※晴翔視点に戻ります※
それからも、連日運動部の助っ人に呼ばれた。断りきれなかった俺のために、今日も蓮が野球部の助っ人の代理をしてくれている。
(頑張れー!)
心の中で声援を送れば、蓮がボールを打った。しかも、ホームラン。
歓声が起こる中、蓮は軽快なステップでベースを踏んでいく。走りながら蓮に手を振られ、ウィンクをされた。
「もう……恥ずいだろ」
おかげで、俺の周りにいた生徒らが、男女共に冷やかしにきた。
「ねぇねぇ、彼氏が蓮君って、やっぱ自慢だよね?」
「デートどこ行ったの?」
「幼馴染なんだろ? 昔から好きだったのか?」
「どっちから告ったの?」
「あー、えっと……」
何からどこまで話して良いものか。とにかく、穴があったら入りたい気持ちでキョロキョロしていたら、一人だけ殺気のようなものを向けてくる人物がいた。
(うわー、五十嵐君だ。めっちゃ睨まれてる)
見た目は、可愛い系のワンコキャラなのであまり威圧感はない。ただ、面倒臭そうなので関わりたくはない。
けど、こういう奴は大抵来る。
ほら来た。
「ねぇ、佐倉君。勝負しない?」
「しない」
即答したら、五十嵐の額に青筋が浮かんだ。
「ボクに負けるのが、怖いんだ?」
「悪いか」
俺は勝負事はかなり弱い。多分、何をしても負ける。そんな自信がある。
どうせ勝負に勝った方が蓮をもらう、みたいな勝負だろう。せっかく今は俺のモノなのに、わざわざくれてやるギリはない。
「何々? 修羅場ってやつ?」
「蓮君を奪い合う、的な?」
「キャー、素敵」
周りから黄色い声が聞こえてきた。
恥をかく前に退散しよう。
ただでさえ学校中にゲイだと思われて恥ずかしい思いをしているというのに、勝負に負けて蓮を取られた、なんてシャレにならない。
立ち上がってグラウンドに背を向ければ、負け犬の如く五十嵐が吠えた。
「そんな余裕ぶっこいちゃってさ、葉山君を満足させてあげられてるの? 男はさ、テクニックがないと。すぐ捨てられちゃうんだから」
「満足……」
確かに、蓮はいつもニコニコしているが、満足しているかと言われると分からない。しかし、恋人のフリの満足とは何ぞや。
人前で手も繋いだし、ハグもした。五十嵐の前ではキスもした。残るは……。
「晴翔、どうかしたの?」
「蓮……」
蓮が試合を終えたようだ。周りにいた生徒らは道を開け、キラキラと光る蓮が俺の元にやってきた。
キラキラと汗が光に反射し、野球のユニフォームを着た蓮は一段と格好良い。
「お疲れ様。俺の為にありがとう」
タオルとドリンクを渡せば、蓮が嬉しそうに受け取った。
「僕、格好良かった?」
「うん……すごく」
小さな声で本心を言えば、周りの、特に女子生徒らが悶え始めた。
「リアルBL……尊い」
「『俺の為』だって。恋人の為に戦う彼……素敵」
「蓮君の相手は、もっと違う人が良いなんて思ってたけど……良い。すごく良いわ」
若干失礼な発言もあったりするが、凄く恥ずかしい。
こんなにも生徒らに知れ渡った状況で、恋人のフリの満足度MAXとは何ぞや。
そこで俺は閃いた。
『恋人のフリで満足』それは、ズバリ!
『好き』の二文字。ハグやキス等の物理的接触も有効だが、言葉ではまだ伝えていないかもしれない。蓮からは言われたが、俺からは言っていない。
もしかしたら、蓮は互いに『好きだよ』と言い合いたいのかもしれない。それで満足して貰えるだろうか。
「晴翔? 大丈夫?」
「う、うん。あのさ、蓮」
「ん?」
「す、す、す……」
「す?」
まずい、言葉が出てこない。残るは『き』の一文字なのに。
「す、す、すっごい汗だな。俺が背中流してやろうか」
言えなかった。そして、『好き』よりも大胆な発言をしてしまった。蓮を含めた周りの全員が頬を赤らめている。
「お風呂だって」
「背中だけってことはないわよね?」
「ないない。二人でお風呂って言ったら……」
「佐倉君って、見た目に似合わず大胆ね」
女子らの囁きが痛いほど聞こえてくる。
こんな時も、俺を助けてくれるのはただ一人。
「たまにはスーパー銭湯寄って帰るのも良いよね。岩盤浴とかもあるしさ」
「蓮……ありがとう」
色めき立った女子らが、一気に落胆の声をあげた。
「なんだ、二人きりじゃないんだ」
「スーパー銭湯か、自宅風呂想像しちゃった」
そして、その場にいた生徒らは、少しずつ散っていった——。
「葉山君、好きだ! 付き合って欲しい!」
って、お前はまだいたのか。五十嵐。
そして、そんなにあっさり『好き』の二文字が言えるなんて羨ましい。
「でも、どうせならフリじゃなくて、本気で言いたいな」
フラれるのが分かっているので言えないけれど。
「晴翔、何を言いたいの?」
「え!? 俺、声に出してた?」
「うん」
俺は誤魔化すように、カバンを肩にかけ直しながら言った。
「な、何でもない。早く着替えてこいよ。帰ろーぜ」
「背中流してもらわなきゃだしね」
「え!?」
蓮は上機嫌に更衣室に向かった——。
もちろん、五十嵐は無視だ。
それからも、連日運動部の助っ人に呼ばれた。断りきれなかった俺のために、今日も蓮が野球部の助っ人の代理をしてくれている。
(頑張れー!)
