研究室でご飯を。君と。

 スポーツドリンクを買おうと伸ばした手が震える。
 何とか三本購入すると、早足で先輩のもとへと急いだ。

「先輩! これ、飲んでください」
「んー? ありがと」

 先輩は少しぼんやりとした様子でスポーツドリンクを飲み始めた。

「沁みるー。なんかいつもより美味しく感じるし。ハルくんが買ってくれたからだね」
「脱水症状が出てるからですよ! とにかく飲んでください」

 先輩が飲んでいる間、俺は後ろに回り込むと、残りの二本を先輩の首元にあてがった。

「ひゃーっ、冷たいよ」
「冷やしてますもん。じっとしててください」
「はあい」

 スポーツドリンクを一本飲み終わる頃、律先輩は見た目にも分かるくらい元気になった。
 症状が軽くて良かった。

「もう大丈夫。心配させてごめんね?」
「念のため、もう少しだけ休みましょう」
「大げさだなぁ。ここでじっとしてるの暇じゃーん」
「そうですけど……じゃあ、ミュージアムショップでガイドブック買ってきます」

 俺はそれだけ言い残してショップへと向かった。とにかく先輩を休ませたい。
 でないとまた無理するに決まっているのだから――。



「律先輩、買ってきまし……」

 ショップから戻ってきた俺は、思わず足を止めた。
 綺麗な女性が三人。律先輩を取り囲んでいたからだ。

 先輩は俺と目が合うと、険しかった顔をほころばせた。

「あ、ハルくん戻ってきた。ほら連れがいるんだって。だから君たちとは遊べない。興味もないし」

 先輩が鬱陶しそうに手をひらひらと振る。
 それでも女性たちはめげなかった。

「あの子も一緒でいいからさ」
「そうそう。皆で遊ぼうよ」
「お姉さん達が奢ってあげる」

 律先輩の表情がみるみる鋭くなっていく。

 マズい。

 俺は慌てて駆け寄ると、先輩の腕をぎゅっと掴んだ。

「あ、あのっ、すみません! この人のことは諦めてください。今日は二人きりで過ごす約束なんです! ごめんさないっ!」

 必死にそう言った途端、しーんとした静寂が訪れた。

 お、俺は何を言ったんだ!?
 口から勝手について出てしまった。
 焦りとともに女性たちの反応を伺うと、彼女たちはキョトンとした後、ケラケラと笑い出した。

「なにそれー可愛いんだけど」
「なんか私達お邪魔だったね?」
「ごめんね。二人で楽しんでー」

 三人は機嫌良く去っていく。
 なぜか菩薩のような微笑みを浮かべて、俺たちを交互に見ていたのが気になるが。

 よ、良かった。……のか?

 去っていく三人を見ながらぼんやりしていると、律先輩に肩を叩かれた。

 しまった。俺のせいで律先輩が変な目で見られてしまった。
 そっと振り返ると、先輩の表情は想像と違いって満足そうに微笑んでいた。

「あっ……あの、さっきの発言は、咄嗟のことで……」
「ありがとう、ハルくん。おかげで助かった」

 律先輩の声は柔らかくて、いつものからかい混じりの言い方ではなかった。
 俺はますます恥ずかしくなって、俯いたままコクリと頷いた。じわじわと全身が汗ばんでくる。

「嬉しかったよ。今日は二人で楽しもうね」
「っ……!」

 するりと腕を組まれ、顔をのぞき込まれる。
 俺、今絶対ヤバい顔をしてるのに。
 
「ハールくん」
「……もう忘れてください」
「やだよ。助けてくれたハルくん格好良かったもん。……俺が断ったら、もっと空気悪くなってた。だから、ありがとう」

 身体をぐっと引き寄せられ、頭を撫でられる。
 先輩の手が熱くて、俺も熱中症になってしまいそうだった。