昼休みが終わりなのはな組の教室へと戻る。
 昼寝から目を覚ました子どもたちがきょろきょろと辺りを見回していた。

「せんせー、あのおもちゃは?」

 背筋がぞくりとした。先ほど母親がクレームメールを送ってきていた歩美ちゃんという子だ。

「おもちゃって……なんのことかな」

 私はとぼけたふりをして答える。

「夢の中でゆうまくんが持ってきてくれた。またあれで遊びたいっ」

「……」

 なんということだろう。他の子の夢の中にまで、夕真くんのカプセルトイの人形が出てくるなんて。目の前に人形があるわけでもないのに、どこからともなく虚ろな目をした人形の視線を感じてはっと振り返る。

「ねえないの? あゆみ、ほしいー!!」

 わーっと喚き始める歩美ちゃんを、私と綾瀬先生でなんとかなだめる。歩美ちゃん以外にも、「ゆうまくんの人形がみたい」「ゆうまくんどうしていないの」「人形は?」と声を上げる子どもたちが続出した。収拾がつかない事態に陥って、慌てて園長に電話をかける。飛んできた園長が、「はいはいみんな、しずかにして」と威厳を持ってその場を制してくれた。

「綾瀬先生、花村先生。できるだけ子どもたちにカプセルトイのことを思い出させないように注意してください」

「はい……すみませんでした」

 いくら注意をしたところで、こちらが話題に出してもいないのに子どもたちのほうからカプセルトイを求めてくるのだ。不可抗力だ、と思いつつも、綾瀬先生に「まあいったん落ち着きましょう」と背中を撫でられて、なんとか気持ちを紛らわせるのだった。