それからしばらくの間、俺は研究より面接対策に力を入れていた。
就職支援室で模擬面接を受けたり、自分の受け答えを録画して見直したり。出来る限りの事をした。
研究室に行く必要はなかったけれど、律先輩の顔が見たくて、時々は顔を出していた。
律先輩は相変わらずだったけれど、いつも眠そうだった。きっとバーで受付をしているという女の人との縁切りが忙しいのだろう。
それなのに俺にご飯を作ってくれたり、気を紛らわす雑談に付き合ってくれたりした。
何故か「一口ちょーだい」と一口奪われることが増えた気がするけど……。間接キスだと意識すると、窒息してしまいそうだったから、平静を保つのには苦労した。
「うわー……また呼び出し来ちゃった。ハルくん、今日もし時間あったら二十時にサンプルを冷凍しておいてくれない?」
「良いですよ。やっておきますから……律先輩、少し休んでくださいね」
「ありがとう。そうだね、ちょっと今日はそのまま家で休もうかな」
「そうしてください」
バタバタと帰っていく律先輩を見送ると、ポツンと取り残された気がする。
……俺、何か出来ないかな。
律先輩が忙しくなっているのは、俺のせいでもある。見ているだけなのは申し訳がなかった。
せめて律先輩の疲労を取るような、何か……。
◇◇◇
翌日、俺はある作戦を決行することにした。
作戦は夜、律先輩が疲れた頃だ。
「はーぁ、今日も頑張ったからお腹すいたー」
「じゃあ俺が何か作りますよ」
二十一時。
疲労を滲ませた律先輩は目を輝かせた。
「ハルくんが!? わーい!!」
「……あんまり期待はしないでほしいんですけど」
今日は俺がご飯を振る舞おうと、食材を用意してきたのだ。
これは『律先輩いつもありがとう。今日は俺が癒します大作戦』なのだ。……ネーミングセンスの無さには目をつぶろう。俺だけのプロジェクトなのだからダサくたっていいんだ。
「何作ってくれるの?」
「ピザトーストです。用意するんで、向こうで待っててください」
「えー? 見たいのにー」
文句を言う先輩をデスクの方に押しのけて、さっさと用意をする。
食パンにピザソースをぬって、冷凍パプリカ、ベーコン、チーズ、コーンを散らす。後はそのままトーストするだけだ。
後ろで律先輩がウキウキとこちらを見ているのが、妙に緊張する。実験より遥かに簡単な作業なのに。
トーストを焼いている間にお湯も沸かす。そうして用意してきたお茶を淹れた。
お茶が入ると同時にチーンと音がしてピサトーストが完成した。
皿に乗せると、チーズがチリチリと良い音をたてている。
見た目は美味しそうだけど……。
「出来ましたよ」
「もう匂いから旨そう!」
「あ、これと一緒にどうぞ」
ピザトーストと共にティーカップを差し出す。
「お茶?」
「ルイボスティーです。どうぞ」
律先輩は言われるがままにお茶を飲んでいる。
ルイボスティーには安眠効果やリラックス効果があるらしい。
「なんか独特な味だね。好きかも」
「いっぱいあるんで、家に持って帰って飲んでくださいね」
「いいの? ありがとー。じゃあ、こっちもいただきます!」
律先輩が豪快にピザトーストにかぶりつく。
緊張で俺の心臓はドキドキとうるさかった。評価されるのだと思うと、進捗報告をしている気分だ。
「んん! 旨い! これ、アリだね。俺も今度作るー」
律先輩のご機嫌な声に、俺はそっと胸を撫でおろす。
「良かった。ツナマヨとかでもイケそうですよね。焼き鳥缶で和風とかもアリかもです」
「わぁ……ちょ、ちょっと今やろうよ! 俺ツナ缶も焼き鳥缶もある!!」
「はいはい、分かりましたよ」
そこからは即席ピザトーストパーティーだった。
研究室に置いてある食材をあれこれ引っ張り出してきて、各々好きなトッピングをする。
「この組合せ神だよ!」
「こっちもなかなかイケます」
俺も律先輩もテンションが上がってきて、食べ比べてホワイトボードにランキングまでつけた。
律先輩が幸せそうに笑うから、俺の心臓は締め付けられそうだった。
少しは元気になってくれたかな?
