恵子と五郎と別れた三人は、近くの公園のベンチに座った。
「五郎はスズメバチが怖くて吠えていた訳じゃありません。スズメバチの巣がブルーシートに被される前から吠えていた。あの獰猛なスズメバチがいようといまいと、物心が付いたときから、五郎はあの場所へ来る度に吠えていた。まるで親しい誰かがあそこで眠っているかのように」
有田は徐々に核心に近づいてきたかのように話していった。
「つまりはどういうことだい、有田君?」
大田が聞いてきた。
「恵子さんの家には、夫の啓太さんの遺品がたくさん置いてありました」
有田はなおも言った。
「遺品? 有田、まさか?」
大嶋は驚くように言った。
「ええ、残念ながら仏さんは既に亡くなっています。あの木のあるブルーシートの被さった、遙か地中に」
有田はついに核心を突いた。
「とすると、あの犬は私に吠えていたわけじゃなく、旦那さんの遺品の匂いが、あそこら辺に充満していたから吠えていた。そういうことだね、有田君?」
大田はやっと分かったとの顔をして言った。
「それもこれも奥さんが旦那さんの遺品を大切にしていたからだよ。五郎にはきっと分かっていたはずだよ。あの遺品の持ち主が、飼い主の恵子さんの大切にしてきた人だとね!」
有田はここまで一気に言った。
「てことは、平野啓太はあそこに眠っている。スズメバチハンターに依頼して、まずはあそこら辺一体のスズメバチの巣を取り除いてもらい、ショベルカーであの辺りを掘らなきゃならないな。仏さんに会えるのはその後だな」
大嶋は言った。
「待ってください。大嶋さん。あそこら辺は昔からオオスズメバチの巣が地中にあったと思います。オオスズメバチが巣を好んで作りそうな大きな木があるので。もしかしたら三十年前に、平川和正理事長が生きていたとき、ここで初めてスズメバチに刺された可能性があると思います」
有田は言った。
「どうしてだ?」
大嶋は有田に尋ねた。
「平川さん、スズメバチに刺されたことがあるのに、なぜこの雑木林にまた来たのでしょうか? 普通怖くて来られない雑木林に、なぜ、また立ち入ったのでしょうか?」
有田はここまで話すと水を飲んだ。
「またとは、どういうことだい有田君?」
大田は有田に尋ねた。
「つまりは三十年前、ここで平川さんはオオスズメバチに一度刺され、この場所が怖くなった。それにも関わらず、ここへまた来たのは、何か理由がある。そして誰かにあそこまで誘導された可能性がある」
有田は言った。
「誰が、どうやって、有田?」
大嶋は聞いた。
「あそこまで、オンラインで、つまり犯人がビデオ通話で誘導した」
有田は言った。
「何のために?」
大田は有田に尋ねた。
「誘導した犯人と、平川さんと平野さんは、同級生だった。この三人に何かあったのかもしれない」
有田は言った。
「ということは、誘導したのは春野宏太理事長だな?」
大嶋は有田に確認した。
「はい。その線が自然だと思います」
有田は言った。
「だけど、まだ何も証拠がない」
大田は言った。
「証拠なら、ここにありますよ!」
有田は五郎をなだめていたときに、五郎のそばに落ちていた紙を見つけたのだった。その手を開くと、紙にはこう書いてあった。
「三十年前、平野啓太を殺したのは平川和正理事長だった」
大嶋は驚いた。
「これを書いた人間は、なぜ平野啓太が、平川和正理事長に殺されたことを知っていたのか? つまり共犯だったってことだな? 有田? それにその紙、もしかしてあのスズメバチの身体に巻き付けてあったものじゃないか? てことは?」
有田は沈黙していた。その次の瞬間だった。聞き覚えのある声がした。
「ははは。よくここまでたどり着いたね?」
声の主は春野宏太副理事長だった。三人は逃走されないように、春野宏太理事長を取り囲もうとした。
「その必要はない。私は逃げる元気はもうない。ただ有田君の説明で、仮にビデオ通話で誘導したとして、紙を巻き付けたそのスズメバチを平川が捕まえようとしたら、スズメバチはフェロモンを出して仲間を呼ぶ。そうすると今回刺されたのが一カ所で済むのかな?」
春野は有田に問いかけた。
「可能です。平川さんは一カ所刺された後、アナフィキラシーショックを起こし、転倒しました。仲間のスズメバチたちは、転倒した平川さんを視界から外しました。いや、正確には、視界から外れたのです。スズメバチの目は、急に転倒した人間が視界から外れた可能性は大いにあり得ます。下の方がスズメバチは見えないのですよ。特に急に転倒したりしたら、平川さんの身体は、スズメバチたちの視界から確実に外れたのです。だから今回は一カ所だけしか刺されなかったのです。しかし三十年前に、別の箇所を一度刺されているのを、奥さんの舞さんから聞いております。それも結婚前に。約三十年前ですよ。そして平川さんは給食の件で反対派の人たちに嫌われていた。その反対派の中の一人が、春野さん、あなたですよね?」
有田は春野に問い詰めた。
「いかにも。私は理事長になって、反対派の意見を通そうとしたのだ。だから旭区役所の菅沼弘和や、理科教師の多田智弘のような反対派の人間も協力してくれた」
春野は答えた。
「しかし、まさか、役所の菅沼さんや、理科教師の多田智弘先生まで共犯とは思いもよらなかったですよ。春野さん」
有田は言った。
「だがね、有田君、君は一つ勘違いしている」
春野は言った。
「勘違いですか?」
有田は聞いた。
「そうだ。私はビデオ通話などで、平川を誘導はしていない」
春野は言い切った。
「何ですと! じゃあ誰がやった?」
