俺、小春、翔、凛。
 小春と凛、翔と俺は、小学校からの幼馴染だった。
 中学校に入学したての頃、男女二人ずつ計四人でグループを作って課題を取り組む授業があった時に、男子女子で余っていた俺達はグループを組むことになった。
 違う小学校から来た者同士だったが性格が合い、それからずっと友達だった。
 そんな関係が変わったのは中学三年の春。翔が俺に、凛を好きになったと相談してきたことだった。
 高校入学と同時に、翔と凛が付き合い始めた。翔は、俺が小春のことを好きだと知っていて、告白するように背中を押してくれた。
 二年生の春に告白。小春は小さく頷いてくれて、付き合うことになった。

「翔が指輪を外すなと言ってくれなかったら、危なかった。ありがとうな」
 全く、翔には助けられてばかりだ。

「どうして指輪を外したらいけないと分かったの?」
 凛はいつも通り、鋭い指摘をしてくる。
「あ……。いや、何となく。ほら、映画とかでのお約束の展開だろ?」
 問いに答えるのに、一瞬間があったような気がした。

「……そう」
 凛は力無く返事し、ポケットよりスマホを取り出す。
「うわあ、本当にインストールされてる」
 全員でスマホを出すと変わらず圏外だったが、見覚えのないアプリが増えていた。それは指輪と同じドクロがアイコンになっており、何とも気味が悪かった。

「圏外なのにアプリが起動するの?」
 震えた小春の声に俺達も疑念を持ったが、その指を動かすことは出来ない。情けないことに恐怖心が勝ってしまった。

「あ、開いた」
 あまりにもあっけらかんと呟くのは、凛。彼女は気が強く、非常時に一番勇敢に行動を取れるタイプだ。

 中二の林間学校でウォークラリーがあり、俺達はそこで道を間違えて迷ってしまった。
 翔、小春、俺はオロオロとしていたのに凛だけはシャキッとしていたな。野に咲く凛とした花のようだと、翔がボソッと呟いていたのを俺は今でも覚えている。

 翔、小春、俺は身を怯ませるが、持ち主であり一番近距離に居るはずの凛はスマホに視線を落としたままだった。
 こんな時まで。
 肝が据わった姿に感服し、そして自分が情けなかった。凛も怖いだろうに……。

「あー。これダメみたい」
 凛が俺達に差し出してきたスマホ画面には、『持ち主以外の閲覧を禁止します』と表示されている。

「ちょっと試してみるから、スマホから視線外してくれる?」
 もどかしい心情で俺達がスマホより目を逸らすと、凛よりアプリが立ち上がったと告げられる。

 つまり持ち主以外の第三者が覗いていたから、アプリはそれを判断したということか。
 あまりの高性能アプリに、俺達の表情が歪んでゆく。
 ただのイタズラで、ここまでのことをするのか?

 そう思い、何か手掛かりが得られないかと各々とアプリを起動する。そこには『カップルデスゲーム』と血が垂れるような赤文字で書かれていた。
 情けないぐらいに震える指でスマホを操作していくと、先程説明にあった【指輪が爆発するルール違反】、【ゲーム説明】、【特記事項】【密告のやり方】とルールが確認出来る仕様となっていた。
 そして一番下にある項目は【密告】だった。

 恐る恐るそのボタンに触れると『密告相手の名前』、『密告内容』、『密告の証拠品を提示』など細かく記入欄が設けてあり、頭がクラクラしてくる。
 極め付けにはこのアプリを経由すれば圏外でも、検索アプリや過去のメッセージアプリを閲覧出来るというよく分からない仕様があることだった。
 ……そこまで俺達に密告をさせたいのか?
 主催者と自称する、相手の狂気を感じ取った。

 窓より上空を見上げると、変わらずにヘリコプターが迂回しており機体横の文字が「警視庁」と見えたような気がした。
 まさか。そんなはずは……。

「慎吾、大丈夫?」
 こちらをまじまじと見つめる小春に、俺の額から汗が流れていたと気付く。
「あ。ごめん、ごめん。大丈夫だから」
 差し出されたミニハンカチで汗を拭う。それはキャラクターのうさぎの刺繍されてあり、高校生が持つには少し可愛すぎるかもしれないが俺はそんな小春が好きだったりする。

 これ以上、不安にさせてはならない。
 そんな思いで、今目にしたものを自分の中でなかったことにした。
 こうして、永遠に感じる時間を過ごしているとスマホより低い音声が聞こえた。