※蓮視点です※
一方、僕こと葉山蓮は————。
どうやら、晴翔を怒らせてしまったようだ。
「どうしよ……嫌われたかな」
パンケーキを食べる気力も無くなった。
「ごめんね。ぼくのせいかな?」
松田先輩も、サンドウィッチを食べる手を止め、困った顔で聞いてきた。
「松田先輩は何もしてませんよ。多分僕のせいです」
僕が、海斗を警戒しすぎて廊下ばかり見ていたから。晴翔が隣にいるのに、廊下ばかり見ていたから。愛想を尽かされたのかもしれない。きっとそうだ。
そして、海斗の元に行ってしまった晴翔を追いかけるべきか。いや、今行っても火に油な気もする。心の狭い僕よりも、海斗の方が良く見えてしまうかもしれない。
そして何より、別れ話になんてなったら……僕はどうすれば良いのか。
「とりあえず食べちゃう? 並んじゃってるし」
松田先輩が、廊下の行列を指さした。
「残すと悪いし、食べて晴翔君探しに行こう」
「そうですね」
食欲は無くなってしまったが、パンケーキは美味しかった——。
カフェを出た僕と松田先輩は、晴翔を探しながら歩いた。
「松田先輩は、もう大丈夫ですよ。僕一人で探しますから」
「ううん。せっかく念願叶って晴翔君と付き合えたのに、ぼくのせいで別れるなんてことになったら困るから」
「すみません……」
そう、僕が晴翔のことを好きなことを唯一相談したのが松田先輩だ。
こんなこと親には相談出来ないし、友達なんて上辺だけで、心を許せる相手も晴翔以外いなかった。そんな中、松田先輩だけには何故か相談できた。
おそらく、松田先輩が晴翔に恋愛感情が無かったこと、且つ松田先輩には心に決めた相手がいたから。だから、話すことが出来たのだと思う。
「松田先輩は、想い人に告白出来たんですか?」
「うん。玉砕しちゃったけど」
「そうなんですね。なんか、すみません」
申し訳ない気持ちになっていると、松田先輩は笑いながら言った。
「何で蓮君が謝るの? むしろ、後押ししてくれた蓮君に感謝だよ。ありがとう」
「後押しって程じゃ……僕はただ、『松田先輩と喋るの楽しいですよ』って言っただけじゃないですか」
「その言葉に、ぼくは救われたから」
「松田先輩……」
松田先輩が、常にマスクで顔を隠していた理由。それは、他人と話をしたくないから。昔、言われたのだとか。
『お前と喋ってもつまんねー』
これがキッカケで、マスクを着用し始めた。そうすることで、風邪気味だからと嘘も吐けるし、何かと誤魔化しがきく。初対面の人は、マスクをしているからか、あまり話しかけてはこない。
次第に松田先輩の交友関係はゼロになり、僕らが出会った頃の松田先輩が完成していた。
そんな松田先輩と晴翔は通ずるものがあるらしく、二人は委員会も一緒になったことから仲良くなった。晴翔と一緒にいる僕も、自ずと仲間入り。
そして、ある日のこと。晴翔が風邪で学校を休んだ日があった。僕は晴翔の代わりに、松田先輩と二人で図書委員の仕事をこなしていた。いつものように話しかけていたら、松田先輩に言われた。
『僕と二人なんて嫌だよね。ごめんね』
そりゃ、晴翔がいない生活なんて嫌だ。早く元気になってもらって、一緒に学校に行きたい。けれど、今のは、それとはちょっと違う。
『僕は、松田先輩と二人が嫌なんて思わないですよ』
『良いよ。ぼくと喋ってもつまんないだろうし、これ終わったら帰って』
『松田先輩と喋るのがつまらないなんて、一度も思ったことないですよ。僕は、松田先輩と喋るの楽しいです』
それから、松田先輩の過去について聞かされた。一人の悪意ある言葉で、そこまで追い詰められるのかと、悲しくなった。同情しようとすれば、もう一つ聞かされた。
『ぼく、好きな人がいるんだよね』
『え、もしや晴翔!?』
だから、晴翔とは喋るのだろうか。