就職支援室で模擬面接を受けたり、自分の受け答えを録画して見直したり。出来る限りの事をした。
研究室に行く必要はなかったけれど、律先輩の顔が見たくて、時々は顔を出していた。
律先輩は相変わらずだったけれど、いつも眠そうだった。きっとバーで受付をしているという女の人との縁切りが忙しいのだろう。
それなのに俺にご飯を作ってくれたり、気を紛らわす雑談に付き合ってくれたりした。
何故か「一口ちょーだい」と一口奪われることが増えた気がするけど……。間接キスだと意識すると、窒息してしまいそうだったから、平静を保つのには苦労した。
「うわー……また呼び出し来ちゃった。ハルくん、今日もし時間あったら二十時にサンプルを冷凍しておいてくれない?」
「良いですよ。やっておきますから……律先輩、少し休んでくださいね」
「ありがとう。そうだね、ちょっと今日はそのまま家で休もうかな」
「そうしてください」
バタバタと帰っていく律先輩を見送ると、ポツンと取り残された気がする。
……俺、何か出来ないかな。
律先輩が忙しくなっているのは、俺のせいでもある。見ているだけなのは申し訳がなかった。
せめて律先輩の疲労を取るような、何か……。
◇◇◇
翌日、俺はある作戦を決行することにした。
作戦は夜、律先輩が疲れた頃だ。
「はーぁ、今日も頑張ったからお腹すいたー」
「じゃあ俺が何か作りますよ」
二十一時。
疲労を滲ませた律先輩は目を輝かせた。
「ハルくんが!? わーい!!」
「……あんまり期待はしないでほしいんですけど」
今日は俺がご飯を振る舞おうと、食材を用意してきたのだ。
これは『律先輩いつもありがとう。今日は俺が癒します大作戦』なのだ。……ネーミングセンスの無さには目をつぶろう。俺だけのプロジェクトなのだからダサくたっていいんだ。
「何作ってくれるの?」
「ピザトーストです。用意するんで、向こうで待っててください」
「えー? 見たいのにー」
文句を言う先輩をデスクの方に押しのけて、さっさと用意をする。
食パンにピザソースをぬって、冷凍パプリカ、ベーコン、チーズ、コーンを散らす。後はそのままトーストするだけだ。
後ろで律先輩がウキウキとこちらを見ているのが、妙に緊張する。実験より遥かに簡単な作業なのに。
トーストを焼いている間にお湯も沸かす。そうして用意してきたお茶を淹れた。
お茶が入ると同時にチーンと音がしてピサトーストが完成した。
皿に乗せると、チーズがチリチリと良い音をたてている。
見た目は美味しそうだけど……。
「出来ましたよ」
「もう匂いから旨そう!」
「あ、これと一緒にどうぞ」
ピザトーストと共にティーカップを差し出す。
「お茶?」
「ルイボスティーです。どうぞ」
律先輩は言われるがままにお茶を飲んでいる。
ルイボスティーには安眠効果やリラックス効果があるらしい。
「なんか独特な味だね。好きかも」
「いっぱいあるんで、家に持って帰って飲んでくださいね」
「いいの? ありがとー。じゃあ、こっちもいただきます!」
律先輩が豪快にピザトーストにかぶりつく。
緊張で俺の心臓はドキドキとうるさかった。評価されるのだと思うと、進捗報告をしている気分だ。
「んん! 旨い! これ、アリだね。俺も今度作るー」
律先輩のご機嫌な声に、俺はそっと胸を撫でおろす。
「良かった。ツナマヨとかでもイケそうですよね。焼き鳥缶で和風とかもアリかもです」
「わぁ……ちょ、ちょっと今やろうよ! 俺ツナ缶も焼き鳥缶もある!!」
「はいはい、分かりましたよ」
そこからは即席ピザトーストパーティーだった。
研究室に置いてある食材をあれこれ引っ張り出してきて、各々好きなトッピングをする。
「この組合せ神だよ!」
「こっちもなかなかイケます」
俺も律先輩もテンションが上がってきて、食べ比べてホワイトボードにランキングまでつけた。
律先輩が幸せそうに笑うから、俺の心臓は締め付けられそうだった。
少しは元気になってくれたかな?



