カップルデスゲーム 一その愛は本物ですか?一

 同じ高校に入学して、その後も変わらない関係を築いてきた俺達四人。
 だけど当然ながら全てが同じというわけではなく、翔と凛は部活が中心で朝や放課後、休みの日を自分を鍛えることに捧げ、俺と小春は部活に入っていない。
 同じ高校だというのに、生活は全く違うものだった。
 だが同じ帰宅部だとしても、めんどくさかった俺とは違い、小春には明確な理由があった。
 いかに自分が恵まれているかも分かっていなかった、高校一年生に成り立ての初夏。俺は、夜の十時前に腹が減り限定スイーツが食べたいと自転車を漕ぎ隣の町にあるコンビニに行くと、そこで会計してくれた店員さんがやたら小さくて可愛らしい女性で、まさか中学生じゃないだろうなと思わず顔をチラッと見たら、まさかの小春だった。
 こちらに顔を向けず「いらっしゃいませ」と言い、スキャナして金額を告げ、お金の受け取りの時すら視線を落としていたから全く俺に気付いていないようだった。
 ここで気が利く奴なら黙ってお釣りを受け取りスルーして立ち去れるのだろうが、どこまでも気遣いが出来ないのが俺。
 思わず、「小春!」と声に出してしまい、目が合った途端に「あっ!」と声を出し唇をキュッと噛み締めてしまった姿から、俺はまたやってしまったと溜息が漏れた。

 うちの高校は原則バイト禁止だが、明確な理由と親の承諾があれば許可が下りる。だが小春は学校には申請していないらしく黙っててほしいと、俺の家前に来て頭を下げて頼まれた。
 このバイト先は今時珍しく廃棄をもらっていい店らしく、俺の好きなスイーツを袋に詰めてきて。
 別に学校に通報する気なんてなく、真面目な小春でも校則を破ることなんてあるんだなぁとどこか安心したぐらいで、近所の公園ベンチに並んで座って食べた桜餅。
 少し遅い、春が来てくれたような味がした。
 せっかく同じ高校に入学出来たのに、クラスが違い、特進クラスは授業量が違うから下校時間が違い、しかも家の方角まで違う。
 翔や凛が居ない二人という状態が久しぶりであり、俺達は男女ということから何を話して良いのかが分からず、一緒に居ると息が詰まる奴だと小春に思われたくなくて、ひたすらに質問を繰り返した。
 いつからバイトを始めたのか、週どれぐらいシフトを入れているのかとか、何時間とか、勉強との両立は大丈夫なのかとか、バレる心配をしていないのか、とか。
 四月入ってからすぐにシフトを入れてもらったらしく、平日は週三回、学校終わりの五時から十時まで。土日はほぼ入っているらしく、九時から五時までと聞いて俺の頭はクラクラしていた。
 小春がいるのは特進クラスで勉強量も宿題も多く、ただでさえ遊んでいられないと聞いていたのに、バイトまでしていたなんて。
 しかも同じクラスの男子も、店に来たことによりバイトしているのを知られてしまっているらしく、黙ってくれているらしいが、よくお店に来ると少し困惑しているようだった。
 何とか勉強頑張ってるけど中間テスト前でも休めないし、どうしようかぁと呟く顔が街灯に照らされる。
 謙遜とかではなく本心から嘆いていると悟った俺は、思わず口を挟んでしまった。

『何か欲しい物でもあるのか? そこまでしてバイトしなくて良いだろ?』
『……え? あ、うん……』

 そろそろ帰らないといけないからと自転車を漕いで行く小春を眺めながら、なんだか雰囲気が変わったなとぼんやり眺めていた。
 俺は本当に世間知らずの子供で、高校生のバイトなんて欲しい物があるからするものだと本気で思っていた。
 自転車のカゴに、廃棄の弁当箱が複数入っていた意味にも気付かずに。





