「なぁなぁ、晴翔は今日も大浴場入んないの?」
同室になった三崎に聞かれた。
そう、山田ではなく三崎。蓮がしつこいもんだから、三崎の部屋にしてもらったのだ。
何故、蓮が山田を敵対視しているかというと……まぁ、抜き合いがどうのこうの言っていたあれだろう。山田は本気ではないだろうが、あの発言をしてからというもの、蓮は山田に対する態度が変わったと聞いている。
さて、俺は、風呂の準備をしながら三崎の質問に応える。
「うん。俺、みんなで入るの苦手だから」
「気持ち良いのに、勿体無い。じゃ、オレら行ってくるわ」
「行ってらっしゃい」
三崎含む同室者三名が、大浴場に向かった。そして、俺は部屋に備え付けのユニットバスに。
カーテンを閉め、シャワーの蛇口を捻る。頭からお湯をかければ、前髪が自然と後ろに流れた。
露わになった素顔を鏡越しに見て、自信を無くす。
「はぁ……蓮は、俺のどこを好きになってくれたんだろ」
女の子みたいな造りの顔。
この顔を誰にも見られたくなくて、昨日も温泉には入らず、俺は部屋に備え付けの風呂で済ませたのだ。
体も蓮のように筋肉はなく、日に焼けても黒くならない肌。色白だと羨ましがられることもあるが、俺は、どうしても自分が好きになれない——。
頭と身体に付いた泡をシャワーで洗い流し、蛇口をキュッとしめる。バスタオルで髪と体を拭き、備え付けの浴衣を着た俺は、まだ湿った髪を拭きながら室内に戻る。
「晴翔……?」
「え?」
声のする方を見れば、そこには三崎がいた。
「忘れ物してさ、取りに戻ってきたんだ」
「そ、そうなんだ」
誰もいないと思って油断していた。バスタオルで髪をワシャワシャしながら、急いで前髪を垂らして顔を隠す。
三崎が唖然と立ち尽くしているので、恐る恐る聞いてみる。
「見た?」
「バッチリと」
「はぁ……」
友人を一人失った。
潔く、蓮と抱き合って眠っていれば良かった。翌日に妄想されるのを恐れたばっかりに……。
俺は脱力しながら、簡易ベッドに突っ伏した。簡易ベッドの方が、普通のベッドよりも低いので丁度良い。いないものと思って過ごしてもらおう。
「俺に構わず、みんなで楽しんで」
それだけ言って、髪も乾かさず寝ようとすれば、ベッドが軋んだ。顔を上げて見れば、枕元の方のベッドサイドに三崎が座っていた。
「何?」
「いや、悩みがあれば、聞こうかと思って」
「何で?」
「友達……だから」
胸がジーンと締め付けられた。
この顔を見られたら、皆気持ち悪がって俺から離れていくと思っていたから。蓮は……幼馴染だから例外だ。
そういえば、山田も離れてないか。俺は友達に恵まれてるなと、しみじみ思っていたら、三崎が言った。
「実は、女の子だったり?」
「は?」
「だから、風呂も一緒に入れないんだろ? 蓮だけ知ってんのか? だから、あんなに過保護なのか? どうりで……」
一人で納得し始めた三崎。妄想が独りよがりしている。
「三崎、勘違いしてるようだけど……」
「皆まで言うな。事情は人それぞれ。あわよくば彼女になってくれたら嬉しいな……とは思うが、オレは何も聞かないことにする。うん」
「いや、さっき悩みがあれば聞くって」
矛盾し過ぎて俺の方が混乱してしまう。そして今、さらりと三崎に告白された気がする。
それは置いておいて、誤解を解かなければ。面倒なことになりそうだ。
ここは、脱ぐ? 脱いだら早いか?
