それから俺は毎日のように研究室に顔を出した。
 就活の面接や必修授業で行けない日もあったが、それ以外はずっと研究室に入り浸っていた。
 研究は順調……とまではいかなかったが、それなりの成果が出始めていた。

「ハルくんは手先が器用だね! もうバッチリ綺麗な結果が出てるよ」
「山村くんは着眼点がしっかりしているから、考察も安心して聞けるよ」

 先輩も石橋教授も俺の進捗を褒めてくれるし、四月の頃と比べたら俺のモチベーションは爆上がりしていた。

 それに、これは徐々に分かってきたことだが、先輩はものすごく優秀だ。
 俺の指導をしながら、自分の修士論文のための研究と企業との共同研究を同時にこなしていた。

「教授の元データがあるから追加実験だけだし、楽なもんだよー」

 とヘラヘラ笑っていたが、それがどれ程大変か、もう分かるようになっていた。
 遊んでいそうな派手な見た目からは、全く想像もできない。本当に人は見かけによらないのだと感じた。
 


 ある日、進捗会を終えた後に石橋教授が俺を呼び止めた。

「山村くん、研究は少しずつ進んでいるね。最近熱心に研究してるみたいだけど、就職活動の方は大丈夫かい? ちゃんと試験がある時は研究室お休みしていいからね」
「ありがとうございます。もう少ししたら面接があるので、その時は休みをいただきます」
「うんうん。山村くんは営業志望だっけ?」
「はい。研究していくうちに医療系に興味が出てきたので、業界はそっちに絞っていますけど」

 石橋教授は顔をほころばせた。

「嬉しいねぇ。山村くんは真面目だからどこへ行ってもやっていけるよ。もちろん、本当は研究を続けてほしいけどね」
「ははは。俺、研究者には向いてないですよ。桜庭先輩くらいのめり込める人じゃないと」

 俺は首を振りながら苦笑した。
 教授のお世辞は嬉しいけれど、身近に超人がいれば、自分の身の程は嫌でも分かる。本当の研究なんて、きっと先輩や教授くらいその分野が大好きで、深く考察出来るような人じゃないとやっていけないのだろう。

 俺なんかでは無理だ。

「まぁ、桜庭くんは研究の虫だからね。山村くんも時々止めてあげて。無理し過ぎる時があるから」
「はい。お任せください」
「ありがとう。僕の言うことより山村くんの言うことの方が聞くはずだから」
「ははは、どうでしょうか」

 確かに先輩はずっと研究室にいた。いつ行っても必ずいたし、俺が帰った後もいるみたいだった。
 

 もしかして研究室に住み着いているのか?
 なんて疑問が浮かんだ頃、俺は研究室の外で先輩に出会った。