 翔と凛が教室から出て行ったことにより置いて行かれた俺達は、デスゲーム会場にただ座り込んでいた。
 このままでは俺達は、次のゲームで確実な死が訪れる。
 凛は翔に許されない秘密があるみたいだが、あの誠実な性格から大したことではないだろうし、翔は許して指輪を外すだろう。
 カップルが生存となれば、小春と俺はどうなるのだろうか? 指輪を外すチャンスをもらえるのか、それとも……。

 カップル対抗戦。
 アプリでルールを再確認した俺は、スマホを強く握り締めていた。
 そうだよな。そんな甘くないよな。カップル生存となった時点で、俺達の指輪は……。
 教室を見回すと、あちこちに飛び散る肉片と、血飛沫。
 一時間後に全てが終わる。こんな疑心に溢れた狂ったゲームも、四人の友情も、俺達の命も。
 全身が震え、頭がキーンと鳴り、抑えきれなかった物がまた口元より溢れてくる。
 もう出てくるものなどないのに、どうして俺の体は何かを吐き出そうとするのだろうか?
 こんな苦しい思いをするなら、いっそのこと。
 指輪に手をかけようとすると、背中より確かな温もりを感じる。
 顔を上げると、ずっと傍で泣いていた小春が背中を摩ってくれていた。

「……ありがとう」
「あっ」

 俺と視線が合った途端に、すっと引っ込められた手。その真っ赤な目は左右に動き、唇をキュッと噛み締めていた。
 このままでは、俺達に生きる道がない。
 何も知らない小春を、このまま死なせてしまっていいのか。
 情報弱者が搾取される世界。デスゲームではなおさらの、世の中における不条理。
 だからこそ、俺は。

「小春、話がある」

 そう告げた。
 もう話が出来るのは最後だろうと、俺達は重い足を動かして階段を登っていく。
 いつもは鍵がかかっていて絶対に入れない空間が、今日は解放されていた。
 屋上。硬いドアを力ずくで開ければ眩しい光りが差し、強い紫外線が降り注いでいた。
 日は傾いてきているというのに、変わらずの熱気が広がる屋上。
 普段なら速攻で引き返すが、今日は広がる青空と、流れていく入道雲をただ眺めていた。

「また、外の空気が吸えるなんて思ってなかったな……」

 鼻を啜り、声を枯らせた小春は、赤い目をこっちに向けてきた。作った笑顔は引き攣り、どんどんと口角が下がっていく。
 そんな顔を見られたくなかったからか、俺から目を逸らした小春は一人歩き出し、落下防止の為に囲んであるフェンスに触れる。
 ギュッと握りしめる姿から壊そうとしていると察し、俺は思わずその手を掴んでフェンスより離す。
 道具も使わずに壊すことなんか無理だと分かっているが、柔らかな手を傷付けたくなくて、思わず動いていた。
 一時間後には原型もなくなるかもしれないが、やはり嫌だった。

「フェンスっていえばさ、翔と俺が通ってた北小、廃校になったって言ってただろ? 中学の時に翔と忍び込んで屋上に行ったんだけどフェンスが壊れててさー、いやあ廃墟って怖いよなぁー」

 全くの意味も、オチもない、くだらない話。
 しかもそれは翔が中学生の時に面白おかしく小春と凛に話していたことの二番煎じであり、本当に俺はくだらない奴だと痛感させられる。
 あの時は凛に「危ないでしょ!」と正座で説教を受け、小春には「危ないよ」とか、「もう行っちゃダメだよ」と諭されたな。
 女子には男のロマンが分かんないんだと翔はブツブツ言っていたが、凛に心配されて怒られ、まんざらでもない翔の姿に本気で恋しているんだなぁと、ニヤニヤしてたな。
 まあ、巻き込まれた方としては、たまったもんじゃなかったけど。

