早速研究室内の食材をあさる。
こんなことなら昨日買い物しておけば良かった。冷蔵庫やカゴに入った食材を眺めて思案する。
「律先輩は何作るんですか?」
「内緒ー。今日は秘密兵器を使うから! ハルくんは?」
「じゃー俺も内緒です」
律先輩をちら見すると、なんだか大量の食材を広げて楽しそうにしている。すっかりいつもの律先輩だ。
先輩が作るのは、多分おかず系だな。なら俺は……。
「ハルくん電子レンジ使う?」
「いや、俺はトースター使います」
「オッケー」
俺は冷蔵庫からバナナを取り出すと、早速調理に取りかかった。……調理ってほどのものじゃないけど。
「出来たよー」
「俺も出来ました」
「前みたいにちゃぶ台出しちゃおー」
「俺出しますよ」
タコパの時のようにレジャーシートを敷き、ちゃぶ台を引っ張り出す。
律先輩はにやにやと含みのある笑みを浮かべながら料理を持ってきた。
「じゃーん! 見て見て!」
先輩がちゃぶ台に乗せたのはこんがり焼けたホットサンドだった。いつものオニオンスープもついている。
トースターは俺が使っていたはずなのに、どうやって焼いたんだ?
「ホットサンドですか? 一体どうやってこんなものを……」
「ふっふっふ、俺はついに手を出してしまったんだ。コレにね!」
ドヤ顔で先輩が指さした先には、見慣れぬホットサンドメーカーが置かれていた。
「いつの間にっ」
「実は少し前に知り合いから貰ったんだー。ほら、前にハルくんのこと殴ろうとした女の人いたでしょ? あの人が、知り合いのバー経由で渡してくれたの」
俺を殴ろうとした女の人、というのは語弊があるが、以前研究棟の前で話した人のことだろう。
もう律先輩のことは吹っ切れたって言っていたのに、どういうことだろうか。
一瞬だけ不安がよぎる。でもそんなものは杞憂だった。なぜなら……。
「ハルくんへの謝罪とお礼なんだって。メッセージあるよ」
「お、俺ですか?」
律先輩はホットサンドメーカーの箱を持ってくると俺に渡した。そこには付箋が一枚貼られていた。
『これで律に何か作ってもらいなさい。半分は律が悪いんだから。あの時はありがとう。今度はもっと良い相手をつかまえるわ』
筆跡の強さがあの女の人の強さを思い出させる。俺は思わず笑ってしまった。
「律先輩のこと吹っ切れたみたいですね」
「ねー! なんかハルくんのことばっかり気にしてたらしいし、俺ちょっとジェラシーだよ」
「何言ってるんですか……」
俺が呆れると、律先輩は慌てていた。
「ハルくんを取られたくないってことだよ! 女の子達にはもう興味ないって! もう皆精算出来たんだから。ね?」
「分かってますって」
「じゃあその呆れた目を止めて! それより、ハルくんは何を作ってくれたの? さっきからすっごく甘い匂いがしてるんだけど! 早く食べたいんだけど!!」
無理矢理話題を変えた先輩に苦笑しつつ、俺はトースターから耐熱皿を取り出した。
「俺が作ったのはこれです。チョコバナナスペシャル」
「何それー! めっちゃ美味しそう」
小さ目の耐熱皿にバナナとチョコレートとマシュマロを入れて焼いただけの簡単スイーツだ。
トースターで焼いている間、ずっと見張っていたので焼き加減はバッチリだ。
「もう堪らんって。食べよ食べよ」
「はい」
サイダーをコップに注ぎ、二人で乾杯をする。流石に昼間から酒はマズイからサイダーで我慢。
「ハルくん、改めておめでとう」
「律先輩もたくさんサポートしてくださってありがとうございます」
まずは先輩の作ったホットサンドにかぶりつく。中はハムとチーズだった。チーズがとろけて旨い。
オニオンスープと共に食べると、食べ応え抜群だ。
「美味しいです。ホットサンドメーカーをくれた方と律先輩に感謝ですね」
「感謝は俺にだけにして」
真剣な表情で俺に訴えかけるものだから、思わず心臓が高鳴る。冗談でその顔を使うのは止めてほしい。
俺は顔をそらしてチョコバナナの皿を先輩の方へと押し付けた。
「デザートも食べてみてください」
そう言うと、律先輩は当然のように口を開けて俺を待つ。食べさせろってことらしい。
今日はお礼の日だから。……いっか。
俺はバナナをすくって先輩の口にそっと入れた。
「ん……わっ、これ最高じゃん! 甘さが脳に響くー! なんかツブツブしたのも入ってるし」
「柿ピーのピーナッツを少し拝借しました」
「そこだけ甘じょっぱくて、もう……天国」
先輩が幸せそうに目を閉じて味わっている。俺も一口食べてみると、マジで我ながら最高だった。
「ハルくんの就活が終わったってことは、研究室に来る頻度が上がるってことだよね? はー、楽しみ。またいっぱいご飯食べようね」
「はい」
卒業まで。
俺には卒業まで律先輩と二人で過ごす権利がある。
二人で研究して、雑談して、ご飯を食べる。
それだけで十分だ。最高じゃないか。
こんなことなら昨日買い物しておけば良かった。冷蔵庫やカゴに入った食材を眺めて思案する。
「律先輩は何作るんですか?」
「内緒ー。今日は秘密兵器を使うから! ハルくんは?」
「じゃー俺も内緒です」
律先輩をちら見すると、なんだか大量の食材を広げて楽しそうにしている。すっかりいつもの律先輩だ。
先輩が作るのは、多分おかず系だな。なら俺は……。
「ハルくん電子レンジ使う?」
「いや、俺はトースター使います」
「オッケー」
俺は冷蔵庫からバナナを取り出すと、早速調理に取りかかった。……調理ってほどのものじゃないけど。
「出来たよー」
「俺も出来ました」
「前みたいにちゃぶ台出しちゃおー」
「俺出しますよ」
タコパの時のようにレジャーシートを敷き、ちゃぶ台を引っ張り出す。
律先輩はにやにやと含みのある笑みを浮かべながら料理を持ってきた。
「じゃーん! 見て見て!」
先輩がちゃぶ台に乗せたのはこんがり焼けたホットサンドだった。いつものオニオンスープもついている。
トースターは俺が使っていたはずなのに、どうやって焼いたんだ?
