《 SIDE : 響子 》

 中学の時から未織のことは知っていた。高校で同じクラスになってから初めて話したけれど、私はずっと未織のことを認識していた。

「海老原 未織って女子に嫌われているらしいよ。なんかめっちゃ流されるタイプらしい」
「えー、ちょっと嫌だね」
「めっちゃ嫌われているらしい」
「わ、可哀想」

 そんな噂話を中学の時に偶然聞いた。

「響子?」

 上の空の私の顔を彼氏が覗き込んでいる。

「響ちゃんって呼んでってば」
「それだと響子の友達と変わらないだろ」
「そっか。じゃあ、別れよう」

 その時の驚いた表情の彼氏の顔すらもう忘れた。


 私は「可哀想な子」が好きだった。


 だから周りから敬遠されている未織に話しかけられた時、嬉しかった。

「未織と私って気が合うよね。好きなものも似ているし!」

 そう言うだけで花が咲くほど嬉しそうに笑う未織。「共感」を大事にしすぎて、本当に大切なものが見えていない未織。好かれることを知らない未織は可哀想と言われていた。

 そんな時に転校してきた苑里も「可哀想な子」だった。

 未織とは逆で共感が出来ず、すぐにでもクラスで浮きそうだった。

「響子ちゃんって呼んでも大丈夫?」
「響ちゃんで良いよ。あだ名なの。みんなそう呼ぶし!」

 本当の名で呼ばないで。あだ名の方が本心を見られていないようで安心する。それだけで会話を終わらせても良かったが、クラスメイトの声が聞こえた。

「あの転校生、前の高校で空気読めないって嫌われてたらしいぞ」
「えー、まじか。綺麗な顔なのにかわいそ」




 先ほど「可哀想な子」が好き、と言った。本当は違う。「可哀想と思われている子」が好きだった。




 理由は……。


 ピコンとスマホの通知音がなる。未織からのメッセージだった。


「ちゃんと話し合いたい」


 そろそろ隠しておくのも限界なのかもしれない。この本心は。