「美歌さんは、人気者ですね」
放課後、クラスメイトたちが散りじりになった頃を見計らって、海斗さんが声をかけてきた。
殺してほしい、と頼んだのが二日前。あの日、いつまでも答えを出さない彼に痺れを切らして、わたしは答えも待たずにその場を立ち去った。内心期待外れだと思った。
彼とのことは、あれきりで終わりだと思っていた。しかし、予想外に海斗さんはしつこくわたしに付き纏ってきた。幽霊じゃなかったら完全なストーカーだが、彼が見えているのはわたしだけなので、特に大きな問題にはならないのだった。
「別に、そんなことないですよ」
一応謙遜しておく。
「俺は友達が多くなかったので、クラスメイトの中心にいて、友達も多い美歌さんをすごいと思ってしまいます」
「‥‥‥友達は多ければ多いほど良いってもんじゃないですよ。少ない友達を大切にする方がいいと思いますけどね」
会話を続けつつ、わたしはリュックを背負って教室を出た。もうすぐこの棟ともお別れだ。そう思うと少し名残惜しい。
昇降口に着いたところで、わたしは再度、海斗さんに尋ねた。「で、この前の話、どうするつもりですか?」
海斗さんの表情がわかりやすく強張る。やはり、まだ決めかねているのだろうか。
「……美歌さんは、どうしてそこまでして死にたいと思うんですか?」
当然の疑問だ。
「いろいろあるんですよ、優等生にだって……生きるのをやめたくなることだってありますよ」
曖昧に誤魔化すと、海斗さんは憂いを帯びた表情をする。心情が顔に出やすい人なのかもしれないと思った。
「……もし、俺がその話を受けなかったら、美歌さんは自殺、するんですか?」
「わからない」
考えていないわけではなかった。幽霊にとり殺してほしいというのも、できるだけ綺麗に死にたかったから。血の繋がったあの人に、下手なトラウマを植え付けたくないという、わたしの小さな気遣いのつもりだった。
だがもう、死ねるのならどうでもいい、そんな気持ちもあった。
「……わかりました」
長い沈黙の末、海斗さんは意を決したように言った。
「本当?」
「はい。俺が成仏する時、あなたを連れて行きます。その代わりに、妹のことを頼みます」
深く頭を下げて、わたしに頼み込んだ。ここまでされるとは思っていなかったので、いくらか驚いた。
海斗さんは、相当妹のことを心配しているのだろうと思った。妹に渡すはずだった遺品ひとつで、ここまでこの世に執着し、頭を下げてくるのだから。
「じゃあ、早速帰って作戦を考えないとですね」
「作戦、ですか?」
「遺品を見つけた後、それを妹さんに渡さないといけませんから。少しでも妹さんと関係を作っておく必要がありますよ」
見ず知らずの女がいきなり家にやってきて、「これはあなたのお兄さんが残したものです」なんて言っても受け取ってもらえない。通報されるのがオチだろう。
「い、言われてみれば、そうですね」わたしに言われて気づいたのか、少しばつの悪そうな声色で言った。「す、すみません、そこまで頭が回ってなくて」
「いえ、大丈夫ですよ」
はやる気持ちを抑えられなかったのだろう。無理もない。
「な、なんだか、美歌さんが俺よりも大人っぽく見えますね」
「そういえば、海斗さんっていくつなんですか?」
「えっと、死んだのは十八の時ですね」
じゃあ、わたしよりもひとつ年上か。同い年だと思っていたので少し驚いた。それを伝えると海斗さんは少し不服そうな顔をしたのだった。
そういう表情が幼そうに見えるのだけど、とはもちろん言わなかった。
翌日、海斗さんと共に電車に乗り込んだ。祝日ということもあり、車内はいつもよりも空いていて、久しぶりに座ることができた。電車に乗ることに関して、海斗さんは申し訳なそうに眉尻を下げていたが、数日間彼の近くにいたので、匂いに慣れてきていた。それでも密閉空間では少ししんどかったが、そんなことは言ってられなかった。
