ねぇ、崩壊って何ですか?

 このままの私で笑える?


 夢うつつでも思考は巡り続けるほど悩んでいた。


 ピピピピピーーー。


 鳴り響いた目覚ましの音を止めることすら出来ない。

「未織、起きなさいー。目覚ましなっているわよー」

 一階から聞こえるお母さんの声に急かされるように私は目覚ましを止めた。パジャマから制服に着替えて、髪を整えて……いつの間にルーティーンになっていったのだろう。そんな意味の分からないことを考えながら、手は勝手に動いて足も勝手に動くのだ。
 玄関の扉を開ければ、嫌味なくらいな快晴。晴れた日に靴をコンクリを蹴るコッコッという音すらうるさい。今の私はどんな顔をしているのかな。きっと死んだ顔をしていると思う。そんな私の後ろから少し私よりスピードの速いコンクリを蹴る音が近づいてくる。

「みーおりっ。おはよ」

 振り返らなくても分かる、その声は響ちゃんの声。

「おはよう、響ちゃん」

 死んでいたはずの私の顔は、もういつも通り生気(せいき)が通っている。響ちゃんは私の「奇跡」なのだ。あの日、苑里に言ったことは嘘じゃない。

「未織、苑里と何かあった?」

 スッと血の気が引いていく感じがした。もしかして苑里が響ちゃんに何か話した?
 いや、そんなはずない。苑里は響ちゃんに明かさないと言った。苑里はその自分なりの正義を(つらぬ)くタイプだ。だとすれば……


「匠真から何か聞いた?」


 その可能性しか残っていない。しかし、響ちゃんは頭にはてなマークを浮かべるようにキョトンとしている。

「何で匠真くん? 昨日、未織と苑里の様子がおかしかったから聞いただけだけど」

 ドッドっと響き渡っていた心臓の音が徐々に、ゆっくりとしたペースに変わっていく。

「そうなんだ。ううん、苑里とは何もないよ」
「そっか、なら良いけど」

 響ちゃんがニコッと笑いかけてくれた表情を見て、泣きそうなくらい嬉しくなる。私はずっとこの平穏を守っていきたいだけなのに。苑里も匠真も要らないのに。
 それからも私は響ちゃんにバレないように、響ちゃんといる時だけは苑里に笑いかけ続けた。

 まるで苑里の「このままじゃダメだと思う」を聞かなかったことにするように。