怖いお化け屋敷を出た俺と蓮。そして、松田先輩は、三年生のカフェに入った。
蓮と隣同士に座り、松田先輩が蓮の前に座った。
「晴翔。先輩のこと覚えてない?」
「え、俺とも接点あるのか?」
松田先輩を見ると、ヘラヘラと柔い笑みを向けられた。
「うーん……ごめんなさい」
いくら過去を遡っても記憶にない。見た目は、優しさが全面に出た頼れるお兄さん。高校の制服は着ていないので、我が校の三年生でないことは確かだ。
首を捻っていると、松田先輩がマスクと黒縁メガネを装着した。
「この方が分かるかな?」
暫しの沈黙が流れ、俺は思い出した。
「え、うそ。あの松田先輩!? 中学ん時、三年生のくせに、一年生にカツアゲされてた松田先輩?」
「晴翔」
「あ、ごめんなさい」
「はは、良いって。本当のことだから」
笑って許してくれる松田先輩は、中学時代の先輩だ。俺の二つ上。
俺が一年生の頃、松田先輩がカツアゲされているところを目撃。俺には何も出来ないと思い蓮に助けを求め、解決したことがキッカケで仲良くなった。委員会も一緒になり、更に距離は縮まった。
そんな先輩も、俺と一緒で陰キャだった。牛乳瓶の底のようなレンズがついた黒縁メガネに、マスクを常に着用して素顔を見たことはなかった。
とはいえ、松田先輩が中学を卒業してからは、一度も会っていない。
「あの時は、全然マスク外さなかったのに、どうしたんですか? それに、メガネ。コンタクトにしたんですか?」
「う、うん」
松田先輩は蓮をチラリと見て、はにかみながら言った。
「ある人に言われてね」
「ある人……」
何となくモヤッとするのは何故だろう。
「でも、晴翔君も変わったよね。髪がバッサリ」
「へへ」
自分のことになると照れる。
「それより、今日は一人で来たんですか?」
「うん」
松田先輩が、再び蓮を一瞥した。
「会いたい人がいて」
「そうなんですね」
平常を装いながら相槌を打つが、心の中は荒れそうだ。
さっきから松田先輩は、蓮を意識し過ぎた。これはもう、蓮に会いに来たと言っているようなものだ。
当の本人である蓮は、何かを警戒するように廊下ばかり気にしている。
「お待たせ致しました。パンケーキとチョコレートパフェです」
蓮の前にはパンケーキ、俺の前にはチョコレートパフェが並んだ。遅れて松田先輩の前にサンドウィッチが置かれた。
「「「いただきます」」」
三人で合掌する。
モヤモヤするが、チョコレートパフェに罪はない。上に刺さったクッキーにアイスを乗せてパクッと食べた。
「んー、うま」
頬を緩めていると、隣と斜め前からの視線に気が付いた。目を向ければ、二人が優しい笑みをこちらに向けていた。
「晴翔、これもどうぞ」
「あ、うん。サンキュー」
ひと口サイズに切られ、フォークに刺さったパンケーキを目の前に差し出され、何の躊躇いもなく食べた。
「晴翔君、昔から美味しそうに食べるよね」
「そ、そうですかね」
「それに、二人とも相変わらず仲良いね。更に近くなった感じ」
「へへ……」
蓮に人前で『あーん』されたことに今更ながら気付き、やや照れる。
けれど、これは松田先輩を牽制するチャンスでは?
