片づけを終えた後はなんとなく帰りたくなくて、少し論文を書いたり、就職支援課にお礼メールを送ったりしていた。気がつくと日が傾いている。
 流石に今から実験する気力もないし、そろそろ帰るか。

 研究室の外に出ると、薄暗い廊下がいつもより暗く見えた。
 今頃、律先輩たちは楽しく飲んでいるんだろうな……。

 律先輩はすごい。好きだった相手が結婚すると知っても、態度がまるで変わらなかった。
 きっと今も楽しく大河内さんと話しているんだろう。

 俺なんか、二人が話している姿を見るだけでもしんどかったのに……。
 思い出すだけでも内臓がひっくり返りそうな気分になる。

「やめやめ。俺も帰って酒でも飲もうっと」

 久しぶりにコンビニによって色々買って帰ろう。
 俺は重い身体を持ち上げて、帰り支度を始めた。


◇◇◇


「おー春樹、今帰り?」

 研究棟を出ると、ばったり健太郎に会った。
 健太郎がこんな時間まで研究棟にいるのは珍しい。

「帰るとこ」
「じゃあ途中まで一緒に行こうぜー」

 健太郎は上機嫌のまま歩き出す。
 俺も横に並んで歩き始めた。

「そういえば、今日内定もらった。健太郎にはお世話になったから一応伝えとく」

 何気なくそう伝えると、健太郎は足をピタリと止めた。

「どうかしたか?」
「……マジか! おめでとう!!」

 俺の手を掴んでぶんぶんと振りながら「もー早く言えって!」と小言までいただいた。

「ありがとう。心配かけたな」
「いいって! そうだ、この後時間あるだろ? 学部の奴らと飲むんだけど、春樹も来いよ。俺が奢るからさ」
「うーん、行こうかな」

 飲み会なんていつもなら絶対お断りだけど、ちょうど飲もうと思っていたし……。
 俺の言葉に健太郎が目を丸くしている。そんなに驚くことか?

「え、来てくれんの? よっしゃあ! 行こうぜ!」
「ちょっ、待てって!」

 健太郎の足取りが軽くなる。
 おいて行かれないように、小走りで健太郎の後を追った。

 帰りたくなかったから、渡りに船だ。
 今は考え過ぎると、ネガティブ方向に引っ張れてしまいそうだし。わいわいした飲み会なら気がまぎれるかもしれない。



 飲み会の場所は、やっぱり大学から一番近い学生御用達の居酒屋だった。

「おー健太郎、こっちこっち。山村もその辺座れよ」
「お疲れー」
「もう注文しちゃってるから、適当に酒とか頼みな」

 ざわざわとした居酒屋では、十人くらいの学部連中がすでに顔を赤らめながら、俺たちを手招きした。

「急に混ざって悪いな」
「いいって。内定出たんだろ? そんなん飲むしかねえじゃん!」
「ビールこっちに余ってるよ。飲んじゃいなー」
「せっかく二人来たから、もう一回乾杯しようぜ」

 名前も分からない奴らが多かったけど、皆上機嫌で迎えてくれている。
 来てよかった、かも。