穂香が羨ましそうに人々の行く先を見ていた。どこからともなくお囃子が小さく聞こえた。お囃子の行列が既に演奏を始めているからかもしれない。まだ小さくしか聞こえないのに、うだるような暑さはお祭りの浮かれた空気も含ませていた。
「お祭りって、八時とかまでだっけ?」
奏はいつの間にか取り出したロリポップの包装をとって、口に入れていた。ラムネ以外にロリポップも買っていたとは。真紀は奏の横顔を見てから、もう一度お祭り会場に向かって歩く人たちを見た。
「そんなところじゃない?」
「あー、いいなぁ」
受験勉強のストレスを吐き出すように、穂香はいつもより大きな声で言った。こうも勉強ばかりでは、ストレスもたまる。どうにかしてストレス解消をしながら戦い抜くのも受験生のすべきことだった。
でも、来年の入試を乗り越えた先には。
「来年」
真紀が言った言葉が上手く聞き取れなかったのか、奏と穂香が真紀を不思議そうに見た。
「来年、来ようよ。小銭いっぱい持ってさ」
「その時はさすがにペイペイできててほしいよね」
「確かに」
顔を合わせて、三人はひとしきり笑った。
アナログなお祭りが少しでもデジタルになるように祈ってから、三人はゆっくりと歩く人の流れに逆らうように歩き出した。
駅東口側に向かっていると、浮かれた空気に当てられた人たちを横目に見た。
「明日はどこで勉強する? 予備校は明日も休みだよね」
明日の集合時間やお昼ご飯について話していると、やがて希望大学の話に移っていった。三人で集まることは多くても、志望している大学や学部は違っていた。
穂香は都内の私立大、奏は都内の国立大、そして真紀は。
「え、関西?」
「やりたい勉強がそっちにあるから」
「寂しいよぉ。すぐに会えないじゃん」
「でも、休みは帰って来るし」
「約束だよ、絶対ね」
まだ見えぬ進学先に想いを馳せながら歩いていると、LRTの乗り場に降りられる階段横で男子高校生がスマホを見ながら立っていた。どこかそわそわしている様子からすると、誰かと待ち合わせだろうか。
カンカンカン。
LRT乗り場から階段で上がってくる音が聞こえると、彼はぱっと綻ばせた顔を上げた。
青紫に白色のアジサイ柄の浴衣をきた女性が、片手を挙げて彼に近づいてきた。涼やかな音をさせている足元は下駄だった。
おまたせ。こっちも今来たところ。
恋人定番のやりとりをしながら、二人は腕を組んで歩き出していった。受験生ではないのか。羨ましい限りのシチュエーションだ。
「お祭りって、八時とかまでだっけ?」
奏はいつの間にか取り出したロリポップの包装をとって、口に入れていた。ラムネ以外にロリポップも買っていたとは。真紀は奏の横顔を見てから、もう一度お祭り会場に向かって歩く人たちを見た。
「そんなところじゃない?」
「あー、いいなぁ」
受験勉強のストレスを吐き出すように、穂香はいつもより大きな声で言った。こうも勉強ばかりでは、ストレスもたまる。どうにかしてストレス解消をしながら戦い抜くのも受験生のすべきことだった。
でも、来年の入試を乗り越えた先には。
「来年」
真紀が言った言葉が上手く聞き取れなかったのか、奏と穂香が真紀を不思議そうに見た。
「来年、来ようよ。小銭いっぱい持ってさ」
「その時はさすがにペイペイできててほしいよね」
「確かに」
顔を合わせて、三人はひとしきり笑った。
アナログなお祭りが少しでもデジタルになるように祈ってから、三人はゆっくりと歩く人の流れに逆らうように歩き出した。
駅東口側に向かっていると、浮かれた空気に当てられた人たちを横目に見た。
「明日はどこで勉強する? 予備校は明日も休みだよね」
明日の集合時間やお昼ご飯について話していると、やがて希望大学の話に移っていった。三人で集まることは多くても、志望している大学や学部は違っていた。
穂香は都内の私立大、奏は都内の国立大、そして真紀は。
「え、関西?」
「やりたい勉強がそっちにあるから」
「寂しいよぉ。すぐに会えないじゃん」
「でも、休みは帰って来るし」
「約束だよ、絶対ね」
まだ見えぬ進学先に想いを馳せながら歩いていると、LRTの乗り場に降りられる階段横で男子高校生がスマホを見ながら立っていた。どこかそわそわしている様子からすると、誰かと待ち合わせだろうか。
カンカンカン。
LRT乗り場から階段で上がってくる音が聞こえると、彼はぱっと綻ばせた顔を上げた。
青紫に白色のアジサイ柄の浴衣をきた女性が、片手を挙げて彼に近づいてきた。涼やかな音をさせている足元は下駄だった。
おまたせ。こっちも今来たところ。
恋人定番のやりとりをしながら、二人は腕を組んで歩き出していった。受験生ではないのか。羨ましい限りのシチュエーションだ。