とんだ勘違いをしていると、苦笑された。
『はは……晴翔君も好きだよ。けど、ぼくには、昔から慕ってるお兄さん的存在がいるんだ』
『えっと、好きな人って……』
『そう、その人が小さい頃から大好きで、ぼくはずっとその人を追いかけてる。でも、ぼく、喋っても面白くないから』
『そんなことないですよ。少なくとも、僕は嫌じゃないです』
『蓮君は優しいね』
それから、松田先輩は、学校以外ではマスクを外すようになった。
僕も、初めは誰か分からなかったが、その姿を一度だけ目にした。
松田先輩になら、僕の恋愛事情を相談しても笑わないと思った。親身になって聞いてくれそうだと。だから、話した——。
「ところで、松田先輩の好きな人って」
「新城司。知ってる?」
「はい。風紀委員でいつもお世話になっています」
「今回の文化祭も誘われたから、これはもしかしてって思ったんだけど、ダメだった。男一人泣いてたら気持ち悪いからさ、お化け屋敷で落ち着かせてた」
「それで一人でお化け屋敷に」
そんな話をしていたら、関西弁で喋る声が聞こえてきた。
「え? マジやったん? そんなん、俺アホみたいやん? 勘違い男やん」
海斗と、山田と三崎もいた。
「本当、ごめん。オレらもさっき知らされて」
「しゃーないなぁ。まぁ、今までと変わらんちゅーこっちゃな。あの澄ました色男より格好良いとこ見せなな……って、噂をすればや」
海斗が僕に気が付いた。
山田と三崎は、『セーフ』と言い合いながら安堵している。
「あれ? 晴翔は? 一緒にラブラブデート中ちゃうん?」
「ちょっとトイレに行ってるだけだよ」
どうやら、晴翔は海斗の元には、まだ辿り着いていないようだ。海斗より早く晴翔を見つけよう。そして、仲直りしよう。
そうすれば、今まで通り上手くいく。
「じゃ、僕、晴翔迎えに行ってくるから」
余裕そうに……けれど、心は急いで晴翔を探す。
一方、僕こと葉山蓮は————。
どうやら、晴翔を怒らせてしまったようだ。
「どうしよ……嫌われたかな」
パンケーキを食べる気力も無くなった。
「ごめんね。ぼくのせいかな?」
松田先輩も、サンドウィッチを食べる手を止め、困った顔で聞いてきた。
「松田先輩は何もしてませんよ。多分僕のせいです」
僕が、海斗を警戒しすぎて廊下ばかり見ていたから。晴翔が隣にいるのに、廊下ばかり見ていたから。愛想を尽かされたのかもしれない。きっとそうだ。
そして、海斗の元に行ってしまった晴翔を追いかけるべきか。いや、今行っても火に油な気もする。心の狭い僕よりも、海斗の方が良く見えてしまうかもしれない。
そして何より、別れ話になんてなったら……僕はどうすれば良いのか。
「とりあえず食べちゃう? 並んじゃってるし」
松田先輩が、廊下の行列を指さした。
「残すと悪いし、食べて晴翔君探しに行こう」
「そうですね」
食欲は無くなってしまったが、パンケーキは美味しかった——。
カフェを出た僕と松田先輩は、晴翔を探しながら歩いた。
「松田先輩は、もう大丈夫ですよ。僕一人で探しますから」
「ううん。せっかく念願叶って晴翔君と付き合えたのに、ぼくのせいで別れるなんてことになったら困るから」
「すみません……」
そう、僕が晴翔のことを好きなことを唯一相談したのが松田先輩だ。
こんなこと親には相談出来ないし、友達なんて上辺だけで、心を許せる相手も晴翔以外いなかった。そんな中、松田先輩だけには何故か相談できた。
おそらく、松田先輩が晴翔に恋愛感情が無かったこと、且つ松田先輩には心に決めた相手がいたから。だから、話すことが出来たのだと思う。
「松田先輩は、想い人に告白出来たんですか?」
「うん。玉砕しちゃったけど」
「そうなんですね。なんか、すみません」
申し訳ない気持ちになっていると、松田先輩は笑いながら言った。