「蓮、俺のも食べる?」
スプーンにチョコレートアイスと生クリームを乗せ、蓮の前に差し出した。
蓮は嬉しそうに口を開けた。
その様子を見ても、松田先輩は笑顔を崩さない。
この際、学校中には知れ渡っているし、隠す必要もないか。
「松田先輩、俺ら付き合い始めたんです」
「え、そうなの!?」
流石に今度は驚いている。
ついでに蓮も驚いている。
「晴翔、今日はどうしちゃったの?」
「松田先輩には言っちゃダメなのか?」
「いや、良いけど」
「じゃあ良いじゃん」
これで松田先輩も蓮に手出しをしないはず。そう思ったのに、松田先輩はさっきよりも満面の笑みを浮かべている。
「蓮君。念願叶ったんだね!」
「実は……はい」
蓮が照れている。
「蓮、念願って? 何の話?」
「ナイショ」
「何だよそれ」
「松田先輩に相談乗ってもらってた時期があっただけだよ」
何で俺には内緒なんだ? 何で幼馴染で恋人の俺には言えなくて、松田先輩には話してるんだ? 苛々する。
ムッとして、チョコレートパフェをかき込むように食べた。
「う……」
「晴翔?」
「き、キーンてなった。頭キーンって」
「一気にアイス食べるからだよ」
「あー、お水しかないね。暖かいもの何か頼もうか?」
「松田先輩。大丈夫ですよ。頼んでる間に治りますから。ね、晴翔?」
「う、うん……」
蓮の言う通り、徐々に落ち着いてきた。
相変わらず保護者ように背中をさすってくる蓮。今までは嬉しかったが、これじゃあ恋人ではなく蓮の弟か何かだ。
むしろ、松田先輩と蓮の方が、悩みを相談し合って恋人のようだ。
「治ったから、もう良いよ。劇まで時間あるし、二人で回ってきたら?」
「晴翔怒ってる?」
「怒ってないし。二人じゃなきゃ話せねーことがあるんだろ?」
「そういう訳じゃ……」
「良いよ。俺、海斗君に一緒に回ろうって誘われてたし。そっち行ってくるから」
「晴翔」
蓮がまだ何か言いたそうだったが、俺は立ち上がって教室を出た——。
「もう、蓮なんて好きにすれば良いんだ……好きにすれば……」
自暴自棄になりすぎた。
勝手に嫉妬して、一人で怒って、俺って格好悪いな……。
「松田先輩に取られたらどうしよ……」
俯きながら廊下を歩く。
行く当てもなく、文化祭を回る気もしない。俺は、屋上に向かう為、階段を上った。
蓮と隣同士に座り、松田先輩が蓮の前に座った。
「晴翔。先輩のこと覚えてない?」
「え、俺とも接点あるのか?」
松田先輩を見ると、ヘラヘラと柔い笑みを向けられた。
「うーん……ごめんなさい」
いくら過去を遡っても記憶にない。見た目は、優しさが全面に出た頼れるお兄さん。高校の制服は着ていないので、我が校の三年生でないことは確かだ。
首を捻っていると、松田先輩がマスクと黒縁メガネを装着した。
「この方が分かるかな?」
暫しの沈黙が流れ、俺は思い出した。
「え、うそ。あの松田先輩!? 中学ん時、三年生のくせに、一年生にカツアゲされてた松田先輩?」
「晴翔」
「あ、ごめんなさい」
「はは、良いって。本当のことだから」
笑って許してくれる松田先輩は、中学時代の先輩だ。俺の二つ上。
俺が一年生の頃、松田先輩がカツアゲされているところを目撃。俺には何も出来ないと思い蓮に助けを求め、解決したことがキッカケで仲良くなった。委員会も一緒になり、更に距離は縮まった。
そんな先輩も、俺と一緒で陰キャだった。牛乳瓶の底のようなレンズがついた黒縁メガネに、マスクを常に着用して素顔を見たことはなかった。
とはいえ、松田先輩が中学を卒業してからは、一度も会っていない。
「あの時は、全然マスク外さなかったのに、どうしたんですか? それに、メガネ。コンタクトにしたんですか?」
「う、うん」
松田先輩は蓮をチラリと見て、はにかみながら言った。
「ある人に言われてね」
「ある人……」