 屋上からは周囲の景色がよく見渡せ、田んぼや畑や家屋、平坦な田舎道が今日も続いている。
 しかし学校周囲を囲むのは屈強な機動隊員だけであり、農業に勤しむ人も、買い物に出掛ける人も、夏休みだからと遊びに行く子供も、誰一人いない。
 走る車一台すら見られないことから付近は交通規制されていると察せられ、当然の対応なのだが、なんだか俺達が周囲に害を与える存在だと言われているようで、胸が詰まっていく。
 小春に目を向けると、その視線の先は家屋に並んで建っている一際大きな建物があって、あれは翔と俺が通っていた北小だった。
 何かあるのかと思わず顔を覗き込むと、「あっ」と声を漏らした小春は、何でもないと視線を逸らす。

 そうだよな。こんな嘘で塗り固めた人間、信じられるわけないよな。
 全てを話すのが誠意ではない。
 時には嘘やごまかしで、取り繕わないといけないこともある。
 だけど、俺は。

「……ごめん。あの音声を録音したのは、俺だったんだ」

 それを言葉にいた瞬間に口内に湧き出る、酸っぱいもの。
 不快で、気持ち悪くて、吐き出したくなるが、これが俺への罰なのだろうと無理矢理に飲み込む。
 俺に寄せられる、まるで敵を見つめるような視線。内藤さん達に向けていたものと同じだと分かり、今まで築いてきた関係は崩壊したのだと嫌でも察せられた。
 明らかな嫌悪を表した表情とは、このことをいうのだと思い知った。

「スマホに、盗聴アプリを仕込んだ」

 俺は淡々と、己の罪を懺悔していく。誰にも知られたくなかった弱みを。

 俺が小春のいじめ被害に気付いたのは、制服が標準服に戻った一年生の十月頃だった。
 運動部が秋の大会出場の為に出払っている時期、先に授業を進めないという方針からその他の生徒は午前登校のみで、体育館で映画を観る。
 学校休みで良いのにな、とか思いながら体育館に行くと、一人体操服姿の女子が居た。
 男子は上下紺のブレザーとズボン、女子は紺のセーラー服と赤いリボン。
 暗い服装の集まりだったからこそ、一人オレンジ色の体操服を着ることは目立ち、しかも運動部が輝くこの時期に体操服を着るなんて、目立ちたくない俺からしたら信じられなかった。
 現に、運動部の人がどうしてここにいるのかという目で見られ、違うと分かればじゃあ何で着ているの? とヒソヒソと話される。
 それは、そうだ。制服を着て来たら良いのだから。
 その女子、小春はただ俯き、映画鑑賞を終え、女子の小グループがダラダラと帰る中、小春は一際早く帰っていった。
 ……友達は?
 小春は入学して同じクラスに友達を二人作り、楽しそうに笑っていた。
 だけど七月の終業式も、九月の始業式にも見当たらなくて、見つからなかっただけだと自分に言い聞かせてきたが、もしかして来ていなかったんじゃないかとようやく気付いた。

 忌避していた、特進クラスである一年三組。
 いや、三組だけじゃない。二組のスポーツクラスだって、才能の塊みたいな奴らに嫉妬して、近付きたくなかった。
 だから一組に閉じこもって、他に目を向けないで、小春の変化にも気付かなくて。
 そんな自分を変えようと、今起きているかもしれないことに向き合うことにした。
 午前授業が終わり、ファミレスで昼ご飯を食べるとか、カラオケに行くとか盛り上がっているのを見送り、誰も居ない一年三組に入る。
 そうは言っても席替えしているであろう小春の席は分からず、後ろに配置されてある金属のロッカーに目をやる。
 別のクラスに忍び込むのはいくらでも誤魔化しが効くが、さすがに個人のロッカーを開けて覗くのはまずい。
 もし誰かに見られでもしたら、最悪俺はストーカー扱いを受けるだろう。
 分かっていたが、覚悟をして開けた。恐る恐る、出来るだけ音を立てないように。
 佐伯小春、そう記されたロッカーを開けた時、俺はいじめを確信した。
 落書きや壊された物が置いてあったからじゃない。何も、物が置いてなかったからだ。
 家庭科、音楽、美術など、授業の時にしか使わない科目の教科書や教材は置き勉が許されていて、殆どの生徒がロッカーを活用している。
 それを使用しない理由は色々とあるがその一つは、教科書や教材にイタズラされるからだ。
 それを身をもって知っている俺は怒りに震えたが、どこか冷静な自分もいた。
 事を荒立ててはならない。俺が騒いだら一時的に落ち着いても、より酷くなる。
 確実に辞めさせる為にはいじめ主犯を特定して、証拠を掴んで脅す。それしかないと。