「何で蓮君が謝るの? むしろ、後押ししてくれた蓮君に感謝だよ。ありがとう」
「後押しって程じゃ……僕はただ、『松田先輩と喋るの楽しいですよ』って言っただけじゃないですか」
「その言葉に、ぼくは救われたから」
「松田先輩……」
松田先輩が、常にマスクで顔を隠していた理由。それは、他人と話をしたくないから。昔、言われたのだとか。
『お前と喋ってもつまんねー』
これがキッカケで、マスクを着用し始めた。そうすることで、風邪気味だからと嘘も吐けるし、何かと誤魔化しがきく。初対面の人は、マスクをしているからか、あまり話しかけてはこない。
次第に松田先輩の交友関係はゼロになり、僕らが出会った頃の松田先輩が完成していた。
そんな松田先輩と晴翔は通ずるものがあるらしく、二人は委員会も一緒になったことから仲良くなった。晴翔と一緒にいる僕も、自ずと仲間入り。
そして、ある日のこと。晴翔が風邪で学校を休んだ日があった。僕は晴翔の代わりに、松田先輩と二人で図書委員の仕事をこなしていた。いつものように話しかけていたら、松田先輩に言われた。
『僕と二人なんて嫌だよね。ごめんね』
そりゃ、晴翔がいない生活なんて嫌だ。早く元気になってもらって、一緒に学校に行きたい。けれど、今のは、それとはちょっと違う。
『僕は、松田先輩と二人が嫌なんて思わないですよ』
『良いよ。ぼくと喋ってもつまんないだろうし、これ終わったら帰って』
『松田先輩と喋るのがつまらないなんて、一度も思ったことないですよ。僕は、松田先輩と喋るの楽しいです』
それから、松田先輩の過去について聞かされた。一人の悪意ある言葉で、そこまで追い詰められるのかと、悲しくなった。同情しようとすれば、もう一つ聞かされた。
『ぼく、好きな人がいるんだよね』
『え、もしや晴翔!?』
だから、晴翔とは喋るのだろうか。
とんだ勘違いをしていると、苦笑された。
『はは……晴翔君も好きだよ。けど、ぼくには、昔から慕ってるお兄さん的存在がいるんだ』
『えっと、好きな人って……』
『そう、その人が小さい頃から大好きで、ぼくはずっとその人を追いかけてる。でも、ぼく、喋っても面白くないから』
『そんなことないですよ。少なくとも、僕は嫌じゃないです』
『蓮君は優しいね』
それから、松田先輩は、学校以外ではマスクを外すようになった。
僕も、初めは誰か分からなかったが、その姿を一度だけ目にした。
松田先輩になら、僕の恋愛事情を相談しても笑わないと思った。親身になって聞いてくれそうだと。だから、話した——。
「ところで、松田先輩の好きな人って」
「新城司。知ってる?」
「はい。風紀委員でいつもお世話になっています」
「今回の文化祭も誘われたから、これはもしかしてって思ったんだけど、ダメだった。男一人泣いてたら気持ち悪いからさ、お化け屋敷で落ち着かせてた」
「それで一人でお化け屋敷に」
そんな話をしていたら、関西弁で喋る声が聞こえてきた。
「え? マジやったん? そんなん、俺アホみたいやん? 勘違い男やん」
海斗と、山田と三崎もいた。
「本当、ごめん。オレらもさっき知らされて」
「しゃーないなぁ。まぁ、今までと変わらんちゅーこっちゃな。あの澄ました色男より格好良いとこ見せなな……って、噂をすればや」
海斗が僕に気が付いた。
山田と三崎は、『セーフ』と言い合いながら安堵している。
「あれ? 晴翔は? 一緒にラブラブデート中ちゃうん?」
「ちょっとトイレに行ってるだけだよ」
どうやら、晴翔は海斗の元には、まだ辿り着いていないようだ。海斗より早く晴翔を見つけよう。そして、仲直りしよう。
そうすれば、今まで通り上手くいく。
「じゃ、僕、晴翔迎えに行ってくるから」
余裕そうに……けれど、心は急いで晴翔を探す。



