<番外編>
立花さんの懺悔と祈り
文化祭1日目の今日、フリータイムに居場所がないからと美術部の展示にやってきた冴木くん。「行くところかがなくて」と言うので、受付当番をしている私の横に客寄せ要員として座ってもらっていたんだけど、突然泣き出してしまった。
人目もあるし、泣き止まないしで困っていたら、保健委員の未希ちゃんが、応接室が空いているはずだからと教えてくれて、そこに連れて行くことにした。
「立花さっ、ご、ごめ……こんな……迷惑かけて」
謝りながらぽろぽろと涙をこぼす冴木くんの姿はそれはそれはもう神々し、じゃなくて痛々しくて胸が締め付けられた。
なんでも、今日、小林くんが彼女と文化祭を過ごすのかと考えたら悲しくなって、涙が止まらなくなったんだって……。そりゃ泣けちゃうよね……。
私だって小林くんに彼女ができたって聞いたときは本当に驚いたし、泣きそうになってる冴木くんの気持ちを思うと本当にやるせなかった。
あんまり泣き止んでくれないものだから、心配になった私は隣の保健室にタオルと保冷剤をもらいに行った。
そうしたら、保健室でいつも小林くんと仲良くしている隣のクラスの班目くんにばったり出くわして……。直接話したことはないけど、面識はあったから無視するのも変かなと考えていたら向こうから話しかけてきたではないか。
「あれ、春斗は? 一緒じゃないの? 約束は明日の後夜祭だけ?」
「え? 冴木くんとは約束してないけど……」
なんとなく班目くんの声に棘を感じて首をかしげると、班目くんも一緒になって首を傾げた。
「はぁ? 約束してないってどういうこと? だって、えっと、立花さん、だっけ、春斗と付き合ってるんだよな?」
「はぁ? なに言ってるんですか? 私が冴木くんと付き合うわけないですけど……って、え……、も、もしかして、小林くんも、私と冴木くんが付き合ってるって……」
「思ってるけど、違うの?」
「ち、違う! 冴木くんとはただの友だち!」
「じゃぁ、春斗は誰と後夜祭の約束したんだ?」
「約束なんて誰ともしてないと思うけど……」
「え、そうなの? じゃぁ冬璃が誘えばまだ間に合うかもってこと……?」
独り言のようにつぶやかれたそれを聞き逃さなかった私は、思わず班目くんに詰め寄った。
「ちょ、ちょっと、小林くんがなに⁉ そこ詳しく!」
班目くんから聞いた衝撃の事実に、私は気付いたら走っていた。
『冬璃は後夜祭に春斗を誘うつもりだったのに、先約があるって噂で聞いて諦めたんだよ。春斗と仲のいい女子なんてあんたしかいないじゃん。だから俺らみんなあんたと春斗が付き合ってるんだとばっかり……。え、冬璃の彼女? あぁ、あれは噂。単なる断る口実だから冬璃に彼女なんていない』
――そんなぁー! 壁が当て馬になって二人の仲を壊してたなんて洒落にならないじゃないのよぉー!
なんたる不覚……。
まさか私と冴木くんが付き合ってると周りに思われていたなんて、青天の霹靂だった。
しかも、そのせいで小林くんが冴木くんを文化祭に誘う機会を奪ってしまっていたなんて……!
――あぁもう、本当に壁失格だわ!
どうにか、どうにか、挽回しなければ……!
と、私は全力で走った。
確か、今の時間はちょうどクラス展示の交代時間だったはず、とうろ覚えの記憶を頼りに私は教室に向かう。すると、ちょうど教室から出ていく小林くんの姿があって、私は縋る思いで彼の腕を掴んだ。
「冴木くんが大変なの!」
「――ご迷惑とご心配をおかけしました……。その……、いろいろと、ありがとう」
しばらくして、小林くんと二人で私のところに来てくれた冴木くんは、申し訳なさそうにペコリと頭を下げた。
目は真っ赤に充血してるし瞼もぷっくり腫れた顔は、相変わらず痛々しかったけど、その表情は柔らかくて二人が上手くいったことを如実に表していて、体から力が抜けていく。
「よかったぁ……よかったぁ……うっ、うわーん」
冴木くんの初恋が叶ってよかった……。
悩んで苦しんでいる冴木くんをずっとそばで見てきたから……。自分のことのように嬉しくて、緊張が緩んで一緒に涙腺も崩壊してしまった。
「さ、冴木ぐん……よがっだねぇ……ホント、よがっだぁ……」
私は涙と鼻水まみれの顔のまま、感極まって冴木くんの両手を握りしめた。
「どうか、幸せになっでねぇ……。わだぢ、壁になっでずっと二人のこど見守っでるからぁ」
「あ、え、う、うん……、ありがとう……?」
「あーじゃぁ、俺らもう行かなきゃだから」
冴木くんのすべすべの手を堪能していたら、それをさっと奪われてしまった。
はっ、いけない、攻めの前で受けに触れるなんて!
また私は失態を……!
ふと冴木くんを見ると、頬を染めて恥ずかしそうに照れながら小林くんが触れた手を見つめている。
――眼福……!
あぁ、私の(推し)受けはなんて健気で可愛いのかしら。
これから幸せいっぱいの受けの姿を毎日拝めると思うと……垂涎ものだわ……じゅるッ!