「じゃ、オレは風呂行ってくるから」
「ちょ、待って」
俺は起き上がって三崎の腕を掴んだ。
「晴翔? いや、名前も違ったり?」
「晴翔で合ってるよ。それに、俺は男だから」
「良いよ。オレの前では無理しなくって」
「無理じゃないって。これ見て」
浴衣をガバッと開き、胸元をはだけさせた。
「え? おっぱいが……あれ?」
三崎が、俺の平たい胸板をぺたぺたと触った。少しくすぐったい。
「俺、男だから」
「マジで? 嘘だよな? 秘密を知った男と恋に落ちるアレは? オレ達、これから恋に落ちて、ウフフアハハなアオハルを送るんだろ?」
「何だよ、それ。漫画の読み過ぎ。しかも少女漫画」
「いや、まだおっぱいは発育してないだけかも」
胸だけでは納得しなかったようで、三崎は腰の帯を解き始めた。
「下は付いてないだろ。付いてないと言ってくれ!」
「や、やめろって」
逃げようとするが、馬乗り状態で帯を解こうとするものだから、中々逃げられない。
そんな時に、カチャッと鍵の開く音がして、扉が開いた。
「晴翔。晴翔のパンツ、僕のカバンに紛れて……たよ?」
「蓮……」
よりにもよって、蓮に見られるなんて。
中途半端に解けた帯に、はだけた浴衣。馬乗りになっている三崎。まるで、浮気現場を目撃されたようなこの構図。
事実を話しても、言い訳にしか聞こえなさそうだ。
「蓮……鍵あったのに、どうやって」
「大浴場行った時に借りた」
部屋の鍵は全部で二つ。一つは三崎で、もう一つを借りたのか……って、鍵の出どころはどうだって良い。
「蓮、これは違うから」
「何が違うの?」
相当怒っているようだ。蓮は、額に青筋を浮かべながら笑顔で入ってきた。
そして、三崎はまだ帯と格闘している。
「三崎、もう良いだろ! 何度も一緒にトイレ行ったじゃん!」
「あ……」
三崎の手は止まった。
雷に打たれたような顔をした三崎は、一人ぶつぶつ呟いている。
「そういや付いてたわ。ご立派なのが。こんな可愛い顔して付いてんのかよ。それはそれで萌えるけど」
「何が付いてるって?」
「わ、蓮!?」
三崎は、やっと蓮に気が付いた。そして、今の自分の置かれた状況を理解したようだ。焦って弁解し始めた。
「ち、違うから! オレはただ、晴翔を脱がせて」
「脱がせて、何する気だったの?」
「何って、見ちゃったら興奮して何かしてたかもしんないけど、それは男なら健全なことで……」
「ふーん」
三崎がドツボにハマっている。
そして、俺も。
「蓮。三崎は、別に悪気はないからさ」
「悪気無かったら何しても良いんだ? 恋人でもない相手と修学旅行中に」
「いや、そういう訳では」
「それに、三崎は、いつまで僕の晴翔に乗ってんの?」
「あ、わ、悪い」
三崎が退けば、はだけた浴衣を蓮が素早く直してくれた。
「あ、ありがとう」
「晴翔は、僕と一緒に寝よ。こんな所に置いておけないよ」
蓮は、まるでゴミ虫でも見るかのように三崎を見下した。
「おい、蓮。悪かったって。お前がそんな怒んなくたって良いだろ」
「じゃあ、先生に怒ってもらおうか? 晴翔を襲ってましたって言えば良い?」
「それは、やめてくれ」
「じゃあ、部屋替わってくれるよね?」
蓮が角部屋の五〇八号室の鍵をポケットから取り出した。
「分かったよ。替われば良いんだろ」
——こうして一波乱あった後、俺は蓮と同じ部屋になったのだった。
最初から三崎と替わってもらえば良かった……。
同室になった三崎に聞かれた。
そう、山田ではなく三崎。蓮がしつこいもんだから、三崎の部屋にしてもらったのだ。
何故、蓮が山田を敵対視しているかというと……まぁ、抜き合いがどうのこうの言っていたあれだろう。山田は本気ではないだろうが、あの発言をしてからというもの、蓮は山田に対する態度が変わったと聞いている。
さて、俺は、風呂の準備をしながら三崎の質問に応える。
「うん。俺、みんなで入るの苦手だから」
「気持ち良いのに、勿体無い。じゃ、オレら行ってくるわ」
「行ってらっしゃい」
三崎含む同室者三名が、大浴場に向かった。そして、俺は部屋に備え付けのユニットバスに。
カーテンを閉め、シャワーの蛇口を捻る。頭からお湯をかければ、前髪が自然と後ろに流れた。
露わになった素顔を鏡越しに見て、自信を無くす。
「はぁ……蓮は、俺のどこを好きになってくれたんだろ」
女の子みたいな造りの顔。
この顔を誰にも見られたくなくて、昨日も温泉には入らず、俺は部屋に備え付けの風呂で済ませたのだ。
体も蓮のように筋肉はなく、日に焼けても黒くならない肌。色白だと羨ましがられることもあるが、俺は、どうしても自分が好きになれない——。
頭と身体に付いた泡をシャワーで洗い流し、蛇口をキュッとしめる。バスタオルで髪と体を拭き、備え付けの浴衣を着た俺は、まだ湿った髪を拭きながら室内に戻る。
「晴翔……?」
「え?」
声のする方を見れば、そこには三崎がいた。
「忘れ物してさ、取りに戻ってきたんだ」
「そ、そうなんだ」
誰もいないと思って油断していた。バスタオルで髪をワシャワシャしながら、急いで前髪を垂らして顔を隠す。
三崎が唖然と立ち尽くしているので、恐る恐る聞いてみる。
「見た?」
「バッチリと」
「はぁ……」
友人を一人失った。
潔く、蓮と抱き合って眠っていれば良かった。翌日に妄想されるのを恐れたばっかりに……。
俺は脱力しながら、簡易ベッドに突っ伏した。簡易ベッドの方が、普通のベッドよりも低いので丁度良い。いないものと思って過ごしてもらおう。
「俺に構わず、みんなで楽しんで」
それだけ言って、髪も乾かさず寝ようとすれば、ベッドが軋んだ。顔を上げて見れば、枕元の方のベッドサイドに三崎が座っていた。
「何?」
「いや、悩みがあれば、聞こうかと思って」
「何で?」
「友達……だから」
胸がジーンと締め付けられた。
この顔を見られたら、皆気持ち悪がって俺から離れていくと思っていたから。蓮は……幼馴染だから例外だ。
そういえば、山田も離れてないか。俺は友達に恵まれてるなと、しみじみ思っていたら、三崎が言った。
「実は、女の子だったり?」
「は?」
「だから、風呂も一緒に入れないんだろ? 蓮だけ知ってんのか? だから、あんなに過保護なのか? どうりで……」
一人で納得し始めた三崎。妄想が独りよがりしている。
「三崎、勘違いしてるようだけど……」
「皆まで言うな。事情は人それぞれ。あわよくば彼女になってくれたら嬉しいな……とは思うが、オレは何も聞かないことにする。うん」
「いや、さっき悩みがあれば聞くって」
矛盾し過ぎて俺の方が混乱してしまう。そして今、さらりと三崎に告白された気がする。
それは置いておいて、誤解を解かなければ。面倒なことになりそうだ。
ここは、脱ぐ? 脱いだら早いか?