 そうはいっても素人の部外者に出来ることなんかなく、かろうじて分かったことは、凛が頻回に三組へと遊びに行っており、いじめが起きていないか監視していたことだった。
 だから凛が秋の大会で不在の時を狙って、一人体操服を着せて恥をかかせるという嫌がらせをしてきたのか。
 いじめ主犯者の性根の悪さに喉の奥が焼けるように痛んだが、相手はおそらく凛から一度注意を受けており警戒しているだろう。
 狙われるのは放課後だと思ったが、小春はバイトをしており一目散に帰って行く。
 凛がいる限り、学校は安全なのかと警戒を解くことが出来た。

 だから俺は、小春のバイト先を張り込んだ。
 以前小春が話していた、クラスメイトにバイトのことを知られ、よく来るようになったという話をよく覚えており、好意から憎しみになりストーカーになったのではないかと仮説を立てて、そいつを待ち伏せしていた。
 張り込みから一週間。高校から遠いバイト先に現れる生徒はおらず、自転車を漕ぐ小春の後をつける人物もいない。
 このままでは自分の方がストーカーだと今日で辞めようと思っていた時、小春は自然公園の駐輪場に自転車を停め、街灯に照らされたトイレに向かって歩いていた。
 なんとなく胸騒ぎがした俺は後を付いていくと、小春は多目的トイレのドアを開け、そのまま出てこなかった。
 三十分が経った頃、ようやくドアが開き出て来たのは女性二人。名前は知らないが、小春と同じクラスの女子だった。
 学校で見せる顔付きと全く違い、スマホを見ながら甲高く笑う姿はまるで悪魔のようだった。
 直感で分かった。写真か動画を撮られたんだって。
 スマホを奪い取って叩き割ってやろうかと思ったが、事を荒立ててはいけない。
 証拠だ、証拠を掴まないと。
 
 一通り考え、最終的に行き着いた答えは盗聴だった。
 それは一つのアプリだった。子供の所在地を確認出来て、いざという時は音声が聞けて録音も出来る。
 その防犯アプリを悪用した。
 高校一年生の十一月。
 中間テストが終わり、どこか気が抜ける土曜日を狙って小春のバイト先に行き、夕方五時に仕事が終わって出て来た時に声をかけ、スマホゲームのイベントの為にスマホを貸してと頼み込む。
 小春は目の前に現れた人物に身を引くが、俺だと分かって表情を緩め、もう仕方がないなぁと言いながらスマホを貸してくれることになった。
 お礼だと小春の好きなミルクティーとコンビニスイーツのプリンを渡して、コンビニのベンチに並んで座る。
 小春は何も疑っていないのか操作する俺に一切目を向けず、ただオレンジ色の空を眺めていた。

