〜株式会社ファンスタジオ元社員Tさんへのインタビュ〜
——今日は、株式会社ファンスタジオが製造した『願いを叶えるカプセルトイ』についてお伺いしたいと思います。まずは簡単な自己紹介をお願いできますか?
T「はい。私は株式会社ファンスタジオの元社員で、商品開発部に所属していたTと申します」
——商品開発部とは具体的に何をする部署なのでしょうか。
T「読んで字の如く、ですよ。ファンスタジオはおもちゃメーカーなので、新しいおもちゃをどんどん企画、開発していく部署です」
——分かりました。その中で、『願いを叶えるカプセルトイ』もTさんが所属する商品開発部が企画されたということですね。
T「はい、そうです。最初に提案をしてきたのはH部長です。H部長は子どもがお小遣いで誰でも楽しむことができるカプセルトイをこれから多くつくっていきたいと言っていました。その中で、『願いを叶えるカプセルトイ』という名目で売り出すのはどうかと提案したんです。カプセルトイを楽しんでやってもらいたい。カプセルトイ文化をもっと日本に根付かせたいという思いが強かったようで、私たち商品開発部の人間も、部長の熱弁を聞いて、いいんじゃないかと思いましたね」
——それで、例の広告が作られてたんですね。
T「ああ、あの広告ですね……。じつは私たちが話し合ったものと別の内容になっていたんですよ」
——とういうと?
T「私たちはあくまで、『願いを叶えるかもしれない』というニュアンスで、断定表現は避けるようにお願いしたんですけどね。いつのまにか『必ず願いを叶える』という表現に変えられていて。しかも、チェックの段階で商品開発部まで話が回ってこなかったんですよ。知らない間に広告が完成していたんです。普段はそんなことないと思うんですけど、あの時の社内の対応はちょっといけなかったと思います」
——あの誇大広告が原因で、商品の製造自体中止になったんですね。
T「いや……広告のせいってわけじゃないですね。じつはあのカプセルトイを実験的に設置した川崎市の住人からクレーム……というか、怪文書のようなものが届きまして」
——怪文書? どんな内容でしょうか。
T「『うちの子がおたくが製造した“願いを叶えるカプセルトイ”ができなくて、仲間外れにされていじめに発展した』と。さらに何通も届いて、『我が子が自殺した』『うちは貧乏で子どもにお小遣いをあげられなかった。“願いを叶えるカプセルトイ”なんてもののせいで、命を落としたんだ』と。それから、『絶対に許せない』『許せない許せない許せない』って、どんどん感情を爆発させていって。みんなでニュースで確認したのですが、カプセルトイが原因で子どもがいじめられて自殺したというニュースは見つかりませんでした。だから、クレームを入れたいがために作り話をしてるんじゃないかという結論に至ったのですが……そのあとに」
——『願いを叶えるカプセルトイ』で呪われるという噂が出てきたんですね。
T「そうなんです。カプセルトイの人形を誰かに取られたりなくしたりしたら逆に呪われてしまう……そんな噂が広がって、実際に川崎市内で妙な亡くなり方をするひとまで現れて。『縮小事件』って覚えてますか? あの事件の被害者の女性の子どもが、例のカプセルトイをやっていたそうです。そこからまた事件が相次いでしまって……カプセルトイの製造は中止になりました」
——そういう経緯があったんですね。では、もうその『願いを叶えるカプセルトイ』は川崎市内にはないということですね。
T「はい。すべて撤去したのでないはずです」
——そうですか。あれ、でもおかしいな。確かあの広告を提供してくれた商店の前に……。
T「どうかされましたか?」
——いえ。おそらく記憶違いだと思います。あの日は急いでいたし、たぶん見間違いかな。本日はありがとうございました!
T「いえ、こちらこそありがとうございました」
この後、広告を提供してくれた商店へと再び訪ねたが、『願いを叶えるカプルトイ』は二十年以上前にファンスタジオによって撤去されたそうだ。だとすれば、今も噂になっている『願いを叶えるカプセルトイ』はどこにあるのだろうか……。もしかして、“見えるひと”には見えるカプセルトイなのかもしれないと思うと、寒気を覚えずにはいられなかった。
『願いを叶えるカプセルトイ』の秘密を暴く!/月刊『秘密基地』2022年5月号/ライター:飯沼賢治
——今日は、株式会社ファンスタジオが製造した『願いを叶えるカプセルトイ』についてお伺いしたいと思います。まずは簡単な自己紹介をお願いできますか?
