「ちょっとちょっと先輩! ハルくんは『俺の』後輩なんだから、取らないでくださいー」
律先輩は俺をグイッと引き寄せると、頬を膨らませた。
俺の肩に顔を乗せているから、近いです。本当に。
「ははは、律は相変わらずだなー。別に取ったりしないって」
「いーや、今たらし込んでたじゃん! 駄目でーす」
律先輩は俺を背後からギュッと抱きしめると、大河内さんを威嚇した。
俺は居た堪れなくなって思わず口を開いた。
「あ、あの……俺、二時間前くらいに教授に会いました。会議があるって言っていましたけど、もうそろそろ戻っている頃かもしれません」
「そっか、ありがとう。じゃあもう一回行ってみようかな。……っていうか、二人してくつろぎすぎじゃない?」
大河内さんは研究室いっぱいに広げているレジャーシートとちゃぶ台を見て苦笑している。
「えー? 先輩がそれ言う? 先輩がいた頃だってやってたじゃん」
「こんな昼間からはやってなかっただろ? そのスープ、まだ飲んでるんだ。懐かしいな」
「今日は特別なんですー! ハルくんの内定祝いだもん」
律先輩は俺の肩を抱きながら、「ねー?」と顔をのぞき込んでくる。
大河内さんは律先輩の言葉に少し目を丸くした。
「え、そうなの? おめでとう!」
「あ、ありがとうございます」
大河内さんは「何かプレゼント出来る物、あるかな」とカバンをガサゴソあさりながら呟いている。
俺は慌てて立ち上がった。
「あの、お気持ちだけで十分なので、そんな……」
「でもせっかく後輩の後輩のお祝い事だし。そうだ、今日この後教授と飲みに行く予定なんだけど、山村くんと律も一緒にどう?」
「あー……えーっと。俺、今日は友達と約束があって……」
口から勝手に断り文句が飛び出した。
だって大河内さんだってお祝いされる立場なんだし、見ず知らずの自分が混ざって邪魔したくない。
それに、律先輩と大河内さんが仲良くしているところを見ていられる程、俺の精神は頑丈じゃない。
「そっか。律は?」
「はーい、ちょっとだけ顔出しまーす。先輩と教授のおごりなら! もう行きます?」
律先輩は立ち上がって手を挙げた。
やっぱり律先輩は行くよな。
ほんの少し、断るんじゃないかって思っていた自分に嫌気がさす。
律先輩は俺と同じだけど、俺と違って強い人だ。好きな人の結婚もちゃんと祝えるんだろう。
帰り支度をしている律先輩を愛おしそうに眺めている大河内さんに、ものすごく嫉妬する俺とは違って。
「そうだな。そろそろ教授のところ行ってみるかー。もう戻ってきてるだろ。行くぞ律。山村くん、またね」
「あ、はい」
「ハルくん、また明日ね」
「……また明日」
大河内さんの背中を追って律先輩も研究室の外に出る。
一人になった研究室は、シンとしていて静かだった。
「とりあえず、部屋を元に戻しとくか」
俺は小さく呟くと、ちゃぶ台を持ち上げた。
律先輩は俺をグイッと引き寄せると、頬を膨らませた。
俺の肩に顔を乗せているから、近いです。本当に。
「ははは、律は相変わらずだなー。別に取ったりしないって」
「いーや、今たらし込んでたじゃん! 駄目でーす」
律先輩は俺を背後からギュッと抱きしめると、大河内さんを威嚇した。
俺は居た堪れなくなって思わず口を開いた。
「あ、あの……俺、二時間前くらいに教授に会いました。会議があるって言っていましたけど、もうそろそろ戻っている頃かもしれません」
「そっか、ありがとう。じゃあもう一回行ってみようかな。……っていうか、二人してくつろぎすぎじゃない?」
大河内さんは研究室いっぱいに広げているレジャーシートとちゃぶ台を見て苦笑している。
「えー? 先輩がそれ言う? 先輩がいた頃だってやってたじゃん」
「こんな昼間からはやってなかっただろ? そのスープ、まだ飲んでるんだ。懐かしいな」
「今日は特別なんですー! ハルくんの内定祝いだもん」
律先輩は俺の肩を抱きながら、「ねー?」と顔をのぞき込んでくる。
大河内さんは律先輩の言葉に少し目を丸くした。
「え、そうなの? おめでとう!」
「あ、ありがとうございます」
大河内さんは「何かプレゼント出来る物、あるかな」とカバンをガサゴソあさりながら呟いている。
俺は慌てて立ち上がった。
「あの、お気持ちだけで十分なので、そんな……」
「でもせっかく後輩の後輩のお祝い事だし。そうだ、今日この後教授と飲みに行く予定なんだけど、山村くんと律も一緒にどう?」
「あー……えーっと。俺、今日は友達と約束があって……」
口から勝手に断り文句が飛び出した。
だって大河内さんだってお祝いされる立場なんだし、見ず知らずの自分が混ざって邪魔したくない。
それに、律先輩と大河内さんが仲良くしているところを見ていられる程、俺の精神は頑丈じゃない。
「そっか。律は?」
「はーい、ちょっとだけ顔出しまーす。先輩と教授のおごりなら! もう行きます?」
律先輩は立ち上がって手を挙げた。
やっぱり律先輩は行くよな。
ほんの少し、断るんじゃないかって思っていた自分に嫌気がさす。
律先輩は俺と同じだけど、俺と違って強い人だ。好きな人の結婚もちゃんと祝えるんだろう。
帰り支度をしている律先輩を愛おしそうに眺めている大河内さんに、ものすごく嫉妬する俺とは違って。
「そうだな。そろそろ教授のところ行ってみるかー。もう戻ってきてるだろ。行くぞ律。山村くん、またね」
「あ、はい」
「ハルくん、また明日ね」
「……また明日」
大河内さんの背中を追って律先輩も研究室の外に出る。
一人になった研究室は、シンとしていて静かだった。
「とりあえず、部屋を元に戻しとくか」
俺は小さく呟くと、ちゃぶ台を持ち上げた。



