『一時間が経ちました。今回のカップルは成宮 真くんと三上 華さんです。立会人となる皆さんは、教室にお集まりください』
その呼び出しに俺達は教室に向かい、着席する。すると二人が現れた。
「足、滑らせるなよ」
そっと手を伸ばして三上さんの手を引く成宮くん。
成宮くんとは一年の時同じクラスだったが、適度に制服を緩く着こなしふわふわの髪にまつ毛が長く、笑った顔に穏やかさが溢れている。俺にも気さくに話しかけてくれる、優しい男子だ。
三上さん。制服を綺麗に着こなし、髪を巻いているオシャレな女子。全体的に整った顔立ちに、大きな目。クラスは違う為あまり知らないが、美人なのにそれを鼻にかけていない大人しい女子のイメージがある。
『今回の暴露は一つでした』
そんな裏切りを表す言葉にも、俺達は反応を示すことはない。もう、心が麻痺しているのだろう。
それは当事者の二人もなのか、死の運命に近付いても何も発せず互いを見合わせていた。
『三上 華は成宮 真に好意は持っていないのに、付き合っていた』
そんな暴露にも三上さんは否定も肯定もせず、ことの成り行きをただ眺めていた。
『こちらが証拠です』
スマホに映し出されたのは、またSNSのスクショ。
『どうしたら、彼氏を好きになれるのだろう?』
『好きって何? 恋って何?』
『何で一緒に居るんだろ?』
そのような心の叫びが、毎日、毎日、投稿されていた。
『また裏アカですかー? 表では「デート楽しかったー!」、「大好き」とかキラキラ女子を演じているのに、裏ではこれとは。他の証拠品として提示されてある表アカと照らし合わせたら、この裏アカは三上さんのものだと証明出来ますね?』
「その必要ありません」
そう言い切ったのは、成宮くんの方だった。
「……分かっていたよ、初めから」
予期せぬことだったのか三上さんは顔を見上げ、成宮くんを瞬き一つせず眺めていた。
「女子って結構、難しいんだろ? 彼氏がいないと軽く見られたり、グループ内同士で恋愛の話出来ないと付いていけなかったり。翼は愛莉ちゃんと、爽太は紗栄子ちゃんと一年から付き合ってるし。俺達は余り物同士くっつけられたみたいな感じだったしな」
成宮くんは話をしながら三上さんの左手を手に取ったかと思えば、ためらいもなく死の指輪を抜く。
二回目の時は指輪を抜いた瞬間にけたたましい警告音と赤い点滅が起きたが、今回は何の反応も示さなかった。
『おめでとうございます。三上 華さんは死の指輪を外された生存者です。さあ、三上さん。あなたは恋人の成宮 真くんを助けますか?』
「……何故、そんなことをわざわざ聞いてくるの?」
三上さんがその疑問を口にすると、待っていたかのように主催者は意気揚々と話し始めた。
『外さない選択肢もあると言ったら、どうします?』
「どこまで私達を弄べば気が済むの! 裏切って無様に死ぬ私を、笑うつもりでしょう!」
『この状態で、どうやって? あなたを殺す指輪はなくなりましたよ』
「……あ」
三上さんは自身の左手薬指を眺める。命を縛り付けていたそれは、あまりにもあっけなく外れてしまった。
「……私……、助かったの?」
『それは、あなたの行動次第です』
淡々と話しているつもりなのだろうが、隠しきれていない残虐さ。その声は僅かに、嘲笑しているようだった。
主催者は悪魔なのだろうか?
