その日、俺は第二志望の企業の面接だった。
面接官とは話が盛り上がって、かなり手応えがあった。
「これは内定もらえるのでは……?」
県をまたいで移動した疲れもあったが、どこか気待ちが浮ついていた。
もう辺りはすっかり暗くなっている。寮に帰ろうと電車を降りて歩き出すと、改札の外に見覚えのある人が立っていた。
人気の少ない駅では、それが誰なのかすぐに分かった。
「あ、桜庭せんぱ……」
声をかけようとして、すぐに口をつぐんだ。
先輩は綺麗な女の人と一緒にいたからだ。
彼女?
思わず隠れてしまった俺は、そっと二人の様子をうかがった。
よーく耳を澄ませると、ぼそぼそと途切れ途切れに会話が聞こえてくる。
女性が甘えた声で「律くん」とか呼んでいた。
俺だって名前で呼んだことないのに。
しばらくじっと聞いていると、女性の声が段々と大きくなってきた。
なんだか様子がおかしい。
「待ち伏せなんて言い方しないでよ……だって律くん、最近全然構ってくれないじゃん!」
「いや、君と俺はただの他人でしょ? 何回か喋っただけなのに構ってくれとか……おこがましくない?」
ひどく冷たい声が俺の耳を通り抜ける。
背筋が凍りそうなその声は、今まで聞いたことがなかった。
「こうやって待ち伏せされたり、何回も連絡されたって困るんだよね。無視されている時点で分かるでしょ?」
「最低!」
パチンという音ともに涙声の罵倒が聞こえる。女の人はそのまま改札を抜け、ホームの方へ走り去っていった。
「しゅ、修羅場だった……?」
ドラマの一幕を観てしまったようだ。しかも先輩の。
……気まず過ぎる。
仕方がない。先輩がいなくなるまで待とう。
と思っていたのに……。
「おーい、ハルくん。改札出ないのー? 帰るの遅くなっちゃうよ」
「ひぇっ」
バ、バレてた。
俺が物陰からそろりと先輩の方を見ると、先輩はにこやか手を振っていた。
左の頬が少し赤いけど……いつもの先輩みたいだ。
「帰るんでしょ? そんな所に隠れてないで一緒に行こー」
「あっ、はい」
俺は観念して改札を出る。
先輩は待ってましたとばかりに肩を組んできた。かすかに香水の香りがする。
あの女の人のかな。
……無言なのが気まずいって。
「さ、さっきの、彼女さん……とか?」
恐る恐る尋ねると、肩に置かれていた先輩の手がピクリと動く。
「ははは、勘弁してよー。なんか付き纏ってくる人。あれだけ怒らせたら、もう来ないっしょ」
冷たく吐き捨てるような言い方が、別人みたいだ。
こんなに近くにいるのに、先輩が遠い。
いつも何を話していたっけ?
分からなくなって黙ったままいると、先輩が俺の肩を引き寄せた。
「わっ……!」
「ハルくんちょっと引いてない? もー、弁明させてよ。研究室寄って行こ? ハルくんともう少し一緒にいたいなー」
「え? わ、分かりました」
先輩に寄りかかられ、耳の先まで熱い。何と言うべきか分からなくなって、勢いで同意してしまった。
だって先輩、本当に寂しそうな声だったし。
面接官とは話が盛り上がって、かなり手応えがあった。
「これは内定もらえるのでは……?」
県をまたいで移動した疲れもあったが、どこか気待ちが浮ついていた。
もう辺りはすっかり暗くなっている。寮に帰ろうと電車を降りて歩き出すと、改札の外に見覚えのある人が立っていた。
人気の少ない駅では、それが誰なのかすぐに分かった。
「あ、桜庭せんぱ……」
声をかけようとして、すぐに口をつぐんだ。
先輩は綺麗な女の人と一緒にいたからだ。
彼女?
思わず隠れてしまった俺は、そっと二人の様子をうかがった。
よーく耳を澄ませると、ぼそぼそと途切れ途切れに会話が聞こえてくる。
女性が甘えた声で「律くん」とか呼んでいた。
俺だって名前で呼んだことないのに。
しばらくじっと聞いていると、女性の声が段々と大きくなってきた。
なんだか様子がおかしい。
「待ち伏せなんて言い方しないでよ……だって律くん、最近全然構ってくれないじゃん!」
「いや、君と俺はただの他人でしょ? 何回か喋っただけなのに構ってくれとか……おこがましくない?」
ひどく冷たい声が俺の耳を通り抜ける。
背筋が凍りそうなその声は、今まで聞いたことがなかった。
「こうやって待ち伏せされたり、何回も連絡されたって困るんだよね。無視されている時点で分かるでしょ?」
「最低!」
パチンという音ともに涙声の罵倒が聞こえる。女の人はそのまま改札を抜け、ホームの方へ走り去っていった。
「しゅ、修羅場だった……?」
ドラマの一幕を観てしまったようだ。しかも先輩の。
……気まず過ぎる。
仕方がない。先輩がいなくなるまで待とう。
と思っていたのに……。
「おーい、ハルくん。改札出ないのー? 帰るの遅くなっちゃうよ」
「ひぇっ」
バ、バレてた。
俺が物陰からそろりと先輩の方を見ると、先輩はにこやか手を振っていた。
左の頬が少し赤いけど……いつもの先輩みたいだ。
「帰るんでしょ? そんな所に隠れてないで一緒に行こー」
「あっ、はい」
俺は観念して改札を出る。
先輩は待ってましたとばかりに肩を組んできた。かすかに香水の香りがする。
あの女の人のかな。
……無言なのが気まずいって。
「さ、さっきの、彼女さん……とか?」
恐る恐る尋ねると、肩に置かれていた先輩の手がピクリと動く。
「ははは、勘弁してよー。なんか付き纏ってくる人。あれだけ怒らせたら、もう来ないっしょ」
冷たく吐き捨てるような言い方が、別人みたいだ。
こんなに近くにいるのに、先輩が遠い。
いつも何を話していたっけ?
分からなくなって黙ったままいると、先輩が俺の肩を引き寄せた。
「わっ……!」
「ハルくんちょっと引いてない? もー、弁明させてよ。研究室寄って行こ? ハルくんともう少し一緒にいたいなー」
「え? わ、分かりました」
先輩に寄りかかられ、耳の先まで熱い。何と言うべきか分からなくなって、勢いで同意してしまった。
だって先輩、本当に寂しそうな声だったし。



