【うちの子が、夕真くんが持ってきているカプセルトイの人形が欲しいとずっとわがままを言っています。なんとかしてくれませんか?】

【灰谷さんのところの子が私物を持ってきているそうですね。歩美(あゆみ)も気にしてるので、早く持ってこないように指導していただけませんか?】

【昨日、保育園で誰かが持ってきたカプセルトイの人形を取り合いになったと子どもから聞きました。子どもたちが怪我でもしたらどうしてくれるんですか!】

【母子家庭だからといって甘くするのは差別だと思います】

【息子がカプセルトイが欲しい欲しいって聞かないんです。つい怒鳴ってしまいます。どうして私が息子を叱らなくちゃいけないんでしょうか】

 淡々と怒りを滲ませているものから、感情的なものまで、メッセージは全部で五件入っていた。

「はあ……」

 メッセージを読んで、想像以上にダメージを喰らっていることに気づく。

「どうされたんですか、花村先生」

 私があまりにどんよりと肩を落としているのを見かねたのか、綾瀬先生が声をかけてくれた。綾瀬先生は同じなのはな組の担任だ。彼女にも伝えないわけにはいかない。

「あの、じつは夕真くんのことでクレームが数件来てて……」

「ああ、そういえばそうだったわ。その件について返信をしなくちゃと思ってたのよ」

「そうだったんですね。昨日、灰谷さんには口頭でも私物を持ってこないように注意しましたし、うちにできることはしているつもりなんですが」

「そうですね。それ以上のことは言えないので、ありのまま伝えることにしましょう。一斉送信で他の保護者の方にも注意喚起するかたちでメッセージを送りましょうか」

「は、はい。そうします」

 綾瀬先生に相談したことで、驚くほどあっさりと対応が決まってしまった。そうだ。クレームの一つ一つに心を砕いていたらこの仕事は務まらない。こちらはしかるべき対応をしたのだから、堂々としていればいいのだ。
 気を取り直して、保護者への一斉送信用のメッセージを作成する。

【保護者の皆様へ
先日なのはな組で、私物のおもちゃを持ってきている方がいらっしゃいましたので、保護者の方に持ってこないように説明をいたしました。
なくしたり取り合いになって壊れたりするとこちらでは責任をとりねますので、私物は持ってこないように、皆様にも今一度ルールの確認をよろしくお願いいたします。】

 あくまでもこちらに非はないのだということを主張するようなかたちで文面をつくり、ダブルチェックをしてもらった上で一斉送信した。
 謝らなくてはいけない場面とそうではない場面をしっかり分けることで、保護者と保育士の間で対等な関係を築くことができる。綾瀬先生に相談して良かった。メールを送信してから、クレームを入れてきた保護者からも特に返信など来ることもなく、事は穏便に済んだとほっとしていた。