心の中で声援を送れば、蓮がボールを打った。しかも、ホームラン。
歓声が起こる中、蓮は軽快なステップでベースを踏んでいく。走りながら蓮に手を振られ、ウィンクをされた。
「もう……恥ずいだろ」
おかげで、俺の周りにいた生徒らが、男女共に冷やかしにきた。
「ねぇねぇ、彼氏が蓮君って、やっぱ自慢だよね?」
「デートどこ行ったの?」
「幼馴染なんだろ? 昔から好きだったのか?」
「どっちから告ったの?」
「あー、えっと……」
何からどこまで話して良いものか。とにかく、穴があったら入りたい気持ちでキョロキョロしていたら、一人だけ殺気のようなものを向けてくる人物がいた。
(うわー、五十嵐君だ。めっちゃ睨まれてる)
見た目は、可愛い系のワンコキャラなのであまり威圧感はない。ただ、面倒臭そうなので関わりたくはない。
けど、こういう奴は大抵来る。
ほら来た。
「ねぇ、佐倉君。勝負しない?」
「しない」
即答したら、五十嵐の額に青筋が浮かんだ。
「ボクに負けるのが、怖いんだ?」
「悪いか」
俺は勝負事はかなり弱い。多分、何をしても負ける。そんな自信がある。
どうせ勝負に勝った方が蓮をもらう、みたいな勝負だろう。せっかく今は俺のモノなのに、わざわざくれてやるギリはない。
「何々? 修羅場ってやつ?」
「蓮君を奪い合う、的な?」
「キャー、素敵」
周りから黄色い声が聞こえてきた。
恥をかく前に退散しよう。
ただでさえ学校中にゲイだと思われて恥ずかしい思いをしているというのに、勝負に負けて蓮を取られた、なんてシャレにならない。
立ち上がってグラウンドに背を向ければ、負け犬の如く五十嵐が吠えた。
「そんな余裕ぶっこいちゃってさ、葉山君を満足させてあげられてるの? 男はさ、テクニックがないと。すぐ捨てられちゃうんだから」
「満足……」
確かに、蓮はいつもニコニコしているが、満足しているかと言われると分からない。しかし、恋人のフリの満足とは何ぞや。
人前で手も繋いだし、ハグもした。五十嵐の前ではキスもした。残るは……。
「晴翔、どうかしたの?」
「蓮……」
蓮が試合を終えたようだ。周りにいた生徒らは道を開け、キラキラと光る蓮が俺の元にやってきた。
キラキラと汗が光に反射し、野球のユニフォームを着た蓮は一段と格好良い。
「お疲れ様。俺の為にありがとう」
タオルとドリンクを渡せば、蓮が嬉しそうに受け取った。
「僕、格好良かった?」
「うん……すごく」
小さな声で本心を言えば、周りの、特に女子生徒らが悶え始めた。
「リアルBL……尊い」
「『俺の為』だって。恋人の為に戦う彼……素敵」
「蓮君の相手は、もっと違う人が良いなんて思ってたけど……良い。すごく良いわ」
若干失礼な発言もあったりするが、凄く恥ずかしい。
こんなにも生徒らに知れ渡った状況で、恋人のフリの満足度MAXとは何ぞや。
そこで俺は閃いた。
『恋人のフリで満足』それは、ズバリ!
『好き』の二文字。ハグやキス等の物理的接触も有効だが、言葉ではまだ伝えていないかもしれない。蓮からは言われたが、俺からは言っていない。
もしかしたら、蓮は互いに『好きだよ』と言い合いたいのかもしれない。それで満足して貰えるだろうか。
「晴翔? 大丈夫?」
「う、うん。あのさ、蓮」
「ん?」
「す、す、す……」
「す?」
まずい、言葉が出てこない。残るは『き』の一文字なのに。
「す、す、すっごい汗だな。俺が背中流してやろうか」
言えなかった。そして、『好き』よりも大胆な発言をしてしまった。蓮を含めた周りの全員が頬を赤らめている。
「お風呂だって」
「背中だけってことはないわよね?」
「ないない。二人でお風呂って言ったら……」
「佐倉君って、見た目に似合わず大胆ね」
女子らの囁きが痛いほど聞こえてくる。
こんな時も、俺を助けてくれるのはただ一人。
「たまにはスーパー銭湯寄って帰るのも良いよね。岩盤浴とかもあるしさ」
「蓮……ありがとう」
色めき立った女子らが、一気に落胆の声をあげた。
「なんだ、二人きりじゃないんだ」
「スーパー銭湯か、自宅風呂想像しちゃった」
そして、その場にいた生徒らは、少しずつ散っていった——。
「葉山君、好きだ! 付き合って欲しい!」
って、お前はまだいたのか。五十嵐。
そして、そんなにあっさり『好き』の二文字が言えるなんて羨ましい。
「でも、どうせならフリじゃなくて、本気で言いたいな」
フラれるのが分かっているので言えないけれど。
「晴翔、何を言いたいの?」
「え!? 俺、声に出してた?」
「うん」
俺は誤魔化すように、カバンを肩にかけ直しながら言った。
「な、何でもない。早く着替えてこいよ。帰ろーぜ」
「背中流してもらわなきゃだしね」
「え!?」
蓮は上機嫌に更衣室に向かった——。
もちろん、五十嵐は無視だ。



