「乾杯!」
「カンパーイ」
「皆、お疲れ!」
飲み始めてから三十分も経つと、俺も酔いが回ってきた。健太郎の方を見ると、隣の奴に何かのアニメ作品について熱弁していた。あいつ、アニメとか観るんだ。
話に入らなくても、うるさいくらいの環境が心地よかった。
目を閉じて一息をついていると、近くに人の気配を感じた。
「山村くん、隣いい?」
名前を呼ばれて顔を上げると、学部の女子が立っていた。この間就職支援室の前で会った……結局名前は分からなかった女子だ。
とりあえず少しズレて隣のスペースを空ける。
「どうぞ」
「なんかあっちの方、すごいテンションだったから逃げてきちゃった」
「ははは。健太郎は絡み酒っぽいからなー」
確かにあのテンションにはついて行けない。ちょっと離れたところで見ているのが一番だ。
「山村くんって健太郎とは仲良いよね。よく隣で講義受けてるし」
「あいつは誰とでも仲良いからな」
「確かにー」
隣の女子は笑いながら、赤みがかったカクテルを飲んでいる。俺と目が合うと恥ずかしそうにはにかんだ。
名前も知らない女子だけど、可愛らしいなとは思う。
学部一年の時から勉強とアルバイトに明け暮れていたから、同じ学部の人に興味を持つこともなかった。
俺ももう少し大学生活を楽しんでいたら、こういう子と楽しく遊ぶ未来もあったのかな。……律先輩みたいに。
ふと律先輩のことを思い出し、気が落ち込む。
「山村くんって、もう少し素っ気ないと思ってた。あんまり飲み会とか来ないでしょ?」
「時々は参加してたよ」
「本当? 全然会わなかったけどな。……前にさ、『すぐ内定でるよ』って励ましてくれたでしょ? 嬉しかったんだ。それに、あれからちょっと気になってて……。だから今日は会えてラッキー」
「俺、そんなこと言ったっけ?」
その子は「えー? 忘れちゃったの? 嬉しかったのにー」と言いながら、俺の肩にそっと触れる。その瞬間、花のような香りがふわっと香ってきた。
俺はビールを飲みながら、なんとなく居心地の悪さを感じ始めていた。
「山村くんも内定出たってことは、時間出来るよね? 良かったら連絡先交換しない? もっと話してみたいかも」
スマホを出しながら微笑むこの子は、きっと素直な子なんだろう。
自分をちゃんと磨いて自信も持っている。
この子が羨ましかった。
俺はこんな風に律先輩にアタックすることなんて出来ない。
だって、土俵にすら立たなかったんだから。
「……ごめん、なんか酔いが回ったみたい。今日はもう帰るわ。本当ごめん」
俺は多めの現金を財布から取り出してその子に渡すと、足早に店を飛び出した。
「カンパーイ」
「皆、お疲れ!」
飲み始めてから三十分も経つと、俺も酔いが回ってきた。健太郎の方を見ると、隣の奴に何かのアニメ作品について熱弁していた。あいつ、アニメとか観るんだ。
話に入らなくても、うるさいくらいの環境が心地よかった。
目を閉じて一息をついていると、近くに人の気配を感じた。
「山村くん、隣いい?」
名前を呼ばれて顔を上げると、学部の女子が立っていた。この間就職支援室の前で会った……結局名前は分からなかった女子だ。
とりあえず少しズレて隣のスペースを空ける。
「どうぞ」
「なんかあっちの方、すごいテンションだったから逃げてきちゃった」
「ははは。健太郎は絡み酒っぽいからなー」
確かにあのテンションにはついて行けない。ちょっと離れたところで見ているのが一番だ。
「山村くんって健太郎とは仲良いよね。よく隣で講義受けてるし」
「あいつは誰とでも仲良いからな」
「確かにー」
隣の女子は笑いながら、赤みがかったカクテルを飲んでいる。俺と目が合うと恥ずかしそうにはにかんだ。
名前も知らない女子だけど、可愛らしいなとは思う。
学部一年の時から勉強とアルバイトに明け暮れていたから、同じ学部の人に興味を持つこともなかった。
俺ももう少し大学生活を楽しんでいたら、こういう子と楽しく遊ぶ未来もあったのかな。……律先輩みたいに。
ふと律先輩のことを思い出し、気が落ち込む。
「山村くんって、もう少し素っ気ないと思ってた。あんまり飲み会とか来ないでしょ?」
「時々は参加してたよ」
「本当? 全然会わなかったけどな。……前にさ、『すぐ内定でるよ』って励ましてくれたでしょ? 嬉しかったんだ。それに、あれからちょっと気になってて……。だから今日は会えてラッキー」
「俺、そんなこと言ったっけ?」
その子は「えー? 忘れちゃったの? 嬉しかったのにー」と言いながら、俺の肩にそっと触れる。その瞬間、花のような香りがふわっと香ってきた。
俺はビールを飲みながら、なんとなく居心地の悪さを感じ始めていた。
「山村くんも内定出たってことは、時間出来るよね? 良かったら連絡先交換しない? もっと話してみたいかも」
スマホを出しながら微笑むこの子は、きっと素直な子なんだろう。
自分をちゃんと磨いて自信も持っている。
この子が羨ましかった。
俺はこんな風に律先輩にアタックすることなんて出来ない。
だって、土俵にすら立たなかったんだから。
「……ごめん、なんか酔いが回ったみたい。今日はもう帰るわ。本当ごめん」
俺は多めの現金を財布から取り出してその子に渡すと、足早に店を飛び出した。