T「はい。私は株式会社ファンスタジオの元社員で、商品開発部に所属していたTと申します」
——商品開発部とは具体的に何をする部署なのでしょうか。
T「読んで字の如く、ですよ。ファンスタジオはおもちゃメーカーなので、新しいおもちゃをどんどん企画、開発していく部署です」
——分かりました。その中で、『願いを叶えるカプセルトイ』もTさんが所属する商品開発部が企画されたということですね。
T「はい、そうです。最初に提案をしてきたのはH部長です。H部長は子どもがお小遣いで誰でも楽しむことができるカプセルトイをこれから多くつくっていきたいと言っていました。その中で、『願いを叶えるカプセルトイ』という名目で売り出すのはどうかと提案したんです。カプセルトイを楽しんでやってもらいたい。カプセルトイ文化をもっと日本に根付かせたいという思いが強かったようで、私たち商品開発部の人間も、部長の熱弁を聞いて、いいんじゃないかと思いましたね」
——それで、例の広告が作られてたんですね。
T「ああ、あの広告ですね……。じつは私たちが話し合ったものと別の内容になっていたんですよ」
——とういうと?
T「私たちはあくまで、『願いを叶えるかもしれない』というニュアンスで、断定表現は避けるようにお願いしたんですけどね。いつのまにか『必ず願いを叶える』という表現に変えられていて。しかも、チェックの段階で商品開発部まで話が回ってこなかったんですよ。知らない間に広告が完成していたんです。普段はそんなことないと思うんですけど、あの時の社内の対応はちょっといけなかったと思います」
——あの誇大広告が原因で、商品の製造自体中止になったんですね。
T「いや……広告のせいってわけじゃないですね。じつはあのカプセルトイを実験的に設置した川崎市の住人からクレーム……というか、怪文書のようなものが届きまして」
——怪文書? どんな内容でしょうか。
T「『うちの子がおたくが製造した“願いを叶えるカプセルトイ”ができなくて、仲間外れにされていじめに発展した』と。さらに何通も届いて、『我が子が自殺した』『うちは貧乏で子どもにお小遣いをあげられなかった。“願いを叶えるカプセルトイ”なんてもののせいで、命を落としたんだ』と。それから、『絶対に許せない』『許せない許せない許せない』って、どんどん感情を爆発させていって。みんなでニュースで確認したのですが、カプセルトイが原因で子どもがいじめられて自殺したというニュースは見つかりませんでした。だから、クレームを入れたいがために作り話をしてるんじゃないかという結論に至ったのですが……そのあとに」
——『願いを叶えるカプセルトイ』で呪われるという噂が出てきたんですね。
T「そうなんです。カプセルトイの人形を誰かに取られたりなくしたりしたら逆に呪われてしまう……そんな噂が広がって、実際に川崎市内で妙な亡くなり方をするひとまで現れて。『縮小事件』って覚えてますか? あの事件の被害者の女性の子どもが、例のカプセルトイをやっていたそうです。そこからまた事件が相次いでしまって……カプセルトイの製造は中止になりました」
——そういう経緯があったんですね。では、もうその『願いを叶えるカプセルトイ』は川崎市内にはないということですね。
T「はい。すべて撤去したのでないはずです」
——そうですか。あれ、でもおかしいな。確かあの広告を提供してくれた商店の前に……。
T「どうかされましたか?」
——いえ。おそらく記憶違いだと思います。あの日は急いでいたし、たぶん見間違いかな。本日はありがとうございました!
T「いえ、こちらこそありがとうございました」
この後、広告を提供してくれた商店へと再び訪ねたが、『願いを叶えるカプルトイ』は二十年以上前にファンスタジオによって撤去されたそうだ。だとすれば、今も噂になっている『願いを叶えるカプセルトイ』はどこにあるのだろうか……。もしかして、“見えるひと”には見えるカプセルトイなのかもしれないと思うと、寒気を覚えずにはいられなかった。
『願いを叶えるカプセルトイ』の秘密を暴く!/月刊『秘密基地』2022年5月号/ライター:飯沼賢治