今わたしは海斗さんの家に向かっていた。ことでんで高松築港駅まで向かい、この後高松駅に乗り換えし、端岡駅まで行くことになる。ちなみに海斗さんは一度瓦町駅で乗り換えをする。よくよく考えれば、幽霊が公共交通機関を普通に利用していると考えたら、なかなかシュールである。
昨晩立てた作戦はこうだ。まず、わたしは見上家の新しいお手伝いさんということで家に入る。
昨晩、海斗さんは自身の生い立ちを簡単に説明した。海斗さんたち兄妹は、幼い頃に母親のネグレクトが原因で親戚夫婦に引き取られたらしい。しかし、彼らは共働きで家にはほとんど帰ってこないため、家事はふたりで分担していたらしい。なので、お手伝いさんとして入り込める隙があったのだ。しかし、そんなに辛い人生を送ってきながら、最期は若くして亡くなってしまうだなんて、神様は本当に無慈悲だ。
そして、海斗さんの妹の件と同時進行で、彼に落とした遺品の場所までのルートを探してもらう、これが一連の流れだった。なので彼は今、ことでんで彼が死亡した屋島に向かっている。
海斗さんがなぜ、屋島で死んだのかなどは訊かなかった。事故と言っていたので、おそらく転落死だろうと思うが、無理に聞き出すつもりはない。人には触れられたくない過去のひとつやふたつ、あるものだ。
端岡駅から降りて、海斗さんに教えられた住所に向かって歩き出す。国道十一号から外れた道をトボトボと歩いていくと、閑静な住宅地に入る。周りにはビニールハウスや背の低い松の木があり、良い意味で田舎っぽい雰囲気があった。
しばらく歩いて、ようやく目的地に到着する。道路に背を向けるように建つクリーム色の壁に黒い屋根の家、伝えられた情報とも一致している。表札にも、『mikami』と書かれている。
「思ったより遠かったな」
最寄駅が最寄駅ではないのは田舎あるあるである。わたしにとっては自転車が欲しい距離である。もうすでに疲れたが、とりあえずインターホンを鳴らした。ほどなくして、ひとりの女の子がドアの隙間から顔を出した。
その容姿を見て、ハッとした。兄妹というだけあって海斗さんとよく似た整った容姿だが、美しさの中に可愛らしさのある、まさにお人形さんのような子だった。なので思わず、
「お人形さんみたい……」
と口走った。それを聞いた彼女はまんざらでもなさそうな表情をした。どうやら良いように受け取ってもらえたらしい。
しかし、我に帰ったのか、警戒心むき出しの表情でこちらを見てくる。
「あーええっと……どちら様でしょうか?」
幼さはあるが、しっかりとした声だった。
「は、はい、今日からこの家のお手伝いさんとしてやってきました。星野と言います」と、打ち合わせ通りに言った。
「お手伝いさん……? あの、聞いてないんですけど」
予想通りの反応だった。
「えっと……ちょっと待っててくださいね」
わたしはスマホを取り出し、画面を見せる。わたしが家事代行で人の家に上がる前に見せるプロフィールのようなものだった。彼女は訝しげに画面を見つめる。
「急に決まったことなので、誤解されちゃうかもって言われてるんです。これからもずっと家事炊事をさせるわけにもいかないからって、少しでも負担が減るようにわたしに依頼してきたんです」
滔々と語るわたしに、彼女はうつむく。もしかしたら、お手伝いさんよりも、叔父さんや叔母さんに構って欲しかったのかもしれない。
「……とりあえず、中に入ってください」
そう言われ、中に通してもらえた。正直、ホッとすると同時に、よくもまあペラペラと嘘の説明ができたものだと思った。
自身の出自を知ったあの日から、わたしは自分の壊れたところを隠すように行動するようになった。だから自然と、演技力も身についたのかもしれない。
わたしは覚悟を決め、見上家に上がり込んだのだった。
わたしは、普段初回のお客さんにしている説明に、少しだけ嘘を盛り込んで説明した。説明自体は慣れたものだったが、緊張で噛むんじゃないかと気が気ではなかった。
