研究室でご飯を。君と。

 ……素直になっていいのかもしれない。

「す、好きです」

 答えた瞬間、そっと抱きしめられる。
 その温もりが夢ではないと告げていた。

 律先輩が俺のことを好き?
 本当に?
 じゃあ大河内さんは?

 俺は大河内さんのことを思い出して、律先輩を押し返した。

「なに?」
「お、大河内さんのことは……もう良いんですか?」

 まだ、大丈夫。今「やっぱり嘘だよ」と言われたら、ちゃんと引き返せる。
 覚悟を決めて目を閉じると、律先輩の笑い声が聞こえてきた。

「先輩? はははっ、気にしてたの? 言ってなかったっけ。卒業する日に告白して、潔く振ってもらってるよー。それからは尊敬の気持ちしかないの」

 カラカラと笑う律先輩に、俺は全身に込めていた力が抜けていった。

「な、なんだ……俺てっきり」

 言いかけて口を噤む。

「てっきり、なあに?」
「何でもないです!」

 律先輩と俺は、『叶わない片思い仲間』だと思ったていたんだから。同じだけど、絶対に交わらない関係だって。

 俺がふいと顔を背けると、先輩はムッとしたように俺の顎をつかんだ。

「ねえ、それよりさっきから香水臭いよ。友達との飲みって女だったの? 妬けるなぁ。俺のこと好きなくせに」

 律先輩の口調はいつもと変わらないのに、目の奥が笑っていない。
 悪いことをしたわけではないのに、背中に冷や汗が滲む。

「あの、学部の人たちとの飲み会で……女子もいたけど、ちょっと隣に座っていただけなんです」
「ふーん? 春樹がそう言うなら信じてあげてもいいけど……春樹からチューして」
「はい?」

 ほら、と目を閉じで待機している律先輩からは、頑として譲らないオーラが出ていた。

 チュ、チュー?
 律先輩、絶対酔ってる。……でも、もういいや。

 俺は先輩にぐっと近づいた。

「好きです、律先輩。後で後悔しないでくださいね」

 律先輩の頬に唇を寄せると急に恥ずかしさが湧き出てきたが、勢いに任せてそのまま頬に口づけをした。
 律先輩は目開けると、至極嬉しそうに微笑んだ。

「ほっぺなの? 前と一緒じゃーん」
「きっ、気づいてっ……!?」
「ははは、バレてないと思ってたんだー。可愛いなあ」

 俺が慌てふためいていると、律先輩は俺の頬を両手でギュッと挟んだ。

「俺、本命には結構重たいみたいだから、ハルくん頑張ってね」

 心なしか律先輩の笑顔が重い。
 でもきっと俺も同じくらい重いに違いなかった。