「どういうことよこれ……」
翌朝、六時半ごろに「預かり室」に誰よりも早く到着した私は、昨日設置しておいた「見守りカメラ」を回収する。撮影されている映像の中でなんと、人形が教室の中を動き回ったり、人形の大きさが大きくなったりするのを見てしまった。人形がカメラに近づいてきたところで思わず悲鳴を上げて、カメラを投げ捨ててしまう。人形は昨日と同じように床に転がっていた。
「間違いない……この人形、呪われてるんだわ」
確信した私は、意を決して人形を拾い、そのままゴミ箱に捨てる。ゴミ袋の端を括り、ゴミ捨て場に持っていった。ちょうど今日の九時ごろ、ゴミ収集車が可燃ゴミを回収してくれることになっている。燃やしてしまえばきっと大丈夫なはずだ……。
勝手に捨てたら夕真くんが悲しむのは目に見えていた。だけど、これ以上あの人形を夕真くんの元に置いておくのは危険すぎる。
あの子にまで怪異が及んでしまったら……。
いや、本当はもうとっくに、夕真くんはおかしくなっているのかもしれないけれど……。でもだからこそ、私には園児の安全を守る義務がある。他の子たちだって、このままにしておいたらいつ呪いの影響を受けてしまうか分からない。
その日、無事にゴミ捨てを終えた私は、何食わぬ顔で仕事に入った。母親に連れられてやってきた夕真くんが「人形はどこ?」と私に尋ねてきた。
「先生は知らないよ。おうちに置いてきたんじゃないの?」
「ちがう。おうちになかった。昨日保育園に忘れたの」
「そう? でも教室にはなかったよ。道で落としちゃったんじゃないのかな」
「……」
彼は不服そうな顔をしていたが、これ以上私に尋ねても無駄だと思ったのか、何も言わずに部屋の中のおもちゃで遊び始めた。
……良かった。とりあえず、夕真くんをあの人形から引き離すことができたんだ。
その日、私は事務仕事をするかたわら、スマホでカプセルトイにまつわる事件などが起きていないかを調べ始めた。
「カプセルトイ 事件」「カプセルトイ 怪談」「カプセルトイ 呪い」——様々なワードを組み合わせて検索をかけたが、カプセルトイにまつわる不穏な話はなかなか引っ掛からなかった。それもそうか。事件なんて、起きるはずがない。ほっと一安心しつつ、検索画面を閉じようとした手がふと止まる。
「『呪いのカプセルトイ』……?」
それは、よくネットで目にする匿名掲示板だった。怪談話をするスレッドが集められており、そこに気になるタイトルを見かけたのだ。
『実在する呪いのカプセルトイ』。
「カプセルトイ」と「呪い」という二つの言葉に、サーッと血の気が引いていくような心地がした。誘われるようにしてそのスレッドをタップする。
そして、ゆっくりとスレッドに目を通し始めた。
翌朝、六時半ごろに「預かり室」に誰よりも早く到着した私は、昨日設置しておいた「見守りカメラ」を回収する。撮影されている映像の中でなんと、人形が教室の中を動き回ったり、人形の大きさが大きくなったりするのを見てしまった。人形がカメラに近づいてきたところで思わず悲鳴を上げて、カメラを投げ捨ててしまう。人形は昨日と同じように床に転がっていた。
「間違いない……この人形、呪われてるんだわ」
確信した私は、意を決して人形を拾い、そのままゴミ箱に捨てる。ゴミ袋の端を括り、ゴミ捨て場に持っていった。ちょうど今日の九時ごろ、ゴミ収集車が可燃ゴミを回収してくれることになっている。燃やしてしまえばきっと大丈夫なはずだ……。
勝手に捨てたら夕真くんが悲しむのは目に見えていた。だけど、これ以上あの人形を夕真くんの元に置いておくのは危険すぎる。
あの子にまで怪異が及んでしまったら……。
いや、本当はもうとっくに、夕真くんはおかしくなっているのかもしれないけれど……。でもだからこそ、私には園児の安全を守る義務がある。他の子たちだって、このままにしておいたらいつ呪いの影響を受けてしまうか分からない。
その日、無事にゴミ捨てを終えた私は、何食わぬ顔で仕事に入った。母親に連れられてやってきた夕真くんが「人形はどこ?」と私に尋ねてきた。
「先生は知らないよ。おうちに置いてきたんじゃないの?」
「ちがう。おうちになかった。昨日保育園に忘れたの」
「そう? でも教室にはなかったよ。道で落としちゃったんじゃないのかな」
「……」
彼は不服そうな顔をしていたが、これ以上私に尋ねても無駄だと思ったのか、何も言わずに部屋の中のおもちゃで遊び始めた。
……良かった。とりあえず、夕真くんをあの人形から引き離すことができたんだ。
その日、私は事務仕事をするかたわら、スマホでカプセルトイにまつわる事件などが起きていないかを調べ始めた。
「カプセルトイ 事件」「カプセルトイ 怪談」「カプセルトイ 呪い」——様々なワードを組み合わせて検索をかけたが、カプセルトイにまつわる不穏な話はなかなか引っ掛からなかった。それもそうか。事件なんて、起きるはずがない。ほっと一安心しつつ、検索画面を閉じようとした手がふと止まる。
「『呪いのカプセルトイ』……?」
それは、よくネットで目にする匿名掲示板だった。怪談話をするスレッドが集められており、そこに気になるタイトルを見かけたのだ。
『実在する呪いのカプセルトイ』。
「カプセルトイ」と「呪い」という二つの言葉に、サーッと血の気が引いていくような心地がした。誘われるようにしてそのスレッドをタップする。
そして、ゆっくりとスレッドに目を通し始めた。