全て話し終えて肩の力を少し抜くと、書類を見つめていた彼女は、「なるほどなるほど……」とうなずいていた。まあ、本当に理解できているのかは怪しいが。
「つまり、今回はお試し期間で、三月と春休みいっぱいだけの期間限定ってこと?」
「はい、わたし自身も学生で、他にも依頼を受けている状態なので……」
「え、星野さん学生なんですか?」彼女は身を乗り出して聞いてきた。「てっきりもう社会人かと」
思わず笑みが溢れた。海斗さんにも大人っぽいと言われたが、やはりそう見えるのだろうか。それとも、兄妹だからお互いそう思ったのだろうか。
「こう見えてもまだ高校生ですよ」
「ええ!? 高校生なんですか? わたしのお兄ちゃんと同じじゃ——」
言いかけて彼女は口をつぐむ。その様子を見るに、海斗さんが死んだ時の傷は、まだまだ癒えていないのかもしれない。
わたしはあえて何も言わず、彼女の次の言葉を待った。ほどなくして彼女は咳払いをして、
「ええっと……じゃあ、今日から? 明日から? よろしくお願いします」
ぺこっと頭を下げて言った。海斗さん曰く、彼女はまだ十二歳らしいが、本当にしっかりしている子だと思った。
「はい、わたしもよろしくお願いしますね。改めて、わたしは星野美歌といいます」
「わたしは見上空美っていいます。ええっと、この春に中学生になります。こちらこそよろしくお願いします」
海斗さんもそうだったが、空美という名前も彼女によく似合っている。「じゃあ、空美ちゃんって呼びますね」
「一応、今日からって言われているので、早速始めたいと思います。今日は何をしましょうか」
「ええっとじゃあ……」空美ちゃんは少し悩んだ末、「今日は家の掃除をお願いしても良いですか? 最近サボりがちだったので」と言った。
「はい! 家中掃除しますね」
「わたしは二階の部屋で宿題してるので、終わったら言ってください」
「わかりました。では、始めますね」
わたしは荷物を邪魔にならないところに移動させて、早速リビングの掃除を始めるのだった。
放課後、クラスメイトたちが散りじりになった頃を見計らって、海斗さんが声をかけてきた。
殺してほしい、と頼んだのが二日前。あの日、いつまでも答えを出さない彼に痺れを切らして、わたしは答えも待たずにその場を立ち去った。内心期待外れだと思った。
彼とのことは、あれきりで終わりだと思っていた。しかし、予想外に海斗さんはしつこくわたしに付き纏ってきた。幽霊じゃなかったら完全なストーカーだが、彼が見えているのはわたしだけなので、特に大きな問題にはならないのだった。
「別に、そんなことないですよ」
一応謙遜しておく。
「俺は友達が多くなかったので、クラスメイトの中心にいて、友達も多い美歌さんをすごいと思ってしまいます」
「‥‥‥友達は多ければ多いほど良いってもんじゃないですよ。少ない友達を大切にする方がいいと思いますけどね」
会話を続けつつ、わたしはリュックを背負って教室を出た。もうすぐこの棟ともお別れだ。そう思うと少し名残惜しい。
昇降口に着いたところで、わたしは再度、海斗さんに尋ねた。「で、この前の話、どうするつもりですか?」
海斗さんの表情がわかりやすく強張る。やはり、まだ決めかねているのだろうか。
「……美歌さんは、どうしてそこまでして死にたいと思うんですか?」
当然の疑問だ。
「いろいろあるんですよ、優等生にだって……生きるのをやめたくなることだってありますよ」
曖昧に誤魔化すと、海斗さんは憂いを帯びた表情をする。心情が顔に出やすい人なのかもしれないと思った。
「……もし、俺がその話を受けなかったら、美歌さんは自殺、するんですか?」
「わからない」
考えていないわけではなかった。幽霊にとり殺してほしいというのも、できるだけ綺麗に死にたかったから。血の繋がったあの人に、下手なトラウマを植え付けたくないという、わたしの小さな気遣いのつもりだった。
だがもう、死ねるのならどうでもいい、そんな気持ちもあった。
「……わかりました」