――どうか、末永くお幸せに……。
去って行く二人の背中に手を合わせた。
「供給待ってます……」
立花さんの懺悔と祈り
文化祭1日目の今日、フリータイムに居場所がないからと美術部の展示にやってきた冴木くん。「行くところかがなくて」と言うので、受付当番をしている私の横に客寄せ要員として座ってもらっていたんだけど、突然泣き出してしまった。
人目もあるし、泣き止まないしで困っていたら、保健委員の未希ちゃんが、応接室が空いているはずだからと教えてくれて、そこに連れて行くことにした。
「立花さっ、ご、ごめ……こんな……迷惑かけて」
謝りながらぽろぽろと涙をこぼす冴木くんの姿はそれはそれはもう神々し、じゃなくて痛々しくて胸が締め付けられた。
なんでも、今日、小林くんが彼女と文化祭を過ごすのかと考えたら悲しくなって、涙が止まらなくなったんだって……。そりゃ泣けちゃうよね……。
私だって小林くんに彼女ができたって聞いたときは本当に驚いたし、泣きそうになってる冴木くんの気持ちを思うと本当にやるせなかった。
あんまり泣き止んでくれないものだから、心配になった私は隣の保健室にタオルと保冷剤をもらいに行った。
そうしたら、保健室でいつも小林くんと仲良くしている隣のクラスの班目くんにばったり出くわして……。直接話したことはないけど、面識はあったから無視するのも変かなと考えていたら向こうから話しかけてきたではないか。
「あれ、春斗は? 一緒じゃないの? 約束は明日の後夜祭だけ?」
「え? 冴木くんとは約束してないけど……」
なんとなく班目くんの声に棘を感じて首をかしげると、班目くんも一緒になって首を傾げた。
「はぁ? 約束してないってどういうこと? だって、えっと、立花さん、だっけ、春斗と付き合ってるんだよな?」
「はぁ? なに言ってるんですか? 私が冴木くんと付き合うわけないですけど……って、え……、も、もしかして、小林くんも、私と冴木くんが付き合ってるって……」
「思ってるけど、違うの?」
「ち、違う! 冴木くんとはただの友だち!」
「じゃぁ、春斗は誰と後夜祭の約束したんだ?」
「約束なんて誰ともしてないと思うけど……」
「え、そうなの? じゃぁ冬璃が誘えばまだ間に合うかもってこと……?」
独り言のようにつぶやかれたそれを聞き逃さなかった私は、思わず班目くんに詰め寄った。
「ちょ、ちょっと、小林くんがなに⁉ そこ詳しく!」
班目くんから聞いた衝撃の事実に、私は気付いたら走っていた。
『冬璃は後夜祭に春斗を誘うつもりだったのに、先約があるって噂で聞いて諦めたんだよ。春斗と仲のいい女子なんてあんたしかいないじゃん。だから俺らみんなあんたと春斗が付き合ってるんだとばっかり……。え、冬璃の彼女? あぁ、あれは噂。単なる断る口実だから冬璃に彼女なんていない』
――そんなぁー! 壁が当て馬になって二人の仲を壊してたなんて洒落にならないじゃないのよぉー!
なんたる不覚……。
まさか私と冴木くんが付き合ってると周りに思われていたなんて、青天の霹靂だった。
しかも、そのせいで小林くんが冴木くんを文化祭に誘う機会を奪ってしまっていたなんて……!
――あぁもう、本当に壁失格だわ!
どうにか、どうにか、挽回しなければ……!
と、私は全力で走った。
確か、今の時間はちょうどクラス展示の交代時間だったはず、とうろ覚えの記憶を頼りに私は教室に向かう。すると、ちょうど教室から出ていく小林くんの姿があって、私は縋る思いで彼の腕を掴んだ。
「冴木くんが大変なの!」
「――ご迷惑とご心配をおかけしました……。その……、いろいろと、ありがとう」
しばらくして、小林くんと二人で私のところに来てくれた冴木くんは、申し訳なさそうにペコリと頭を下げた。
目は真っ赤に充血してるし瞼もぷっくり腫れた顔は、相変わらず痛々しかったけど、その表情は柔らかくて二人が上手くいったことを如実に表していて、体から力が抜けていく。
「よかったぁ……よかったぁ……うっ、うわーん」
冴木くんの初恋が叶ってよかった……。
悩んで苦しんでいる冴木くんをずっとそばで見てきたから……。自分のことのように嬉しくて、緊張が緩んで一緒に涙腺も崩壊してしまった。
「さ、冴木ぐん……よがっだねぇ……ホント、よがっだぁ……」
私は涙と鼻水まみれの顔のまま、感極まって冴木くんの両手を握りしめた。
「どうか、幸せになっでねぇ……。わだぢ、壁になっでずっと二人のこど見守っでるからぁ」
「あ、え、う、うん……、ありがとう……?」
「あーじゃぁ、俺らもう行かなきゃだから」
冴木くんのすべすべの手を堪能していたら、それをさっと奪われてしまった。
はっ、いけない、攻めの前で受けに触れるなんて!
また私は失態を……!
ふと冴木くんを見ると、頬を染めて恥ずかしそうに照れながら小林くんが触れた手を見つめている。
――眼福……!
あぁ、私の(推し)受けはなんて健気で可愛いのかしら。
これから幸せいっぱいの受けの姿を毎日拝めると思うと……垂涎ものだわ……じゅるッ!
――どうか、末永くお幸せに……。
去って行く二人の背中に手を合わせた。
「供給待ってます……」



