「春野さん、どうされましたか?」
有田は静かに言った。
「今回二回刺されたとかではありませんか?」
春野は焦って言った。
「いえ、今回は一カ所しか刺された痕(あと)はありませんでした。遺体を調べさせてもらいましたから」
大田が訳ありそうに言った。
「しかし過去に刺された可能性はあります。時間がかなりたっていても、アナフィキラシーショックになる可能性のあるスズメバチの毒が、今回刺される以前にもあったようです」
有田は冷静に言った。
「いつ一回目を刺されたのでしょうかね?」
大嶋は皮肉っぽく言った。春野は冷や汗が止まらなかった。
「春野さん、今回は任意ではありましたが、捜査にご協力ありがとうございました」
有田が代表して春野に礼を言って、三人は彼の屋敷の門を出た。
「大嶋さん、春野さんは何か隠していますよね?」
大田は、得意げに大嶋に言った。
「隠しているな。問題はそれがいつどこでの話かだよ」
大嶋は運転席でハンドルを握り、開けた車の窓の外から、風がパンチパーマを揺らす間に答えた。
「いつ、どこで? あ、そうだ! 平川和正理事長の奥さんに、まだ事情を聞いていませんでしたよね?」
有田は大嶋に言った。
「そうだった! 行くか!」
大嶋は言った
「はい!」
有田と大田は二つ返事をした。
平川和正理事長には、舞(まい)という綺麗な奥さんがいた。横浜市旭区内の未亡人の家に三人はお邪魔して、線香をあげた。
「奥さん、この度はお悔やみ申し上げます」
大嶋は三人を代表して言った。舞はショートヘアで、目がきつい女性に見えた。「それで何が一番知りたいですか? 私と主人はお見合いで結婚しました。しかし主人には、私たちが結婚する前に好きだった女性がいたみたいです。それで私はその女性以上になろうと努力しましたが、結局三十年たってもその方を超えられませんでした」
平川舞はそう言うなり、泣き崩れた。
「いえ、本当に奥さんのことが好きじゃなかったら、三十年も一緒にいられないですよ」
大嶋は、舞を慰めた。
「いえ、お互い世間の体裁を気にして、我慢していただけです! それで何が知りたくて、今日はこちらへ来られたのですか?」
こう言うと、彼女は冷静を取り戻した。
「あのー、ご主人は、今回スズメバチに刺される以前にも、刺されたことがあったのでしょうか?」
有田は尋ねた。
「私たちが結婚する前に刺されて、大変だったみたいで、スズメバチには刺されないように常に気をつけていましたのに。どうして今回あんな雑木林に一人で行ったのか信じられないです」
舞は一気に言った。
「あの日一人で、ご主人は雑木林へ行かれたのですか?」
有田は聞いた。
「えー、そうです。何でも、雑木林に物を隠されたみたいで」
舞は答えた。
「物? それは誰が何のために、そんなところに隠したのでしょうか?」
今度は大田が聞いた。
「嫌がらせですよ。主人は嫌われていましたから。誰が何のために、そんなところに隠したのかは、私には分かりません。ただ初めは、S小学校のほうに向かって行ったのに、徐々に雑木林へと入っていきました。私と主人は何かあったときのために、お互いの場所を、スマホのGPSで分かるようにしていましたから」舞は悔しそうに言った。
「一体ご主人は、誰に嫌われていたのですか?」
大嶋は核心を突こうとした。
「いろんな人からですよ。主人は学校給食に健康志向の物を入れるように指示したのです。しかし健康志向の物ばかりだと、子供たちが嫌いそうな食べ物が増えて、困っている子供もいましたから」
舞は答えた。
「なるほどです。それでご主人に賛同される方と、反対の方と二つに割れていたのですね?」
有田は尋ねた。
「そうです」
舞は答えた。
「反対派の方には、どのような方がいらっしゃいましたか?」
大嶋が聞いた。
「春野副理事長や、理科教師の多田先生、また区役所の菅沼弘和さんなどです」
舞は答えた。大嶋たちが疑いをかけていた三人だった。
「そうですか。分かりました。ありがとうございます」
三人が帰ろうとしたとき、舞は大嶋たちに言った。
「刑事さん、待ってください。もう一つ言わせてください。主人が好きだったのは、恵子(けいこ)ちゃんなの。私の高校時代の同級生で、春野副理事長さんの小中学校時代の同級生なの」
「え、奥さんもう少し詳しく聞かせてくれませんか?」
大嶋は舞に尋ねた。
「恵子ちゃんは、平野(ひらの)さんという方と結婚されたのに、あーいう事件があって! 今もご主人を探しているの。ご主人は、平野啓(けい)太(た)さんよ」
舞は言った。平野啓太は、三人とも聞き覚えのある名前だった。
