「教授……あの、ご相談があります」
「ん? 何だい?」

 俺は一呼吸置くと、教授をまっすぐ見つめた。

「俺、営業目指すとか言ってましたけど、研究職に進みたくなってしまいました。もう遅いって分かっているんですけど、第一志望を変更しました。それで、あの、面接とかの発表練習を見ていただけますか? それでもし内々定がいただけたら、推薦状を書いていただけますか?」

 発表用の資料や企業研究をまとめた内容を差し出しながら、お願いしますと頭を下げる。
 教授は静かにそれを受け取ると、静かに目を通した。

「あぁ、よく出来てるね。専門じゃない人にも伝わるような資料になってる。うんうん、企業研究の結果も絡めてあって……そうそう、このメーカーの特色も掴んでる。僕が採用担当だったら、合格させてしまうなあ」

 教授はうんうんと頷きながら微笑んだ。

「最後の部分、もう少し自分の成果を押し出した方が良いね。そこだけ直したら問題ないと思うよ。今から推薦状を書いておかないとねぇ。すぐに必要になるだろうから」
「ありがとうございます!」

 俺がパッと顔を上げると、教授は「でもね」と続けた。

「もっと早く相談してほしかったねえ。そうしたら研究室推薦という選択肢もあった」
「うちの研究室にも推薦枠あったんですか? す、すみません。研究職に進むという自信がなくて……」

 教授は「山村くんには、もっと自信を持たせるべきだったね」と呟きながら眉を下げた。

「山村くんは研究者気質だと思うよ。いつも考察はきちんと筋道が立てられている。……あぁ、もっと早く話を聞けばよかったね。研究が順調だから僕も油断してた。申し訳ない」
「いえっ、そんな! 俺が色々遅かっただけなんです。自分の気持ちに気づくのに時間がかかっちゃって。でも、もうブレません」

 研究職が無理そうだから営業職。そんな気持ちで就活しても受かるはずがなかったんだ。
 でも、もう迷わない。これで駄目なら就職浪人でもアルバイトでも何でもやってやる。別に死にはしないんだから。

「山村くんは本当に良い目になったね。手放すのが惜しいよ」

 すると話を聞いていた律先輩が身を乗り出した。

「教授もそう思うでしょ? ハルくんは石橋研究室の逸材だもん」
「おや、うちには逸材しかいないよ。卒業していったOB含めてね」
「確かにー。俺も逸材だからなぁ」
「はっはっは、その自信を山村くんに分けてあげなさい」

 それからタコパが再開し、俺は数え切れないくらいたこ焼きを食べた。
 途中、教授に手ほどきを受けてたこ焼きをひっくり返す技も習得できた。

「また失敗した! これ、見た目以上難しいです」

 教授や律先輩がひっくり返したたこ焼きは丸くて美味しそうなのに、俺のはぺしゃんこだった。
 すると教授が俺の手元を覗き込んで微笑んだ。

「一気に回転させちゃダメなんだよ。半分だけ回転させて少し待つ。慌てないで、ちょっとずつやれば綺麗に出来る」
「はい。……あっ、出来た!」


 少しずつ。焦らずに。


 教授も律先輩も俺を信じてくれている。
 頑張ろう。最後まで足掻くと決めたんだから。