大嶋は吠えた。
「五郎はスズメバチが怖くて吠えていた訳じゃありません。スズメバチの巣がブルーシートに被される前から吠えていた。あの獰猛なスズメバチがいようといまいと、物心が付いたときから、五郎はあの場所へ来る度に吠えていた。まるで親しい誰かがあそこで眠っているかのように」
有田は徐々に核心に近づいてきたかのように話していった。
「つまりはどういうことだい、有田君?」
大田が聞いてきた。
「恵子さんの家には、夫の啓太さんの遺品がたくさん置いてありました」
有田はなおも言った。
「遺品? 有田、まさか?」
大嶋は驚くように言った。
「ええ、残念ながら仏さんは既に亡くなっています。あの木のあるブルーシートの被さった、遙か地中に」
有田はついに核心を突いた。
「とすると、あの犬は私に吠えていたわけじゃなく、旦那さんの遺品の匂いが、あそこら辺に充満していたから吠えていた。そういうことだね、有田君?」
大田はやっと分かったとの顔をして言った。
「それもこれも奥さんが旦那さんの遺品を大切にしていたからだよ。五郎にはきっと分かっていたはずだよ。あの遺品の持ち主が、飼い主の恵子さんの大切にしてきた人だとね!」
有田はここまで一気に言った。
「てことは、平野啓太はあそこに眠っている。スズメバチハンターに依頼して、まずはあそこら辺一体のスズメバチの巣を取り除いてもらい、ショベルカーであの辺りを掘らなきゃならないな。仏さんに会えるのはその後だな」
大嶋は言った。
「待ってください。大嶋さん。あそこら辺は昔からオオスズメバチの巣が地中にあったと思います。オオスズメバチが巣を好んで作りそうな大きな木があるので。もしかしたら三十年前に、平川和正理事長が生きていたとき、ここで初めてスズメバチに刺された可能性があると思います」
有田は言った。
「どうしてだ?」
大嶋は有田に尋ねた。
「平川さん、スズメバチに刺されたことがあるのに、なぜこの雑木林にまた来たのでしょうか? 普通怖くて来られない雑木林に、なぜ、また立ち入ったのでしょうか?」
有田はここまで話すと水を飲んだ。
「またとは、どういうことだい有田君?」
大田は有田に尋ねた。
「つまりは三十年前、ここで平川さんはオオスズメバチに一度刺され、この場所が怖くなった。それにも関わらず、ここへまた来たのは、何か理由がある。そして誰かにあそこまで誘導された可能性がある」
有田は言った。
「誰が、どうやって、有田?」
大嶋は聞いた。
「あそこまで、オンラインで、つまり犯人がビデオ通話で誘導した」
有田は言った。
「何のために?」
大田は有田に尋ねた。
「誘導した犯人と、平川さんと平野さんは、同級生だった。この三人に何かあったのかもしれない」
有田は言った。
「ということは、誘導したのは春野宏太理事長だな?」
大嶋は有田に確認した。
「はい。その線が自然だと思います」
有田は言った。
「だけど、まだ何も証拠がない」
大田は言った。
「証拠なら、ここにありますよ!」
有田は五郎をなだめていたときに、五郎のそばに落ちていた紙を見つけたのだった。その手を開くと、紙にはこう書いてあった。
「三十年前、平野啓太を殺したのは平川和正理事長だった」
大嶋は驚いた。
「これを書いた人間は、なぜ平野啓太が、平川和正理事長に殺されたことを知っていたのか? つまり共犯だったってことだな? 有田? それにその紙、もしかしてあのスズメバチの身体に巻き付けてあったものじゃないか? てことは?」
有田は沈黙していた。その次の瞬間だった。聞き覚えのある声がした。
「ははは。よくここまでたどり着いたね?」
声の主は春野宏太副理事長だった。三人は逃走されないように、春野宏太理事長を取り囲もうとした。
「その必要はない。私は逃げる元気はもうない。ただ有田君の説明で、仮にビデオ通話で誘導したとして、紙を巻き付けたそのスズメバチを平川が捕まえようとしたら、スズメバチはフェロモンを出して仲間を呼ぶ。そうすると今回刺されたのが一カ所で済むのかな?」
春野は有田に問いかけた。
「可能です。平川さんは一カ所刺された後、アナフィキラシーショックを起こし、転倒しました。仲間のスズメバチたちは、転倒した平川さんを視界から外しました。いや、正確には、視界から外れたのです。スズメバチの目は、急に転倒した人間が視界から外れた可能性は大いにあり得ます。下の方がスズメバチは見えないのですよ。特に急に転倒したりしたら、平川さんの身体は、スズメバチたちの視界から確実に外れたのです。だから今回は一カ所だけしか刺されなかったのです。しかし三十年前に、別の箇所を一度刺されているのを、奥さんの舞さんから聞いております。それも結婚前に。約三十年前ですよ。そして平川さんは給食の件で反対派の人たちに嫌われていた。その反対派の中の一人が、春野さん、あなたですよね?」
有田は春野に問い詰めた。
「いかにも。私は理事長になって、反対派の意見を通そうとしたのだ。だから旭区役所の菅沼弘和や、理科教師の多田智弘のような反対派の人間も協力してくれた」
春野は答えた。
「しかし、まさか、役所の菅沼さんや、理科教師の多田智弘先生まで共犯とは思いもよらなかったですよ。春野さん」
有田は言った。
「だがね、有田君、君は一つ勘違いしている」
春野は言った。
「勘違いですか?」
有田は聞いた。
「そうだ。私はビデオ通話などで、平川を誘導はしていない」
春野は言い切った。
「何ですと! じゃあ誰がやった?」
大嶋は吠えた。