「じゃ、オレは風呂行ってくるから」
「ちょ、待って」
俺は起き上がって三崎の腕を掴んだ。
「晴翔? いや、名前も違ったり?」
「晴翔で合ってるよ。それに、俺は男だから」
「良いよ。オレの前では無理しなくって」
「無理じゃないって。これ見て」
浴衣をガバッと開き、胸元をはだけさせた。
「え? おっぱいが……あれ?」
三崎が、俺の平たい胸板をぺたぺたと触った。少しくすぐったい。
「俺、男だから」
「マジで? 嘘だよな? 秘密を知った男と恋に落ちるアレは? オレ達、これから恋に落ちて、ウフフアハハなアオハルを送るんだろ?」
「何だよ、それ。漫画の読み過ぎ。しかも少女漫画」
「いや、まだおっぱいは発育してないだけかも」
胸だけでは納得しなかったようで、三崎は腰の帯を解き始めた。
「下は付いてないだろ。付いてないと言ってくれ!」
「や、やめろって」
逃げようとするが、馬乗り状態で帯を解こうとするものだから、中々逃げられない。
そんな時に、カチャッと鍵の開く音がして、扉が開いた。
「晴翔。晴翔のパンツ、僕のカバンに紛れて……たよ?」
「蓮……」
よりにもよって、蓮に見られるなんて。
中途半端に解けた帯に、はだけた浴衣。馬乗りになっている三崎。まるで、浮気現場を目撃されたようなこの構図。
事実を話しても、言い訳にしか聞こえなさそうだ。
「蓮……鍵あったのに、どうやって」
「大浴場行った時に借りた」
部屋の鍵は全部で二つ。一つは三崎で、もう一つを借りたのか……って、鍵の出どころはどうだって良い。
「蓮、これは違うから」
「何が違うの?」
相当怒っているようだ。蓮は、額に青筋を浮かべながら笑顔で入ってきた。
そして、三崎はまだ帯と格闘している。
「三崎、もう良いだろ! 何度も一緒にトイレ行ったじゃん!」
「あ……」
三崎の手は止まった。
雷に打たれたような顔をした三崎は、一人ぶつぶつ呟いている。
「そういや付いてたわ。ご立派なのが。こんな可愛い顔して付いてんのかよ。それはそれで萌えるけど」
「何が付いてるって?」
「わ、蓮!?」
三崎は、やっと蓮に気が付いた。そして、今の自分の置かれた状況を理解したようだ。焦って弁解し始めた。
「ち、違うから! オレはただ、晴翔を脱がせて」
「脱がせて、何する気だったの?」
「何って、見ちゃったら興奮して何かしてたかもしんないけど、それは男なら健全なことで……」
「ふーん」
三崎がドツボにハマっている。
そして、俺も。
「蓮。三崎は、別に悪気はないからさ」
「悪気無かったら何しても良いんだ? 恋人でもない相手と修学旅行中に」
「いや、そういう訳では」
「それに、三崎は、いつまで僕の晴翔に乗ってんの?」
「あ、わ、悪い」
三崎が退けば、はだけた浴衣を蓮が素早く直してくれた。
「あ、ありがとう」
「晴翔は、僕と一緒に寝よ。こんな所に置いておけないよ」
蓮は、まるでゴミ虫でも見るかのように三崎を見下した。
「おい、蓮。悪かったって。お前がそんな怒んなくたって良いだろ」
「じゃあ、先生に怒ってもらおうか? 晴翔を襲ってましたって言えば良い?」
「それは、やめてくれ」
「じゃあ、部屋替わってくれるよね?」
蓮が角部屋の五〇八号室の鍵をポケットから取り出した。
「分かったよ。替われば良いんだろ」
——こうして一波乱あった後、俺は蓮と同じ部屋になったのだった。
最初から三崎と替わってもらえば良かった……。



