八月。
 猛暑日が続いているようで、どうしょうもないくらいに暑い。講義棟の廊下を歩いているだけで溶けそうだ。

 Tシャツが肌にじっとり張り付くのが気持ち悪くてイライラする。
 ……嘘。本当のイライラは別の理由だ。

「春樹ー! 聞いて聞いて、俺やっと内々定出たー!」

 そんな俺の苛立ちもつゆ知らず、健太郎がうきうきと俺に駆け寄ってきた。
 しかも、今一番聞きたくない話題を持って。

「やーっと決まりそうだよ。あ、春樹は? もう何社か決まってる?」
「……ゼロ。最終面接までいった会社からも祈られた」

 俺が感情を抑えてそれだけ伝えると、健太郎は目を見開いていた。目がこぼれ落ちそうだ。

「マ、マジ? 春樹が? あと持ち駒いくつ?」
「……あと三社」

 感触の良かった企業から次々とお祈りメールが届き、八方塞がりなのだ。
 内々定の出ている健太郎と話している余裕なんかない。

 それなのに、健太郎は真面目な顔をして俺を引き止めた。
 こんな暑いところで止まりたくないんだけど。

「就職支援室行くか? まだ結構募集貼ってあったぜ? 多分、エントリーシートとかも見てもらえるぞ?」
「健太郎のくせに気使ってる?」
「当たり前だろー。親友の危機だし」

 俺の背中をバシッと叩くと、俺の腕を掴んでもと来た道を戻り始めた。

「いつから親友になったんだよ、お前は」
「えー? そりゃあ、春樹が就活仲間だって気づいた時からでしょ? 進学組と違って、俺ら戦友だからな」

 ……親友なのか、仲間なのか、戦友なのか、はっきりしろよ。