三上さんを唆し、成宮くんを裏切るように仕組んでいく。そしてその姿を後に続く俺達に見せつけて、裏切りの恐怖を植え付けているんだ。俺達が疑心暗鬼になって醜く争う姿を見たいが為に。
「主催者さん。カップルの片方が死ねばどうなりますか?」
そんな確信を突くことを口にしたのも成宮くんだった。つまりそれは自分が死んだ後、三上さんを案じての発言なのだろう。
『通常なら指輪が外せずに死にます。しかし外されている場合は、このまま立会人としてゲーム終了まで校舎内に留まってもらいます』
「そっか。それなら良かった。華、今度はちゃんと好きな人と付き合わないとダメだからな?」
ニコッ笑う姿は、慈悲に満ち溢れていた。
「……真……は?」
「さっきの惨劇を見ただろう? せっかく指輪が外れても、相手の指輪を外そうとしたら巻き込まれる。……俺は華が好きだから、生きて欲しい。無理矢理くっつけられた関係だったけど、華と一緒に居た時間は楽しかったから」
ピッ、ピッ、ピッ。
『さあ、決断の時です。あなたは一人で助かるか、それとも爆発のリスクを抱えて恋人を助けるか?』
「華、もういいよ」
「……一回目は指輪を外さなかったからタイムアップみたいな感じで爆発して。二回目は爽太くんが紗栄子の指輪を外せたけど、紗栄子は外せなかった。音や光的には時間の余裕はあったみたいだし、タイムアップはない。紗栄子と爽太くんで違うのは……。あ!」
三上さんの考察を聞いている間に気付いたのは、おそらく同じこと。
北条くんは相手の秘密を知っていて、音霧さんは知らなかった。そこから推測出来るのは一つ。
「『相手を許しているか、許していないか』でしょう!」
三上さんは、そう宣言する。
現に成宮くんは三上さんの指輪を外している。
事実を知って受け入れたからだったと考えれば、筋は通る。
『正解です。【指輪が爆発するルール違反】の4つ目は、「過ちを許していない相手の指輪を外す」でした』
さっき爆発したのは、音霧さんが北条くんを許さなかったからだった。あのような裏切りを知った後なら、当然だろう。
そうと分かった三上さんは息遣いを速め、震える指を伸ばしていく
「……真。もし助かったら、このまま付き合ってくれる?」
声まで震え、その緊張が伝わってくる。当然だ、命をかけた戦いを三上さんは果敢に挑んでいるのだから。
「え? そんなことしなくても、……みんな死んだのに?」
「うん。私、今まで真のこと見ていなかった。どうしたら、みんなに話が出来るネタが作れるとか、そんなことばかり。……最低だよね? だからこれからもう一度あなたを知りたい。身勝手な願いだけど、好きになったらダメかな?」
その瞳から溢れてきたのは、恐怖によるものだけではない。だって三上さんは、柔らかな微笑みを浮かべていたから。
「いつでも歓迎するよ。じゃあまずはみんなでここを出て、色々と落ち着いたら二人で出掛けよう。まずは友達として」
「うん!」
三上さんから流れる涙を、三上くんがハンカチでそっと拭う。成宮くんはいつも、そうだった。俺のようにクラスで浮いている生徒にも分け隔てなく、いつも穏やかで優しい。こんなことが始まり成宮くんにまで嫌な本性があったらと、案じていたがそんなもの一切なかった。友達にも彼女にも、優しい人だった。
俺はまた、人を信じて良いような気がした。
立会人の意味が分かったような気がした。見守っていた俺達は手は自然と動き、それは拍手になっていた。
この二人なら大丈夫だろう。成宮くんの想いが三上さんを包んでくれ、今度こそ本当の愛で二人は繋がって。
ピッ、ピッ、ピーー。
パァーン。
その音と共に、二人は折り重なるように絶命していた。
どうして……?
成宮くんは三上さんの秘密を受け入れていた。
互いに未来を語り、前に進もうとしていた。
なのに、どうして?
どうして、二人の未来を奪った?
その呼び出しに俺達は教室に向かい、着席する。すると二人が現れた。
「足、滑らせるなよ」
そっと手を伸ばして三上さんの手を引く成宮くん。
成宮くんとは一年の時同じクラスだったが、適度に制服を緩く着こなしふわふわの髪にまつ毛が長く、笑った顔に穏やかさが溢れている。俺にも気さくに話しかけてくれる、優しい男子だ。
三上さん。制服を綺麗に着こなし、髪を巻いているオシャレな女子。全体的に整った顔立ちに、大きな目。クラスは違う為あまり知らないが、美人なのにそれを鼻にかけていない大人しい女子のイメージがある。
『今回の暴露は一つでした』
そんな裏切りを表す言葉にも、俺達は反応を示すことはない。もう、心が麻痺しているのだろう。
それは当事者の二人もなのか、死の運命に近付いても何も発せず互いを見合わせていた。
『三上 華は成宮 真に好意は持っていないのに、付き合っていた』
そんな暴露にも三上さんは否定も肯定もせず、ことの成り行きをただ眺めていた。
『こちらが証拠です』
スマホに映し出されたのは、またSNSのスクショ。
『どうしたら、彼氏を好きになれるのだろう?』
『好きって何? 恋って何?』
『何で一緒に居るんだろ?』
そのような心の叫びが、毎日、毎日、投稿されていた。
『また裏アカですかー? 表では「デート楽しかったー!」、「大好き」とかキラキラ女子を演じているのに、裏ではこれとは。他の証拠品として提示されてある表アカと照らし合わせたら、この裏アカは三上さんのものだと証明出来ますね?』
「その必要ありません」
そう言い切ったのは、成宮くんの方だった。
「……分かっていたよ、初めから」
予期せぬことだったのか三上さんは顔を見上げ、成宮くんを瞬き一つせず眺めていた。
「女子って結構、難しいんだろ? 彼氏がいないと軽く見られたり、グループ内同士で恋愛の話出来ないと付いていけなかったり。翼は愛莉ちゃんと、爽太は紗栄子ちゃんと一年から付き合ってるし。俺達は余り物同士くっつけられたみたいな感じだったしな」
成宮くんは話をしながら三上さんの左手を手に取ったかと思えば、ためらいもなく死の指輪を抜く。
二回目の時は指輪を抜いた瞬間にけたたましい警告音と赤い点滅が起きたが、今回は何の反応も示さなかった。
『おめでとうございます。三上 華さんは死の指輪を外された生存者です。さあ、三上さん。あなたは恋人の成宮 真くんを助けますか?』
「……何故、そんなことをわざわざ聞いてくるの?」
三上さんがその疑問を口にすると、待っていたかのように主催者は意気揚々と話し始めた。
『外さない選択肢もあると言ったら、どうします?』
「どこまで私達を弄べば気が済むの! 裏切って無様に死ぬ私を、笑うつもりでしょう!」
『この状態で、どうやって? あなたを殺す指輪はなくなりましたよ』
「……あ」
三上さんは自身の左手薬指を眺める。命を縛り付けていたそれは、あまりにもあっけなく外れてしまった。
「……私……、助かったの?」
『それは、あなたの行動次第です』
淡々と話しているつもりなのだろうが、隠しきれていない残虐さ。その声は僅かに、嘲笑しているようだった。
主催者は悪魔なのだろうか?
