頭を使うお菓子タイムはいかが?

 真紀はチョコレート菓子を口にくわえながら、ぼんやりと天井を見た。設立が古いせいか、日焼けしていた。

「自動販売機、購買?」
「他に使う機会がないよねぇ。ていうか、ジャラジャラ聞こえるくらいなら、相当両替してるよね。何に使うのかな」

 奏も穂香も首を傾げながら、次のお菓子に手を伸ばした。女子高生が小銭を使う機会は本当に限られている。お父さんもお母さんも買い物はクレジットかスマホ決済が多い。

「ジャラジャラ、かぁ。これがミステリーなら、小銭を靴下にたくさん入れて鈍器ってやるのにね」

 唐突に穂香が言った言葉は殺伐としていた。見た目に反してミステリーやホラーが好きな穂香らしい。真紀は思わず苦笑した。

「男子高校生がそれするの無理ない?」
「誰を襲うんだろうねぇ。同級生? それとも不倫相手?」
「穂香、ドロドロ恋愛ドラマの観すぎじゃない?」

 奏が真紀と同じように苦笑しながら、口の中でラムネを遊ばせていた。からかってきた奏を見ながら、穂香は口を尖らせた。

「だってさ、ここまで来るとドロドロ恋愛か殺人事件が定番でしょ?」
「さすがにこの平和な町でそんなこと起きたら、それこそミステリーでしょ。それより頭を使うお菓子タイムなんだから、もうちょっとさ」
「そうは言うけど、奏はもう何か閃いているんじゃないの?」
「なんで、わざわざLRTで両替したんだろうって思っただけだよ。今思い出したら、不思議だなぁって思って話のネタに出してみたんだよ」

 確かに。
 真紀はノートの端っこに『LRTで両替』と意味もなく書いてみた。世界史のノートの端っこに書くと、急に時代が混ざったように見える。

「普通両替って、ゲーセンとかの両替機を使うじゃん。それが、なんでわざわざLRTでって思ってさ」
「確かに。それほど小銭に困ってたってこと?」
「困るほどのことがLRTに乗ってから気づいたってこと?」
「でも、自動販売機でも購買でも使うことが無いのに、両替する理由は」
「しかも、百円玉でしょ。百円玉欲しがる男子高校生とか」
「百円玉って言うと、ガチャガチャ?」
「それなら、ガチャガチャの近くに両替機ありそうじゃない?」
「そっかぁ。一体男子は何のために百円玉が欲しかったんだろーね」

 三人とも同じように首を傾げて考えていると、部活を終えた一年生や二年生たちが食堂に入ってきた。運動部だろうか、誰も彼もが日に焼けていた。三年生でも部活に残っているのは、運動部で推薦を得るのを目的にしている人くらいだろうか。インターハイに行けば、推薦を貰える可能性は高い。帰宅部を貫いた真紀たち三人の肌は、この三年間焼けたことが無かった。

「ねぇねぇ、今日ってお祭りじゃなかった?」