修学旅行から一日休んだ後の教室では。
「さて、あまり日はないですが、次は文化祭です。前に聞いた意見を書き出すとこんな感じになりました」
黒板には『お化け屋敷』『合唱』『展示』『カフェ』『模擬店』『劇』等が書き出されている。
「他にも意見のある方は今の内に言って下さいね」
文化祭実行委員が教壇で仕切れば、クラスメイトらは元気に返事した。
「大丈夫でーす」
「多数決で決めちゃお」
「はいはーい。カフェしたいでーす」
「女子のメイド服見たいでーす」
「男子、キモすぎ」
文化祭実行委員は、苦笑しながら先に進める。
「では、クラスの出し物は、多数決で良いですか」
「「「はーい」」」
そして、多数決がとられる。
俺はどれも苦手だが、人前で何かするなんて出来ない。展示に一票。
結果、『劇』に決定。
多数決なので仕方ない。
演目が決まる前に、とりあえず主役の王子様的な役は、学校一のイケメンで人気者の蓮に決定。これは、想定内。
俺は裏方に回ろうと思い、小道具作りで挙手をしようとしたその時——。
「ヒロイン役は、佐倉君が良いと思います!」
クラスメイトの女子の一人が言った。それに対し、次々と賛同の嵐。
「良いじゃん良いじゃん」
「賛成!」
「話題のカップルがやれば、大盛況間違いなしだな」
学校では、俺と蓮が付き合っていることになっている。実際にそうなってしまった訳だが、俺がヒロインなんてあり得ない。
「いや、俺は……」
人前に出ることは勿論、劇なんてやったことがない。クラスで発言するのでさえ苦手な陰キャの俺が、ヒロインなんて出来るはずもない。
「俺、男だし……」
「最近は、そういうの流行ってるから大丈夫だよ」
「だよね。去年も舞台に出るのは全員男子ってのあったよね」
「うん。あったあった」
口々に言われ、焦る俺。
「でも、俺。そういうの苦手だからさ……」
勇気を振り絞って断れば、クラス委員が言った。
「佐倉君。謙遜しすぎるのは良くないよ」
その一言に、クラスメイト達は、うんうんと頷いた。例外で、三崎と山田は笑いを堪えている。
以前も話したが、人気者の蓮と付き合えるのは、それ相応の人だと思われている。故に、俺も蓮同様に、本当は何でも出来る男だと勘違いされている。全てにおいて平均以下なのに——。
それを知っている三崎と山田は、俺の不幸を笑っている訳だが、この二人も人前で意見を言うタイプではないので、助けてくれないだろう。
この状況を自力でどうにかするしかないが、皆の期待の眼差しが痛いほどに突き刺さる。
それ以上の反論が出来なくなった俺。
「蓮……」
斜め後ろにいる蓮に助けを求めた。
すると、蓮は『任せて』と、目くばせしてきた。
助かった——と思ったその時、蓮が爽やかな笑顔で皆に向けて言った。
「演目だけど、『人魚姫』が良いんじゃないかな?」
「……え」
初めてだ。初めて蓮が助けてくれなかった。
はっきり断れない俺に嫌気をさしたのだろうか。こんな俺じゃ、やっぱり嫌なのだろうか。
余計なことは考えないと決めたばかりだったのに、頭の中でぐるぐるぐるぐる考える。
もう周りの話は入って来ない。何だか絶望の中にいるような気分になってきた。
そんな時だった。
ガラガラガラガラ——。
教室の扉が開いた。
「ここやな」
「ちょっと君、転入は明日からでしょう」
「ええやないか。下見や下見」
聞き覚えのある声。喋り方。
「海斗……君?」
そこには、修学旅行で出会った男子高校生の姿があった。
「お、この前の……名前なんやったかな。同じクラスやねんな。ラッキー!」
海斗に手を振られ、小さく振り返す。
「明日から転校してくんねん」
「こら、海斗!」
スーツ姿の女性が現れ、海斗の首根っこを掴んだ。多分海斗の母親だろう。顔がそっくりだ。
「手続きやら色々あるんやから、勝手にウロウロしーひんの!」
「はぁい。ほなな」
海斗はニカッと笑って、嵐のように去っていった——。
そして、クラス中がざわついた。
「何あのイケメン」
「関西弁……イイ」
「転校って、うちに?」
「彼女いるのかな?」
特に女子達がざわついている。
蓮以外眼中に無かったが、確かに見た目は蓮と同じくらい顔が良い。
「佐倉君、知り合いなの?」
後ろの席の女の子が聞いてきた。
「修学旅行の時に……」
応えようと後ろを振り向けば、険しい蓮の顔が目に映った。目が合った瞬間、それは笑顔に変わった。しかし、目が笑っていないので怖すぎる。
すぐに前を向き直すが、蓮の視線を感じて背筋が伸びる。
何もしていないのに何かやらかしたような、そんな気持ちになっていると、文化祭実行委員がパチンと手を叩いた。
「はい! では、これで良いですか?」
数秒の沈黙が流れる。
「はい。異論はないようなので、これで決まりということで」
いつの間にやら、演劇の役割り分担も大方決まっていた。
海斗が転入してくることも勿論気になるが、俺は蓮に見捨てられたのではないかという不安だけが残った——。