三上さんを唆し、成宮くんを裏切るように仕組んでいく。そしてその姿を後に続く俺達に見せつけて、裏切りの恐怖を植え付けているんだ。俺達が疑心暗鬼になって醜く争う姿を見たいが為に。
「主催者さん。カップルの片方が死ねばどうなりますか?」
そんな確信を突くことを口にしたのも成宮くんだった。つまりそれは自分が死んだ後、三上さんを案じての発言なのだろう。
『通常なら指輪が外せずに死にます。しかし外されている場合は、このまま立会人としてゲーム終了まで校舎内に留まってもらいます』
「そっか。それなら良かった。華、今度はちゃんと好きな人と付き合わないとダメだからな?」
ニコッ笑う姿は、慈悲に満ち溢れていた。
「……真……は?」
「さっきの惨劇を見ただろう? せっかく指輪が外れても、相手の指輪を外そうとしたら巻き込まれる。……俺は華が好きだから、生きて欲しい。無理矢理くっつけられた関係だったけど、華と一緒に居た時間は楽しかったから」
ピッ、ピッ、ピッ。
『さあ、決断の時です。あなたは一人で助かるか、それとも爆発のリスクを抱えて恋人を助けるか?』
「華、もういいよ」
「……一回目は指輪を外さなかったからタイムアップみたいな感じで爆発して。二回目は爽太くんが紗栄子の指輪を外せたけど、紗栄子は外せなかった。音や光的には時間の余裕はあったみたいだし、タイムアップはない。紗栄子と爽太くんで違うのは……。あ!」
三上さんの考察を聞いている間に気付いたのは、おそらく同じこと。
北条くんは相手の秘密を知っていて、音霧さんは知らなかった。そこから推測出来るのは一つ。
「『相手を許しているか、許していないか』でしょう!」
三上さんは、そう宣言する。
現に成宮くんは三上さんの指輪を外している。
事実を知って受け入れたからだったと考えれば、筋は通る。
『正解です。【指輪が爆発するルール違反】の4つ目は、「過ちを許していない相手の指輪を外す」でした』
さっき爆発したのは、音霧さんが北条くんを許さなかったからだった。あのような裏切りを知った後なら、当然だろう。
そうと分かった三上さんは息遣いを速め、震える指を伸ばしていく
「……真。もし助かったら、このまま付き合ってくれる?」
声まで震え、その緊張が伝わってくる。当然だ、命をかけた戦いを三上さんは果敢に挑んでいるのだから。
「え? そんなことしなくても、……みんな死んだのに?」
「うん。私、今まで真のこと見ていなかった。どうしたら、みんなに話が出来るネタが作れるとか、そんなことばかり。……最低だよね? だからこれからもう一度あなたを知りたい。身勝手な願いだけど、好きになったらダメかな?」
その瞳から溢れてきたのは、恐怖によるものだけではない。だって三上さんは、柔らかな微笑みを浮かべていたから。
「いつでも歓迎するよ。じゃあまずはみんなでここを出て、色々と落ち着いたら二人で出掛けよう。まずは友達として」
「うん!」
三上さんから流れる涙を、三上くんがハンカチでそっと拭う。成宮くんはいつも、そうだった。俺のようにクラスで浮いている生徒にも分け隔てなく、いつも穏やかで優しい。こんなことが始まり成宮くんにまで嫌な本性があったらと、案じていたがそんなもの一切なかった。友達にも彼女にも、優しい人だった。
俺はまた、人を信じて良いような気がした。
立会人の意味が分かったような気がした。見守っていた俺達は手は自然と動き、それは拍手になっていた。
この二人なら大丈夫だろう。成宮くんの想いが三上さんを包んでくれ、今度こそ本当の愛で二人は繋がって。
ピッ、ピッ、ピーー。
パァーン。
その音と共に、二人は折り重なるように絶命していた。
どうして……?
成宮くんは三上さんの秘密を受け入れていた。
互いに未来を語り、前に進もうとしていた。
なのに、どうして?
どうして、二人の未来を奪った?