 防犯アプリをインストールして俺のと連携させ、普段使っていないような場所に押し込む。
 こうして始まった、証拠掴み。
 この防犯アプリは、あくまで小中学生の親が使う想定に作られた物であり、子供が帰って来ないとか、いじめに遭っているんじゃないかと疑った時にGPSで場所を確認して、音声を聞いたり録音する仕様となっている。
 だから常に録音して後で聞き直す機能なんかないし、何より聞いてはならないと分かっていた。
 だからこそ、自分の中でルールを作った。
 盗聴アプリの起動は、小春のバイト終わりから家に帰るまでの夜十時から十一時の間。おそらくこないだみたいに、呼び出されているのだと予測しての時間だ。
 無事に家に帰れたら切り、絶対にそれ以上は聞かない。
 最低なクズ行為だと分かっていたからこそ、それは徹底した。
 盗聴をする中で分かっていったのは、学校では凛の目があるから何もせず、小春のバイト終わりを狙ってあの多目的トイレに呼び出していることだ。
 いじめは五月頃から始まり、ぶつかってきたり無視をすることから、段々とクラスメイトを巻き込むようになり、夏休み明けからは呼び出して写真を撮ってばら撒くと脅してくる、より悪質な手口への変貌。
 その内容は録音出来たが、しかしそれは小春がポツリポツリと言っていること。
 録音状態が悪いのかいじめている側の音声は上手く入っておらず、なかなか証拠が掴めなかった。
 その間にいじめはエスカレートしているというのに、それを止めることも助けることもせず、音声を録音し続けた。
 
 盗聴を初めて一ヶ月。期末テスト前で苛立ちがピークだったのか、あの過激な行為に声が乗りハッキリ聞き取れる音声を録音した俺は、これ以上させないと放課後の一年三組前に立っていた。
 教室に居るのは内藤さんと、もう一人のいじめ主犯者。AirDrop機能を使用し、あの音声と「いじめを公にされたくなければ二学期中は学校を休み、佐伯小春の画像は全て削除しろ。金輪際関わるな」とメッセージを送った。
 送信出来るかは賭けだったが、どうやら全て受信設定だったみたいで、「何、これ!」と騒ぎ声を聞きながら俺はその場を去った。
 次の日から学校を休むということは、期末テストすら受けられないという意味。
 当然ながら罪悪感はあったが、追試だってあるし良いだろと無理矢理自分を納得させた。
 三学期が始まり俺は変わらず盗聴を続けたが、小春があの多目的トイレに呼び出されることはなくなり、あの二人の関与は一切なくなった。
 小春は特進クラスから普通クラスに変更することを希望し、二年生からはあの二人とも離れられるようになった。
 そう聞くと全て解決したように聞こえるが、当事者からしたら何も終わってなんかいないだろう。
 忘れられない屈辱。残る心の傷。自身を軽んじる人格形成。そして人に見られたくない画像の流出に、一生怯えて過ごさなければならない。

 ……俺は卑怯な人間だ。本当に相手を好きなら、守りたいなら、いじめられている場所に乗り込み、身を挺して立ち塞がるだろう。これ以上、傷付いてほしくない一心で。
 そうしなかったのはどこまでも俺が卑怯で、臆病で、醜い人間だったから。
 その矛先が、自分に向かってくるのではないかと、ただ怖かったから。
 それが、俺の認めたくなかった本性。
 何も知らないフリをして無関係を装って近付き、自分に害が及ばない手段を使う為に一ヶ月間もいじめを黙認し、小春が咽び泣く声を聞いても行動を起こさなかった。
 そんなの、いじめをしていた奴らと同罪じゃないか。
 そんな思いまで自分の中で塗り固めて過去を忘れたフリをして、同じ時間を過ごす。
 そんな最低な裏切り行為を、俺は出来る人間だった。

「なんでぇ……」

 声を詰まらせた小春は、唇を噛み締めて俯いてしまった。
 言いたいことは無数にあるだろう。
 盗聴なんて最低とか、他にも聴いていたんじゃないかとか、気持ち悪いとか。
 でも一番に出てきた言葉は、「なんで、助けてくれなかったのか」だろう。

「……ごめん。一人に、なりたいの。今、頭の中、混乱してて……。なんか酷いこととか、言ってしまうかも、しれなくて……」

 小春は何があっても感情のまま言葉にせず、どこまでも自分を抑える。
 俺にだけは本音を言ってほしいとか願っていたくせに、今日はその性格に救われるなんて。
 本当、何なんだよ俺?

