◆
夏休みに入ると、ゆきちゃんのお葬式が執り行われた。
ゆきちゃんを慕っていた人がたくさん集まり、ゆきちゃんを見送った。
その中でも一番泣いていたのは、鈴ちゃんだった。でも、声を殺してまっすぐ前を見つめていた。それが鈴ちゃんの強さなんだと思うと、少しだけ羨ましいとさえ思った。
帰り際には睨みつけられたけれど。
――疫病神。
夢奏のことを知った後に言われた言葉は、強く脳内にこびりついている。
本当にその通りだと思う。私のせいで、鈴ちゃんの周りを壊してしまったのだから。
ちなみに、鈴ちゃんにだけは“Y”の正体を明かした。そのときのなんとも言えない表情は、きっとしばらく忘れられないだろう。
そして、クラスメイトたちにはなにも言っていない。
遥香の居心地の悪さを改善するには真実を明かすことが最善だとわかっていても、できなかった。夢奏のことをすべて包み隠さず言ってしまったら、きっと遠慮ない言葉が飛び交うことになる。遥香にも容赦なかった人たちだ。どれだけ夢奏のことを叩くのか、考えただけでも恐ろしい。
「おお、こわ」
鈴ちゃんの視線に反応したのは、隣にいる遥香だった。
夢奏のことを隠すことになった結果、遥香は学校での居場所を完全に失い、自主退学をしてしまった。
――まあ、あの学校じゃないといけない理由もないし、気にしないで。
夢奏のことを秘密にしていたいと伝えたとき、遥香はそう言って笑った。
でも、それで「はい、わかりました」なんて言えるわけもなく、私も学校を辞めた。
それを知ったとき、遥香は驚いた顔を見せたけど、すぐに呆れたように笑って「仲良く青春のやり直しでもする?」と言ってくれた。
それにしても、遥香がゆきちゃんのお葬式に参列するなんて、思ってもいなかった。
――……篠崎優希音は、ずっと莉々愛のことを守ろうとしてくれていたでしょ。それがこんなことになって……ありがとうと、お疲れさまって言いたくて。
今朝、マンションで出くわしたとき、遥香はそう語った。
それを聞いて、私も背筋が伸びた。
本当はつらくて、家からも出たくなかった。
だけど、ゆきちゃんと言葉を交わす最後のチャンスなんだって気付かされたから。私だって、ゆきちゃんに伝えたいことがたくさんあるから。
悲しみは今でも消えない。私のせいって考えも消えない。
出会ってしまってごめんなさいって思う瞬間もある。
だけど、どうしても、ゆきちゃんと出会わなければよかったとは思えなかった。
偽りで塗り固めた日常がニセモノじゃなかったんだと思えたのは、ゆきちゃんのおかげだから。私は、何度もゆきちゃんに支えられたから。
ありがとう、ゆきちゃん。ずっと、守ってくれて。ゆきちゃんが味方でいてくれて、心強かった。
もっと本音を言えていたらって後悔はたくさんある。
そうすれば、夢奏の心の叫びにも気付けたかもしれないって。
でも、どれだけ願っても、過去はやり直せないから。
だから、ゆきちゃんの強さと優しさ、夢奏の弱さを心に刻んで、私は正直に生きていこうと思う。
それを見守ってくれると嬉しい。
「……さよなら」
私はそっと、入道雲が流れる青空に呟いた。
穏やかに空を泳ぐ雲が、ゆきちゃんに私の声を届けてくれるみたいで、その行く先を見つめる。
「莉々愛ー?」
すると、少し離れた場所から遥香が私の名前を呼んだ。
空に視線を戻せば、私が見つめていた雲を見失ってしまった。
私の言葉、ゆきちゃんに届いたのかな。届いているといいな。
「今行く!」
遥香を追いかけた足取りは、ほんの少しだけ軽くなっていた。
夏休みに入ると、ゆきちゃんのお葬式が執り行われた。
ゆきちゃんを慕っていた人がたくさん集まり、ゆきちゃんを見送った。
その中でも一番泣いていたのは、鈴ちゃんだった。でも、声を殺してまっすぐ前を見つめていた。それが鈴ちゃんの強さなんだと思うと、少しだけ羨ましいとさえ思った。
帰り際には睨みつけられたけれど。
――疫病神。
夢奏のことを知った後に言われた言葉は、強く脳内にこびりついている。
本当にその通りだと思う。私のせいで、鈴ちゃんの周りを壊してしまったのだから。
ちなみに、鈴ちゃんにだけは“Y”の正体を明かした。そのときのなんとも言えない表情は、きっとしばらく忘れられないだろう。
そして、クラスメイトたちにはなにも言っていない。
遥香の居心地の悪さを改善するには真実を明かすことが最善だとわかっていても、できなかった。夢奏のことをすべて包み隠さず言ってしまったら、きっと遠慮ない言葉が飛び交うことになる。遥香にも容赦なかった人たちだ。どれだけ夢奏のことを叩くのか、考えただけでも恐ろしい。
「おお、こわ」
鈴ちゃんの視線に反応したのは、隣にいる遥香だった。
夢奏のことを隠すことになった結果、遥香は学校での居場所を完全に失い、自主退学をしてしまった。
――まあ、あの学校じゃないといけない理由もないし、気にしないで。
夢奏のことを秘密にしていたいと伝えたとき、遥香はそう言って笑った。
でも、それで「はい、わかりました」なんて言えるわけもなく、私も学校を辞めた。
それを知ったとき、遥香は驚いた顔を見せたけど、すぐに呆れたように笑って「仲良く青春のやり直しでもする?」と言ってくれた。
それにしても、遥香がゆきちゃんのお葬式に参列するなんて、思ってもいなかった。
――……篠崎優希音は、ずっと莉々愛のことを守ろうとしてくれていたでしょ。それがこんなことになって……ありがとうと、お疲れさまって言いたくて。
今朝、マンションで出くわしたとき、遥香はそう語った。
それを聞いて、私も背筋が伸びた。
本当はつらくて、家からも出たくなかった。
だけど、ゆきちゃんと言葉を交わす最後のチャンスなんだって気付かされたから。私だって、ゆきちゃんに伝えたいことがたくさんあるから。
悲しみは今でも消えない。私のせいって考えも消えない。
出会ってしまってごめんなさいって思う瞬間もある。
だけど、どうしても、ゆきちゃんと出会わなければよかったとは思えなかった。
偽りで塗り固めた日常がニセモノじゃなかったんだと思えたのは、ゆきちゃんのおかげだから。私は、何度もゆきちゃんに支えられたから。
ありがとう、ゆきちゃん。ずっと、守ってくれて。ゆきちゃんが味方でいてくれて、心強かった。
もっと本音を言えていたらって後悔はたくさんある。
そうすれば、夢奏の心の叫びにも気付けたかもしれないって。
でも、どれだけ願っても、過去はやり直せないから。
だから、ゆきちゃんの強さと優しさ、夢奏の弱さを心に刻んで、私は正直に生きていこうと思う。
それを見守ってくれると嬉しい。
「……さよなら」
私はそっと、入道雲が流れる青空に呟いた。
穏やかに空を泳ぐ雲が、ゆきちゃんに私の声を届けてくれるみたいで、その行く先を見つめる。
「莉々愛ー?」
すると、少し離れた場所から遥香が私の名前を呼んだ。
空に視線を戻せば、私が見つめていた雲を見失ってしまった。
私の言葉、ゆきちゃんに届いたのかな。届いているといいな。
「今行く!」
遥香を追いかけた足取りは、ほんの少しだけ軽くなっていた。