長い沈黙の末、海斗さんは意を決したように言った。
「本当?」
「はい。俺が成仏する時、あなたを連れて行きます。その代わりに、妹のことを頼みます」
深く頭を下げて、わたしに頼み込んだ。ここまでされるとは思っていなかったので、いくらか驚いた。
海斗さんは、相当妹のことを心配しているのだろうと思った。妹に渡すはずだった遺品ひとつで、ここまでこの世に執着し、頭を下げてくるのだから。
「じゃあ、早速帰って作戦を考えないとですね」
「作戦、ですか?」
「遺品を見つけた後、それを妹さんに渡さないといけませんから。少しでも妹さんと関係を作っておく必要がありますよ」
見ず知らずの女がいきなり家にやってきて、「これはあなたのお兄さんが残したものです」なんて言っても受け取ってもらえない。通報されるのがオチだろう。
「い、言われてみれば、そうですね」わたしに言われて気づいたのか、少しばつの悪そうな声色で言った。「す、すみません、そこまで頭が回ってなくて」
「いえ、大丈夫ですよ」
はやる気持ちを抑えられなかったのだろう。無理もない。
「な、なんだか、美歌さんが俺よりも大人っぽく見えますね」
「そういえば、海斗さんっていくつなんですか?」
「えっと、死んだのは十八の時ですね」
じゃあ、わたしよりもひとつ年上か。同い年だと思っていたので少し驚いた。それを伝えると海斗さんは少し不服そうな顔をしたのだった。
そういう表情が幼そうに見えるのだけど、とはもちろん言わなかった。
翌日、海斗さんと共に電車に乗り込んだ。祝日ということもあり、車内はいつもよりも空いていて、久しぶりに座ることができた。電車に乗ることに関して、海斗さんは申し訳なそうに眉尻を下げていたが、数日間彼の近くにいたので、匂いに慣れてきていた。それでも密閉空間では少ししんどかったが、そんなことは言ってられなかった。
今わたしは海斗さんの家に向かっていた。ことでんで高松築港駅まで向かい、この後高松駅に乗り換えし、端岡駅まで行くことになる。ちなみに海斗さんは一度瓦町駅で乗り換えをする。よくよく考えれば、幽霊が公共交通機関を普通に利用していると考えたら、なかなかシュールである。
昨晩立てた作戦はこうだ。まず、わたしは見上家の新しいお手伝いさんということで家に入る。
昨晩、海斗さんは自身の生い立ちを簡単に説明した。海斗さんたち兄妹は、幼い頃に母親のネグレクトが原因で親戚夫婦に引き取られたらしい。しかし、彼らは共働きで家にはほとんど帰ってこないため、家事はふたりで分担していたらしい。なので、お手伝いさんとして入り込める隙があったのだ。しかし、そんなに辛い人生を送ってきながら、最期は若くして亡くなってしまうだなんて、神様は本当に無慈悲だ。
そして、海斗さんの妹の件と同時進行で、彼に落とした遺品の場所までのルートを探してもらう、これが一連の流れだった。なので彼は今、ことでんで彼が死亡した屋島に向かっている。
海斗さんがなぜ、屋島で死んだのかなどは訊かなかった。事故と言っていたので、おそらく転落死だろうと思うが、無理に聞き出すつもりはない。人には触れられたくない過去のひとつやふたつ、あるものだ。
端岡駅から降りて、海斗さんに教えられた住所に向かって歩き出す。国道十一号から外れた道をトボトボと歩いていくと、閑静な住宅地に入る。周りにはビニールハウスや背の低い松の木があり、良い意味で田舎っぽい雰囲気があった。
しばらく歩いて、ようやく目的地に到着する。道路に背を向けるように建つクリーム色の壁に黒い屋根の家、伝えられた情報とも一致している。表札にも、『mikami』と書かれている。
「思ったより遠かったな」
最寄駅が最寄駅ではないのは田舎あるあるである。わたしにとっては自転車が欲しい距離である。もうすでに疲れたが、とりあえずインターホンを鳴らした。ほどなくして、ひとりの女の子がドアの隙間から顔を出した。