有田は静かに言った。
「今回二回刺されたとかではありませんか?」
春野は焦って言った。
「いえ、今回は一カ所しか刺された痕(あと)はありませんでした。遺体を調べさせてもらいましたから」
大田が訳ありそうに言った。
「しかし過去に刺された可能性はあります。時間がかなりたっていても、アナフィキラシーショックになる可能性のあるスズメバチの毒が、今回刺される以前にもあったようです」
有田は冷静に言った。
「いつ一回目を刺されたのでしょうかね?」
大嶋は皮肉っぽく言った。春野は冷や汗が止まらなかった。
「春野さん、今回は任意ではありましたが、捜査にご協力ありがとうございました」
有田が代表して春野に礼を言って、三人は彼の屋敷の門を出た。
「大嶋さん、春野さんは何か隠していますよね?」
大田は、得意げに大嶋に言った。
「隠しているな。問題はそれがいつどこでの話かだよ」
大嶋は運転席でハンドルを握り、開けた車の窓の外から、風がパンチパーマを揺らす間に答えた。
「いつ、どこで? あ、そうだ! 平川和正理事長の奥さんに、まだ事情を聞いていませんでしたよね?」
有田は大嶋に言った。
「そうだった! 行くか!」
大嶋は言った
「はい!」
有田と大田は二つ返事をした。
平川和正理事長には、舞(まい)という綺麗な奥さんがいた。横浜市旭区内の未亡人の家に三人はお邪魔して、線香をあげた。
「奥さん、この度はお悔やみ申し上げます」
大嶋は三人を代表して言った。舞はショートヘアで、目がきつい女性に見えた。「それで何が一番知りたいですか? 私と主人はお見合いで結婚しました。しかし主人には、私たちが結婚する前に好きだった女性がいたみたいです。それで私はその女性以上になろうと努力しましたが、結局三十年たってもその方を超えられませんでした」
平川舞はそう言うなり、泣き崩れた。
「いえ、本当に奥さんのことが好きじゃなかったら、三十年も一緒にいられないですよ」
大嶋は、舞を慰めた。
「いえ、お互い世間の体裁を気にして、我慢していただけです! それで何が知りたくて、今日はこちらへ来られたのですか?」
こう言うと、彼女は冷静を取り戻した。
「あのー、ご主人は、今回スズメバチに刺される以前にも、刺されたことがあったのでしょうか?」
有田は尋ねた。
「私たちが結婚する前に刺されて、大変だったみたいで、スズメバチには刺されないように常に気をつけていましたのに。どうして今回あんな雑木林に一人で行ったのか信じられないです」
舞は一気に言った。
「あの日一人で、ご主人は雑木林へ行かれたのですか?」
有田は聞いた。
「えー、そうです。何でも、雑木林に物を隠されたみたいで」
舞は答えた。
「物? それは誰が何のために、そんなところに隠したのでしょうか?」
今度は大田が聞いた。
「嫌がらせですよ。主人は嫌われていましたから。誰が何のために、そんなところに隠したのかは、私には分かりません。ただ初めは、S小学校のほうに向かって行ったのに、徐々に雑木林へと入っていきました。私と主人は何かあったときのために、お互いの場所を、スマホのGPSで分かるようにしていましたから」舞は悔しそうに言った。
「一体ご主人は、誰に嫌われていたのですか?」
大嶋は核心を突こうとした。
「いろんな人からですよ。主人は学校給食に健康志向の物を入れるように指示したのです。しかし健康志向の物ばかりだと、子供たちが嫌いそうな食べ物が増えて、困っている子供もいましたから」
舞は答えた。
「なるほどです。それでご主人に賛同される方と、反対の方と二つに割れていたのですね?」
有田は尋ねた。
「そうです」
舞は答えた。
「反対派の方には、どのような方がいらっしゃいましたか?」
大嶋が聞いた。
「春野副理事長や、理科教師の多田先生、また区役所の菅沼弘和さんなどです」
舞は答えた。大嶋たちが疑いをかけていた三人だった。
「そうですか。分かりました。ありがとうございます」
三人が帰ろうとしたとき、舞は大嶋たちに言った。
「刑事さん、待ってください。もう一つ言わせてください。主人が好きだったのは、恵子(けいこ)ちゃんなの。私の高校時代の同級生で、春野副理事長さんの小中学校時代の同級生なの」
「え、奥さんもう少し詳しく聞かせてくれませんか?」
大嶋は舞に尋ねた。
「恵子ちゃんは、平野(ひらの)さんという方と結婚されたのに、あーいう事件があって! 今もご主人を探しているの。ご主人は、平野啓(けい)太(た)さんよ」
舞は言った。平野啓太は、三人とも聞き覚えのある名前だった。



