「そうかも。この後行く?」
「でも、お金がさ」
食堂の端っこで荷物の整理をしている運動部員が楽し気にお祭りの屋台で食べるものを話し始めた。りんご飴、焼きそば、かき氷、ベビーカステラ。話を聞いているだけでも、口の中に涎が溜まってきてしまう。
「羨ましいぃぃ」
ビリッと大きな音を立てて新しくポテチの小袋を開けた穂香は、目を細めて運動部の子たちを見ている。『ちょい辛? それとも甘辛?』とまたも気になる言葉が並んだポテチだった。いったいどうすればそんな変わったものが目に入って来るのか真紀は気になった。
額をテーブルにつけて、小さく唸り声をあげている穂香にとっては、お祭りのお話をしている子たちが羨ましいのかもしれない。
「お祭りか。今年は全然意識してなかったね」
奏は空っぽになったラムネの包装を鞄にしまい、新しいラムネ菓子を取り出した。メーカー違いなのか、真紀はパッケージを覗き込むと、今度は酸っぱいだけ集めたレモン味のラムネに変わっていることが分かった。
「受験生にはお祭りとか御法度でしょ」
うなり声を上げる隙間から、穂香が低い声で言った。
「でも、今日ってどこのお祭りだっけ?」
「チェックしてないからわかんない。どこでやっているんだっけ?」
穂香と奏の話を聞いていると、真紀の頭の中に、ぱちりとパズルがハマった音がした気がした。
「……百円玉……」
急に目の前が開けたような気がした。まるで長文読解で悩んでいた英文問題で、急に答えが分かったように。
真紀の独り言に、奏と穂香が不思議そうに見てきた。二人とも何かを期待するかのような目で真紀を見ていた。真紀は軽く咳払いをしてから、口を開いた。
「お祭りに小銭って必要じゃない? しかも百円玉」
真紀の言葉に、二人は顔を見合わせて否定する。
「え、そこはペイじゃない?」
「ペイだねぇ」
パチッとハマったパズルのピースが実は違った?
真紀は腕を組みながら運動部員を見た。彼女たちは楽し気にスマホで何かを話している。
自分の記憶を掘り返すように、目を瞑った。だが、三人で行った去年のお祭りの記憶を掘り起こそうにも、真紀は思い出せなかった。穂香を見ても、首を傾げるだけだった。
頼みの綱と言わんばかりに真紀と穂香が奏を見た。奏は記憶力がこの三人の中で一番よく、暗記科目もお手の物だ。二人に頼られるように見られた奏は眉を少し下げながら目を閉じて、コツコツとこめかみを左手の人差し指でゆっくりと叩いた。
考え込んだ奏をじっと待ちながら、真紀も穂香も新しいお菓子をそれぞれの口に運んだ。
周りがざわめいている中、三人が座っている席の場所だけが静かだった。食堂にいる他の生徒たちはお祭りの話、放課後の予定や残りの夏休みの過ごし方など楽しげに話していた。真紀にはなぜか、この場だけがそんな楽し気な雰囲気から切り離されているように感じた。穂香のポテチの咀嚼音だけがやけに耳に響いた。
「……思い出した。確かにお祭りでペイが使えなくて、穂香がりんご飴食べられなくて半泣きしてた」
「してないよっ。……でも、確かにアレは悔しかったわぁ。あんなに赤々とした雨を食べられなかったもんね。しかも三百円がなくて、さ」
そう。お祭りは、何故か百円玉がたくさん必要だった。
「もしかして、奏が見た男子高校生も」
「かもかも! なんか、すっきりしたかも!」
「じゃあ、男子高校生は、お祭りで友達と遊ぶために、両替をしていたが結論だね」
キレイにお菓子の包装を畳み終えた奏が、すっきりしたような顔で言った。いつの間に、封を開けたばかりだったはずのラムネを食べ終えていたのか、真紀にはわからなかった。
「だね。結論も出せたし、勉強再開しようか」
頭を使ったお菓子タイムは、無事に結論を出すことができ、三人とも充足感を得て終わった。
