健太郎に連れてこられた場所は、学生課の奥にある部屋だった。
 扉に『就職支援室』と書かれたそこは、多種多様な企業のチラシや就職対策本が並べられている。
 部屋の一角では学生課の職員が学生の相談に乗っているようだった。

「どうだ? 受けたい企業とか業界ある?」
「いや……」
「そもそも春樹って、希望職種何?」
「営業かな」
「マジー? 意外!」

 健太郎はキョロキョロとデスクに置かれたチラシを見ると、何枚を取った。

「じゃあこの辺りかな。ほら、このスケジュールならまだ余裕だろ?」
「あぁ……まぁ」

 営業職だけなら、まだ大量に募集がある。
 でも興味のない業界の営業なんて、出来る気がしなかった。
 そもそも、売りたいって思えないと営業なんて無理だろうし。

 でも、チラシに掲載されている社員インタビューの人達は皆キラキラして見えた。俺もこんな風に働ける日がくるんだろうか。
 
 そうやってチラシを眺めていると、学生課の職員がやってきた。

「営業に興味があるのかい?」
「はい……一応」
「気になる業界はある?」

 さっきの健太郎と同じような質問をされる。
 人の良さそうな職員と健太郎に囲まれた俺は、観念することにした。

「医療系を……だからMRとか医療器具の営業を狙っているんですけど、今のところ全敗です」

 職員は微笑むと、いくつかのチラシと書類を持ってきた。

「今、学校に来てる募集だと……この三社かな。この会社とか、学校推薦の二次募集もあるから、良かったら検討してみて」
「はい……ありがとうございます」


 その後、エントリーシートを見てもらったり、面接の練習の予約を取ったり……。
 気がつくと夕方になっていた。

 健太郎は結局、隣で最後まで話を聞いていた。
 関係ないんだから帰ったっていいのに。

「遅くまで付き合わせて悪かったな」

 健太郎は疲れも見せず嬉しそうに笑っていた。

「いいって。ってか、春樹の話聞けて良かったし」
「そういえば、健太郎はどこに内々定貰ったんだ?」

 俺の質問に健太郎は目を輝かせる。

「おっ! 俺に興味出てきた? シーランド飲料の営業! どう? 俺っぽいだろ?」
「確かに」

 大手飲料メーカーのイケイケな感じは、健太郎と合っていた。営業マンとしてバリバリ案件を取ってくる姿が想像できる。

 じゃあ俺は?
 俺はどこの企業っぽいんだろう。
 どんな仕事なら出来るんだろう……。