「さて、あまり日はないですが、次は文化祭です。前に聞いた意見を書き出すとこんな感じになりました」
黒板には『お化け屋敷』『合唱』『展示』『カフェ』『模擬店』『劇』等が書き出されている。
「他にも意見のある方は今の内に言って下さいね」
文化祭実行委員が教壇で仕切れば、クラスメイトらは元気に返事した。
「大丈夫でーす」
「多数決で決めちゃお」
「はいはーい。カフェしたいでーす」
「女子のメイド服見たいでーす」
「男子、キモすぎ」
文化祭実行委員は、苦笑しながら先に進める。
「では、クラスの出し物は、多数決で良いですか」
「「「はーい」」」
そして、多数決がとられる。
俺はどれも苦手だが、人前で何かするなんて出来ない。展示に一票。
結果、『劇』に決定。
多数決なので仕方ない。
演目が決まる前に、とりあえず主役の王子様的な役は、学校一のイケメンで人気者の蓮に決定。これは、想定内。
俺は裏方に回ろうと思い、小道具作りで挙手をしようとしたその時——。
「ヒロイン役は、佐倉君が良いと思います!」
クラスメイトの女子の一人が言った。それに対し、次々と賛同の嵐。
「良いじゃん良いじゃん」
「賛成!」
「話題のカップルがやれば、大盛況間違いなしだな」
学校では、俺と蓮が付き合っていることになっている。実際にそうなってしまった訳だが、俺がヒロインなんてあり得ない。
「いや、俺は……」
人前に出ることは勿論、劇なんてやったことがない。クラスで発言するのでさえ苦手な陰キャの俺が、ヒロインなんて出来るはずもない。
「俺、男だし……」
「最近は、そういうの流行ってるから大丈夫だよ」
「だよね。去年も舞台に出るのは全員男子ってのあったよね」
「うん。あったあった」
口々に言われ、焦る俺。
「でも、俺。そういうの苦手だからさ……」
勇気を振り絞って断れば、クラス委員が言った。
「佐倉君。謙遜しすぎるのは良くないよ」
その一言に、クラスメイト達は、うんうんと頷いた。例外で、三崎と山田は笑いを堪えている。
以前も話したが、人気者の蓮と付き合えるのは、それ相応の人だと思われている。故に、俺も蓮同様に、本当は何でも出来る男だと勘違いされている。全てにおいて平均以下なのに——。
それを知っている三崎と山田は、俺の不幸を笑っている訳だが、この二人も人前で意見を言うタイプではないので、助けてくれないだろう。
この状況を自力でどうにかするしかないが、皆の期待の眼差しが痛いほどに突き刺さる。
それ以上の反論が出来なくなった俺。
「蓮……」
斜め後ろにいる蓮に助けを求めた。
すると、蓮は『任せて』と、目くばせしてきた。
助かった——と思ったその時、蓮が爽やかな笑顔で皆に向けて言った。
「演目だけど、『人魚姫』が良いんじゃないかな?」
「……え」
初めてだ。初めて蓮が助けてくれなかった。
はっきり断れない俺に嫌気をさしたのだろうか。こんな俺じゃ、やっぱり嫌なのだろうか。
余計なことは考えないと決めたばかりだったのに、頭の中でぐるぐるぐるぐる考える。
もう周りの話は入って来ない。何だか絶望の中にいるような気分になってきた。
そんな時だった。
ガラガラガラガラ——。
教室の扉が開いた。
「ここやな」
「ちょっと君、転入は明日からでしょう」
「ええやないか。下見や下見」
聞き覚えのある声。喋り方。
「海斗……君?」
そこには、修学旅行で出会った男子高校生の姿があった。
「お、この前の……名前なんやったかな。同じクラスやねんな。ラッキー!」
海斗に手を振られ、小さく振り返す。
「明日から転校してくんねん」
「こら、海斗!」
スーツ姿の女性が現れ、海斗の首根っこを掴んだ。多分海斗の母親だろう。顔がそっくりだ。
「手続きやら色々あるんやから、勝手にウロウロしーひんの!」
「はぁい。ほなな」
海斗はニカッと笑って、嵐のように去っていった——。
そして、クラス中がざわついた。
「何あのイケメン」
「関西弁……イイ」
「転校って、うちに?」
「彼女いるのかな?」
特に女子達がざわついている。
蓮以外眼中に無かったが、確かに見た目は蓮と同じくらい顔が良い。
「佐倉君、知り合いなの?」
後ろの席の女の子が聞いてきた。
「修学旅行の時に……」
応えようと後ろを振り向けば、険しい蓮の顔が目に映った。目が合った瞬間、それは笑顔に変わった。しかし、目が笑っていないので怖すぎる。
すぐに前を向き直すが、蓮の視線を感じて背筋が伸びる。
何もしていないのに何かやらかしたような、そんな気持ちになっていると、文化祭実行委員がパチンと手を叩いた。
「はい! では、これで良いですか?」
数秒の沈黙が流れる。
「はい。異論はないようなので、これで決まりということで」
いつの間にやら、演劇の役割り分担も大方決まっていた。
海斗が転入してくることも勿論気になるが、俺は蓮に見捨てられたのではないかという不安だけが残った——。



