「鬱陶しい」

 朝、ゼミ室で顔を合わせるやいなや、美希は俺に暴言を吐いた。
 なんとでも言えばいい。
 俺にはチアキくんがいるからね。
 もはや無敵だ。

「一足先に幸せになって悪いね」

 そう返すと、美希はますます俺を睨みつけ、俺の隣に座る。

「それはいいけど、晴香たちは大丈夫なの? 絶対黙ってないと思うんだけど」

 たしかに、俺に恋人ができたなんて知ったら、あの二人はまたチアキくんのところに直撃しそうだ。

「大丈夫。もう手は打ってある」

 ――大切な人ができたから、もう遊べない。

 チアキくんに告白されたあの日、俺は二人にそう告げた。
 男同士なんて信じられないだとか、絶対長続きしないだとか、散々な言いようだったけど、それは仕方のないことだと思う。

「ならいいけど」

 対して、美希は随分とあっさり受け入れてくれたような気がする。
 そのあたりは、俺と同じ感覚の持ち主だからなのかもしれないけど。

「美希もはやく恋人作りなよ。毎日、楽しいよ」
「……うざ」

 美希とそんなやり取りをしているうちに、チアキくんからメッセージが届いた。

『今日のお昼、一緒に食べませんか』

 本当、俺の恋人は可愛い。
 もっと自慢したいところだけど、これ以上は本当に美希に嫌な思いをさせるだろうから、ぐっと堪える。

『もちろん』

 そう返事をした俺の口元は、弧を描いていた。