何となくモヤッとするのは何故だろう。
「でも、晴翔君も変わったよね。髪がバッサリ」
「へへ」
自分のことになると照れる。
「それより、今日は一人で来たんですか?」
「うん」
松田先輩が、再び蓮を一瞥した。
「会いたい人がいて」
「そうなんですね」
平常を装いながら相槌を打つが、心の中は荒れそうだ。
さっきから松田先輩は、蓮を意識し過ぎた。これはもう、蓮に会いに来たと言っているようなものだ。
当の本人である蓮は、何かを警戒するように廊下ばかり気にしている。
「お待たせ致しました。パンケーキとチョコレートパフェです」
蓮の前にはパンケーキ、俺の前にはチョコレートパフェが並んだ。遅れて松田先輩の前にサンドウィッチが置かれた。
「「「いただきます」」」
三人で合掌する。
モヤモヤするが、チョコレートパフェに罪はない。上に刺さったクッキーにアイスを乗せてパクッと食べた。
「んー、うま」
頬を緩めていると、隣と斜め前からの視線に気が付いた。目を向ければ、二人が優しい笑みをこちらに向けていた。
「晴翔、これもどうぞ」
「あ、うん。サンキュー」
ひと口サイズに切られ、フォークに刺さったパンケーキを目の前に差し出され、何の躊躇いもなく食べた。
「晴翔君、昔から美味しそうに食べるよね」
「そ、そうですかね」
「それに、二人とも相変わらず仲良いね。更に近くなった感じ」
「へへ……」
蓮に人前で『あーん』されたことに今更ながら気付き、やや照れる。
けれど、これは松田先輩を牽制するチャンスでは?
「蓮、俺のも食べる?」
スプーンにチョコレートアイスと生クリームを乗せ、蓮の前に差し出した。
蓮は嬉しそうに口を開けた。
その様子を見ても、松田先輩は笑顔を崩さない。
この際、学校中には知れ渡っているし、隠す必要もないか。
「松田先輩、俺ら付き合い始めたんです」
「え、そうなの!?」
流石に今度は驚いている。
ついでに蓮も驚いている。
「晴翔、今日はどうしちゃったの?」
「松田先輩には言っちゃダメなのか?」
「いや、良いけど」
「じゃあ良いじゃん」
これで松田先輩も蓮に手出しをしないはず。そう思ったのに、松田先輩はさっきよりも満面の笑みを浮かべている。
「蓮君。念願叶ったんだね!」
「実は……はい」
蓮が照れている。
「蓮、念願って? 何の話?」
「ナイショ」
「何だよそれ」
「松田先輩に相談乗ってもらってた時期があっただけだよ」
何で俺には内緒なんだ? 何で幼馴染で恋人の俺には言えなくて、松田先輩には話してるんだ? 苛々する。
ムッとして、チョコレートパフェをかき込むように食べた。
「う……」
「晴翔?」
「き、キーンてなった。頭キーンって」
「一気にアイス食べるからだよ」
「あー、お水しかないね。暖かいもの何か頼もうか?」
「松田先輩。大丈夫ですよ。頼んでる間に治りますから。ね、晴翔?」
「う、うん……」
蓮の言う通り、徐々に落ち着いてきた。
相変わらず保護者ように背中をさすってくる蓮。今までは嬉しかったが、これじゃあ恋人ではなく蓮の弟か何かだ。
むしろ、松田先輩と蓮の方が、悩みを相談し合って恋人のようだ。
「治ったから、もう良いよ。劇まで時間あるし、二人で回ってきたら?」
「晴翔怒ってる?」
「怒ってないし。二人じゃなきゃ話せねーことがあるんだろ?」
「そういう訳じゃ……」
「良いよ。俺、海斗君に一緒に回ろうって誘われてたし。そっち行ってくるから」
「晴翔」
蓮がまだ何か言いたそうだったが、俺は立ち上がって教室を出た——。
「もう、蓮なんて好きにすれば良いんだ……好きにすれば……」
自暴自棄になりすぎた。
勝手に嫉妬して、一人で怒って、俺って格好悪いな……。
「松田先輩に取られたらどうしよ……」
俯きながら廊下を歩く。
行く当てもなく、文化祭を回る気もしない。俺は、屋上に向かう為、階段を上った。



