二発目の毒針

 三人は現場へと向かった。そこにはパンチパーマの刑事大嶋(おおしま)卓(すぐる)がいた。
「大嶋君、現場検証はどうなっている?」
「これは三澤刑事殿」
大嶋は、横にいた大田と有田が眼中にないとでも言いたげな様子だった。
「大田君、有田君、大嶋君に挨拶しなさい」
「嫌です」
大田は言った。
「僕も!」
有田も言った。有田も大田も大嶋を嫌っていた。それもそのはず、大嶋は大田と有田の直属の元上司で、いつも二人を小馬鹿にしていたからだ。
「困った子たちだ」
相変わらず、大嶋は有田と大田の二人を見下していた。
「まあまあ二人とも、今は事件の捜査に専念しなければならん」
三澤は、二人をなだめた。
「まあまた、どこかで事件ですかな?」
大嶋は三澤に言った。
「ということは、こちらでは事故か何かで片付けようとされているのかな?」
三澤は大嶋に聞いた。
「三澤刑事殿、また事件にするつもりですか? こちらは事故で片付いていますよ」
大嶋は面倒くさそうに答えた。
「大嶋刑事殿、だが腑に落ちない」
「どこですか?」
「スズメバチに腕を一カ所刺されただけで死ぬ確率は、そう高くはない」
「それで?」
大嶋はあくびをかいた。
「私達は、単に運が悪くて、仏さんが旅立ったとは考えてはいない」
三澤は頭をポリポリかきながら言った。
「それじゃあ、まるで自殺か何かの線で考えていらっしゃるのですか? ところで刑事殿、この前風呂に入ったのはいつですか?」
大嶋は不快な顔をしながら言った。
「一週間前だよ。うちには事情があって風呂がない。いつも通う銭湯がこんな時に限って、修理中だ! 身体中かゆくてたまらんわ。それはそうと自殺、いやもしかしたら、他殺の可能性すら考えている」
三澤は、今度は背中をかきながら言った。
「まさか?」
大嶋は驚きながら言った。
「そうなのだよ、大嶋君」
三澤は自信に満ちた顔で言った。
「何を証拠に?」
大嶋はあざ笑った。
「証拠はこれから見つけ出す」
三澤は強い口調で言った。
「まあ、せいぜい頑張ってくださいな」
大嶋はあきれ果てて、行ってしまった。

 三澤は、情に厚い男だった。あるとき大親友の借金の保証人になり、親友は逃走。彼が借金を肩代わりしていた。そのため、妻と離婚、子供とも、もう何年も会えていなかった。彼には四人の娘がいた。そんなこんなで、彼は不自由な生活を強いられていた。それに加えて、人間不信に陥っていた。なので、事故でも自殺でも、事件性があるかどうかいつも検証していた。少しでも腑に落ちないことがあると、事件だと疑ってかかっていた。そんな苦労人の三澤だったので、この人なら信じられると思い、有田と大田は三澤に師事してきた。その三澤は、有田を研究の虫、大田を直感の虫として評価していた。

 「行きましょう、三澤さん! 何か匂いがしますよ」
大田は先ほど食べた蜂蜜パンの蜜が、鼻に残っており、いろんな蜂がその蜜を狙っていた。
「それはどんな匂いだね、大田君?」
三澤は大田の直感力に期待していた。
「蜂蜜の匂いです!」
大田は張り切って言った。
「鼻、ティッシュで拭いてみな」
有田がティッシュを差し出した。大田は恥ずかしそうに有田からティッシュを受け取った。
「三澤さん、旭区役所の菅沼弘和さんに事情を聞きに行きましょう」
有田は言った。
「そうだったな。まずは関係者に話を聞かなければ」