その容姿を見て、ハッとした。兄妹というだけあって海斗さんとよく似た整った容姿だが、美しさの中に可愛らしさのある、まさにお人形さんのような子だった。なので思わず、
「お人形さんみたい……」
と口走った。それを聞いた彼女はまんざらでもなさそうな表情をした。どうやら良いように受け取ってもらえたらしい。
しかし、我に帰ったのか、警戒心むき出しの表情でこちらを見てくる。
「あーええっと……どちら様でしょうか?」
幼さはあるが、しっかりとした声だった。
「は、はい、今日からこの家のお手伝いさんとしてやってきました。星野と言います」と、打ち合わせ通りに言った。
「お手伝いさん……? あの、聞いてないんですけど」
予想通りの反応だった。
「えっと……ちょっと待っててくださいね」
わたしはスマホを取り出し、画面を見せる。わたしが家事代行で人の家に上がる前に見せるプロフィールのようなものだった。彼女は訝しげに画面を見つめる。
「急に決まったことなので、誤解されちゃうかもって言われてるんです。これからもずっと家事炊事をさせるわけにもいかないからって、少しでも負担が減るようにわたしに依頼してきたんです」
滔々と語るわたしに、彼女はうつむく。もしかしたら、お手伝いさんよりも、叔父さんや叔母さんに構って欲しかったのかもしれない。
「……とりあえず、中に入ってください」
そう言われ、中に通してもらえた。正直、ホッとすると同時に、よくもまあペラペラと嘘の説明ができたものだと思った。
自身の出自を知ったあの日から、わたしは自分の壊れたところを隠すように行動するようになった。だから自然と、演技力も身についたのかもしれない。
わたしは覚悟を決め、見上家に上がり込んだのだった。
わたしは、普段初回のお客さんにしている説明に、少しだけ嘘を盛り込んで説明した。説明自体は慣れたものだったが、緊張で噛むんじゃないかと気が気ではなかった。
全て話し終えて肩の力を少し抜くと、書類を見つめていた彼女は、「なるほどなるほど……」とうなずいていた。まあ、本当に理解できているのかは怪しいが。
「つまり、今回はお試し期間で、三月と春休みいっぱいだけの期間限定ってこと?」
「はい、わたし自身も学生で、他にも依頼を受けている状態なので……」
「え、星野さん学生なんですか?」彼女は身を乗り出して聞いてきた。「てっきりもう社会人かと」
思わず笑みが溢れた。海斗さんにも大人っぽいと言われたが、やはりそう見えるのだろうか。それとも、兄妹だからお互いそう思ったのだろうか。
「こう見えてもまだ高校生ですよ」
「ええ!? 高校生なんですか? わたしのお兄ちゃんと同じじゃ——」
言いかけて彼女は口をつぐむ。その様子を見るに、海斗さんが死んだ時の傷は、まだまだ癒えていないのかもしれない。
わたしはあえて何も言わず、彼女の次の言葉を待った。ほどなくして彼女は咳払いをして、
「ええっと……じゃあ、今日から? 明日から? よろしくお願いします」
ぺこっと頭を下げて言った。海斗さん曰く、彼女はまだ十二歳らしいが、本当にしっかりしている子だと思った。
「はい、わたしもよろしくお願いしますね。改めて、わたしは星野美歌といいます」
「わたしは見上空美っていいます。ええっと、この春に中学生になります。こちらこそよろしくお願いします」
海斗さんもそうだったが、空美という名前も彼女によく似合っている。「じゃあ、空美ちゃんって呼びますね」
「一応、今日からって言われているので、早速始めたいと思います。今日は何をしましょうか」
「ええっとじゃあ……」空美ちゃんは少し悩んだ末、「今日は家の掃除をお願いしても良いですか? 最近サボりがちだったので」と言った。
「はい! 家中掃除しますね」
「わたしは二階の部屋で宿題してるので、終わったら言ってください」
「わかりました。では、始めますね」
わたしは荷物を邪魔にならないところに移動させて、早速リビングの掃除を始めるのだった。