「でも、お金がさ」
食堂の端っこで荷物の整理をしている運動部員が楽し気にお祭りの屋台で食べるものを話し始めた。りんご飴、焼きそば、かき氷、ベビーカステラ。話を聞いているだけでも、口の中に涎が溜まってきてしまう。
「羨ましいぃぃ」
ビリッと大きな音を立てて新しくポテチの小袋を開けた穂香は、目を細めて運動部の子たちを見ている。『ちょい辛? それとも甘辛?』とまたも気になる言葉が並んだポテチだった。いったいどうすればそんな変わったものが目に入って来るのか真紀は気になった。
額をテーブルにつけて、小さく唸り声をあげている穂香にとっては、お祭りのお話をしている子たちが羨ましいのかもしれない。
「お祭りか。今年は全然意識してなかったね」
奏は空っぽになったラムネの包装を鞄にしまい、新しいラムネ菓子を取り出した。メーカー違いなのか、真紀はパッケージを覗き込むと、今度は酸っぱいだけ集めたレモン味のラムネに変わっていることが分かった。
「受験生にはお祭りとか御法度でしょ」
うなり声を上げる隙間から、穂香が低い声で言った。
「でも、今日ってどこのお祭りだっけ?」
「チェックしてないからわかんない。どこでやっているんだっけ?」
穂香と奏の話を聞いていると、真紀の頭の中に、ぱちりとパズルがハマった音がした気がした。
「……百円玉……」
急に目の前が開けたような気がした。まるで長文読解で悩んでいた英文問題で、急に答えが分かったように。
真紀の独り言に、奏と穂香が不思議そうに見てきた。二人とも何かを期待するかのような目で真紀を見ていた。真紀は軽く咳払いをしてから、口を開いた。
「お祭りに小銭って必要じゃない? しかも百円玉」
真紀の言葉に、二人は顔を見合わせて否定する。
「え、そこはペイじゃない?」
「ペイだねぇ」
パチッとハマったパズルのピースが実は違った?
真紀は腕を組みながら運動部員を見た。彼女たちは楽し気にスマホで何かを話している。
自分の記憶を掘り返すように、目を瞑った。だが、三人で行った去年のお祭りの記憶を掘り起こそうにも、真紀は思い出せなかった。穂香を見ても、首を傾げるだけだった。
頼みの綱と言わんばかりに真紀と穂香が奏を見た。奏は記憶力がこの三人の中で一番よく、暗記科目もお手の物だ。二人に頼られるように見られた奏は眉を少し下げながら目を閉じて、コツコツとこめかみを左手の人差し指でゆっくりと叩いた。
考え込んだ奏をじっと待ちながら、真紀も穂香も新しいお菓子をそれぞれの口に運んだ。
周りがざわめいている中、三人が座っている席の場所だけが静かだった。食堂にいる他の生徒たちはお祭りの話、放課後の予定や残りの夏休みの過ごし方など楽しげに話していた。真紀にはなぜか、この場だけがそんな楽し気な雰囲気から切り離されているように感じた。穂香のポテチの咀嚼音だけがやけに耳に響いた。
「……思い出した。確かにお祭りでペイが使えなくて、穂香がりんご飴食べられなくて半泣きしてた」
「してないよっ。……でも、確かにアレは悔しかったわぁ。あんなに赤々とした雨を食べられなかったもんね。しかも三百円がなくて、さ」
そう。お祭りは、何故か百円玉がたくさん必要だった。
「もしかして、奏が見た男子高校生も」
「かもかも! なんか、すっきりしたかも!」
「じゃあ、男子高校生は、お祭りで友達と遊ぶために、両替をしていたが結論だね」
キレイにお菓子の包装を畳み終えた奏が、すっきりしたような顔で言った。いつの間に、封を開けたばかりだったはずのラムネを食べ終えていたのか、真紀にはわからなかった。
「だね。結論も出せたし、勉強再開しようか」
頭を使ったお菓子タイムは、無事に結論を出すことができ、三人とも充足感を得て終わった。



