真くんを問い詰めたところで、疑問が解消されることはないだろうと思って諦める。そのうち他の園児たちが登園してくると、彼らの面倒を見なければならなくなり、夕真くんのカプセルトイどころではなくなった。