 いじめに遭っていた理由が恋愛絡みの逆恨みで、付き合う前のこととは言え彼氏には守ってもらえなかった。
 それに加えスマホに盗聴アプリを仕掛けられていて、信じた相手は笑いながら平気に嘘ついていて。
 最低だ。

 小春はもう聞きたくないと言いたげに、パタパタとドアに向かって走っていくが、話はもう一つある。
 ゲームにより秘密を知られ、険悪になってもそれに向き合う時間すら与えてくれない。
 本当、俺達のことをただの駒としか思ってないんだろうな、主催者は。

「もう一つ、話を聞いてくれないか?」
「……もう、聞きたくないよぉ……」
「ゲームについてなんだ」

 両耳に抑えていた手をそっと離した小春は、俺に背を向けたまま黙り込んでいた。

「このゲーム、カップル対抗戦なんだ。小春はその意味をどう取るか、教えて欲しい」

 小春は凛ほど勘が鋭くないが、頭はかなり良い。だからその意味を直接伝えず、凛の考えを教えてもらうように問いかける。
 するとこちらに顔をやり、一瞬で顔色を変えた小春はポツリと呟いた。

「なんだ、そうゆうことだったんだ」

 溜息と共に吐き出した言葉はどこか安堵に包まれ、歪んでいた表情すら太陽の光りのように明るくなっていった。

「次で、ゲームは終わるね?」
「……ああ。小春は順番の法則とか、とっくに気付いてるよな?」
「二回戦が終わった時に、やっとね」

 やはり小春は気付いていて、自分達が最後だということにも分かっていたのか。

「ごめんな、地味で冴えない俺のせいだ」
「違うよ、いじめられて、クラス全員にムシされていた私のせいだよ」

 顔を見合わせて、ただ目を逸らすことしか出来ない俺達。
 これだから陰キャは……とカメラの先に居る視聴者とかやらは、俺達を嘲笑するだろう。

 一回目は、学校中が知っているカップルミーチューバ。いわゆる頂点と呼ばれる二人。
 二回目は、次期生徒会長候補と秘書。学年をまとめる力があった二人。
 三回目は、そんな二人と仲が良い友人。
 四回目は、クラスに程よく馴染んでいる、いわゆる二軍と呼ばれる人達。確かにあの二組から順番を決めろと言われても、パッと思いつかない。それが主催者が言っていた独断と偏見というやつなのか?
 そして小春と俺は、その中には入っていない。つまりそれは。
 スクールカースト順だった。そうゆうことなんだろう。
 俺達は三軍と呼ばれる存在だから。だから最後、確定だったんだ。

 生き残れるのは、おそらく一組。順番はスクールカースト順。つまり次に行き着く展開は。

「……凛の弱みを、密告するということ?」

 小春の目が、より濁っていった。
 俺は、どれほど最低な人間になれば気が済むのだろう? そんなことを言わせるなんて。

「何をしたって、ゲームの結末は変わらないよ。だって、生き残るのは……」

 俺に向けられた視線はどんどんと弱くなり、一呼吸置いた小春は話を続けていく。

「……ううん。もうね、疲れたの。秘密を知ったことで、人がおかしくなっていくのを見るのが。だからね、もう終わらせようよ」

 小春は不気味に笑うドクロの指輪を眺め、手を強く握り締めた。
 運命に争わず、身を任せる。
 そうゆうことだろう。

「うん。ごめんな。俺も傍観していた生徒と同じだよな……。本当に……」

 小春は話を最後まで聞かず、一人屋上からの階段を下っていく。俺はその背中を、ただ見送ることしか出来なかった。