家に着くと、すっかり酔いが回ったのか、チアキくんはすぐに眠ってしまった。
俺のベッドで、あの日と同じように眠っている。
俺のことなんて一切警戒していない、無防備な寝顔。
俺がどんな奴なのか、もうわかっているだろうに。
本当にチアキくんは不思議な子だ。
その寝顔を見つめながら、俺はあの夜のことを思い出した。
――……探してた。
チアキくんと初めて会った日、チアキくんは半分意識がない状態で応えてくれた。
なにも知らない、純粋そうな子。
そんな子が出会いの場で有名なバーにいたことが気になって、眠ったままのチアキくんに尋ねた。
その答えが、それだった。
――なにを?
――……恋。
そんなもの、どこにでもあるのに。
チアキくんはそれを探して、ひとりであの店に迷い込んだというのか。
そう思うと、俺は一気にチアキくんに興味を持った。
この子が探している恋は、なんだか、俺が知っているものとは違うような気がして。
知りたい。
俺はそう思っていた。
でも、チアキくんには逃げられちゃって。
あのときのチアキくんの慌てようは、今思い出しても面白い。
俺のこと、クズだって思ったのもはっきり顔に出てて、相当素直な子なんだろうなって思った。
ただ、連絡先を聞いてなかったことだけは、失敗した。
いつも女の子と一夜しか過ごさないから、その習慣がなくて。
だから、大学が同じだってわかってても、どうやってチアキくんとコンタクトを取ればいいのか、まったくもってわからなかった。
地道に、手当たり次第に探すか、女の子に聞いて回るか。
そのどちらかしかないと思っていたけど、俺たちはあっさりと再会を果たした。
俺を見たときのチアキくんの反応が楽しくて、そのまま連れ回したけど、計算されていない反応は、見ていて心地よかった。
俺に手を繋がれて動揺するところも。
ジェラートを食べさせられて恥ずかしそうにするところも。
次はどんな反応をするんだろうって、俺のほうが楽しんでたな。
でも、それが間違ってたのかもしれない。
――……先輩の家、行っちゃダメですか。
さっきのチアキくんの表情。
後輩が勇気を出して、先輩の家に遊びに行こうとした顔じゃなかった。
あれは、告白する前の、緊張した顔。
女子はもちろん、男でもそういう顔をする奴を見てきたから、なんとなくそうだと思った。
いつもなら、適当に躱して、フェードアウトする。
恋愛沙汰はもう面倒だから。
だけど、チアキくん相手にそれができなかった。
純粋で、俺とは違う存在。
俺と関わると、チアキくんが穢れてしまうような気がして。
だから俺は、チアキくんを遠ざけるようなことを言ったのに。
チアキくんのショックを受けた表情を見て、そのまま帰すことができなかった。
自分で傷付けたくせに、放っておけなかった。
「ん……」
すると、チアキくんが身じろいで、背中を丸めた。
毛布を抱え込むように寝ちゃって、可愛いな。
俺はそっと手を伸ばし、チアキくんの表情を隠す黒い髪を退けた。
……本当、無防備だな。
一周回って、ムカついてくる。
あんな告白じみたこと言っておきながら、俺になにかされるとか、微塵も思っていなさそうで。
俺は、ゆっくりとチアキくんに近付いていく。
チアキくんの息がかかる。
触れたらきっと、チアキくんは目を覚ます。
起きてまた、動揺すればいいんだ。
でも俺は、チアキくんに触れることができなかった。
それどころか、勢いよく身を引いた。
「なんでチアキくんにキスしようとしてんだよ……」
自分のことなのに、よくわからなかった。
疲れてるんだ。もしくは飲みすぎた。
きっとそうだ。
俺は自分に言い聞かせて、ベッドから離れる。
ソファで眠りにつこうとしても、チアキくんの寝息が微かに響いて、上手く寝付けない。
それでも俺は、目を閉じた。



