気がつくと、俺は研究室に戻ってきていた。
 寮に帰るはずだったのに、ぼんやり歩いていたらここにいたのだ。

「はあ、何やってんだ……」

 誰もいない研究室でため息をつくと、いつもより自分の声が響いて聞こえた。
 とりあえず自分の席に座って、律先輩の席を眺める。

 律先輩の席には実験ノートや資料が積まれており、いたるところに付箋が貼ってある。
 本当に研究は熱心なんだよな。普段は適当なのに……。

 
 女関係にちょっとだらしないけど、俺に迷惑かかるって思ってからは自重してくれているみたいだし。
 いつも作ってくれる料理は、簡単なのに美味しいし。
 俺の気持ちを知らないくせに、ドキドキさせるような行動取るし。
 俺が落ち込んでると、すぐに気づいて手を差し伸べてくれる。

 そういうところ、全部――。


「好きです、律先輩」


 先輩の机にそっと触れて呟くと、後ろで扉の開く音がした。

「ハルくん? なんでいるの?」
「うわあっ!」

 突然の律先輩の登場に、俺の心臓が爆発しそうなくらい飛び跳ねた。
 後ろを振り返ると、赤ら顔の律先輩が俺の声に驚いて目を丸くしていた。

「驚きすぎじゃない? どうしたの? 今日友達との予定あるって言ってたのに」
「の、飲み会だったんですけど、ちょっと早めに切り上げたんです。律先輩こそ、大河内さんたちと飲みに行ったんじゃ……」
「俺も早めに切り上げちゃったんだー。同じだね」

 へへへ、と笑いながら俺の隣の席に座る律先輩。

 俺は気が気じゃなかった。
 ……聞こえてなかったよな? 大丈夫だよな?