「ホットサンドですか? 一体どうやってこんなものを……」
「ふっふっふ、俺はついに手を出してしまったんだ。コレにね!」
ドヤ顔で先輩が指さした先には、見慣れぬホットサンドメーカーが置かれていた。
「いつの間にっ」
「実は少し前に知り合いから貰ったんだー。ほら、前にハルくんのこと殴ろうとした女の人いたでしょ? あの人が、知り合いのバー経由で渡してくれたの」
俺を殴ろうとした女の人、というのは語弊があるが、以前研究棟の前で話した人のことだろう。
もう律先輩のことは吹っ切れたって言っていたのに、どういうことだろうか。
一瞬だけ不安がよぎる。でもそんなものは杞憂だった。なぜなら……。
「ハルくんへの謝罪とお礼なんだって。メッセージあるよ」
「お、俺ですか?」
律先輩はホットサンドメーカーの箱を持ってくると俺に渡した。そこには付箋が一枚貼られていた。
『これで律に何か作ってもらいなさい。半分は律が悪いんだから。あの時はありがとう。今度はもっと良い相手をつかまえるわ』
筆跡の強さがあの女の人の強さを思い出させる。俺は思わず笑ってしまった。
「律先輩のこと吹っ切れたみたいですね」
「ねー! なんかハルくんのことばっかり気にしてたらしいし、俺ちょっとジェラシーだよ」
「何言ってるんですか……」
俺が呆れると、律先輩は慌てていた。
「ハルくんを取られたくないってことだよ! 女の子達にはもう興味ないって! もう皆精算出来たんだから。ね?」
「分かってますって」
「じゃあその呆れた目を止めて! それより、ハルくんは何を作ってくれたの? さっきからすっごく甘い匂いがしてるんだけど! 早く食べたいんだけど!!」
無理矢理話題を変えた先輩に苦笑しつつ、俺はトースターから耐熱皿を取り出した。
「俺が作ったのはこれです。チョコバナナスペシャル」
「何それー! めっちゃ美味しそう」
小さ目の耐熱皿にバナナとチョコレートとマシュマロを入れて焼いただけの簡単スイーツだ。
トースターで焼いている間、ずっと見張っていたので焼き加減はバッチリだ。
「もう堪らんって。食べよ食べよ」
「はい」
サイダーをコップに注ぎ、二人で乾杯をする。流石に昼間から酒はマズイからサイダーで我慢。
「ハルくん、改めておめでとう」
「律先輩もたくさんサポートしてくださってありがとうございます」
まずは先輩の作ったホットサンドにかぶりつく。中はハムとチーズだった。チーズがとろけて旨い。
オニオンスープと共に食べると、食べ応え抜群だ。
「美味しいです。ホットサンドメーカーをくれた方と律先輩に感謝ですね」
「感謝は俺にだけにして」
真剣な表情で俺に訴えかけるものだから、思わず心臓が高鳴る。冗談でその顔を使うのは止めてほしい。
俺は顔をそらしてチョコバナナの皿を先輩の方へと押し付けた。
「デザートも食べてみてください」
そう言うと、律先輩は当然のように口を開けて俺を待つ。食べさせろってことらしい。
今日はお礼の日だから。……いっか。
俺はバナナをすくって先輩の口にそっと入れた。
「ん……わっ、これ最高じゃん! 甘さが脳に響くー! なんかツブツブしたのも入ってるし」
「柿ピーのピーナッツを少し拝借しました」
「そこだけ甘じょっぱくて、もう……天国」
先輩が幸せそうに目を閉じて味わっている。俺も一口食べてみると、マジで我ながら最高だった。
「ハルくんの就活が終わったってことは、研究室に来る頻度が上がるってことだよね? はー、楽しみ。またいっぱいご飯食べようね」
「はい」
卒業まで。
俺には卒業まで律先輩と二人で過ごす権利がある。
二人で研究して、雑談して、ご飯を食べる。
それだけで十分だ。最高じゃないか。



