小沼が死んだ。その衝撃に身体の震えが止まらないうちに、次の人質として俺、綾部一樹の名前が呼ばれた。そろそろ人質の番が巡ってくるかと思っていたところだが、さすがにこればかりは、心の準備もクソもなかった。
「今度は小沼さんみたいにならないように、誰か綾部くんを助けてあげてくださいね? じゃないとゲームの楽しみもなくなっちゃうしー。きっかり五分以内に、誰か名乗り出てください。はいスタート!」
「ふざけやがって……っ」
思いのままに適当なことを言う電気ウナギくんへの怒りは、今この場にいる全員がMAXになっているに違いない。
「さすがに次は誰か参加しないと……ね」
小沼に言いたいことをぶつけるだけぶつけて見殺しにした貴田が、白々しく吐き出す。小沼の件に関しては立候補しなかった俺も同罪だが、何もあんなふうに最後にいじめることなかったのに。女ってやつは本当にえげつねえことをしやがる。
なんて、武史の隣で皆木のことを散々いじめてた俺が言えることじゃないけどな。
残りのゲームはこの第四ゲームを入れて多くてあと三回。まだ人質になっていないのは、武史、真紘、天沢の三人だ。そして、ゲームに参加していないのは、俺、武史、貴田、皆木の四人。三回のゲームに対して四人がゲームに参加できていない。つまるところ、一人は確実にゲームに参加できずに死んでしまうことになる。そうなる前に、ここは早いところゲームに参加するのが賢明な判断だ。……まあ、今回のターンで俺とあと一人が死ななければ、の話だが。
そんなことは誰もが分かっている。分かっているのに、さっきの第三ゲームでは誰も名乗り出なかった。ゲームに参加するということは、その分今すぐに死ぬ可能性を高めてしまうことになる。躊躇するのは当たり前だ。
どうせゲームに参加することで死ぬ確率が上がるなら、自分が好きだと思うやつを守るために名乗り出たい——そんな人間の心理を巧みに利用した、心底胸糞悪いゲームだ。
電気ウナギくんのお腹のタイマーを確認する。残り時間三分二十二秒。刻々と迫り来る死へのカウントダウンに、自然と俺の心臓は鼓動を早めた。
「おい、誰か参加してくれるよな? 参加しないみんな死ぬんだぞ? 小沼の時みたいに誰もゲームに参加しないってことは、自分が生き残る可能性を捨てるのと同じだ!」
ゲームに参加することで死ぬ確率が五十%になる——そう考えるのは、人質ではないみんなだ。俺は今、人質になっている。みんなの気持ちは分からなくもないが、今は自分が生き残るために誰かに名乗り出てもらうしかない。
「一樹さあ、人にもの頼むのに、ちょっと上から目線すぎ」
浅はかな俺の心理に貴田が噛み付く。
「はあ? なんだって? お前はいいよな。真紘に色目使ってすぐ助けてもらえて」
「色目なんて使ってないわよ! 真紘くんは心が綺麗だから自分から名乗り出てくれたんでしょ」
「さあ、どうだか。お前、真紘のこと妄信してるみたいだが、そいつは偽善者だぞ。俺たちが皆木をいじめてるの知ってて、先生に告げ口だけしてさ、実際皆木のこと積極的に助けようとはしない」
「ふん、大村の後ろにくっついていじめてる本人が何を言うのって感じよね〜?」
その台詞はそっくりそのままお前にも返してやるぞ!
女子の代表で皆木のこと散々いたぶっているくせにな。
「あーあ、もう二人とも時間がないし、不毛な議論はやめねえか。俺が参加すればいいんだろ」
俺と貴田が押し問答を繰り返していたところで、武史が手を挙げた。正直驚いた。俺は、武史の権力に惹かれてずっと彼の言うことを聞いてきたが、ぶっちゃけ武史は俺のことなんてどうでもいいと思ってるんじゃないかって感じていた。
「武史、い、いいのか?」
「ああ。どうせどこかで参加しないとダメだ。人質になっていない残りのメンバーの中で助けるなら、一樹だろ」
「武史……ありがとう!」
俺と武史の友情劇場を目の当たりにした貴田は面白くなさそうに、「フン」と鼻を鳴らす。真紘はどこかほっとした様子で、やっぱり偽善者だなって思う。天沢は心配そうに事の成り行きを見守り、皆木に至っては無表情だ。俺たちのいじめのターゲットになっているあいつからしてみれば、俺がさっさと死んでくれた方が良かったんだろうな。
というかこのゲーム、皆木がやり始めたんじゃないか?
自分をいじめているメンバー、いじめを傍観している人間たちに復讐するために。
突如湧き上がってきた疑念も、電気ウナギくんの「参加者は大村くんで決定します」の声で打ち消された。
「今度は小沼さんみたいにならないように、誰か綾部くんを助けてあげてくださいね? じゃないとゲームの楽しみもなくなっちゃうしー。きっかり五分以内に、誰か名乗り出てください。はいスタート!」
「ふざけやがって……っ」
思いのままに適当なことを言う電気ウナギくんへの怒りは、今この場にいる全員がMAXになっているに違いない。
「さすがに次は誰か参加しないと……ね」
小沼に言いたいことをぶつけるだけぶつけて見殺しにした貴田が、白々しく吐き出す。小沼の件に関しては立候補しなかった俺も同罪だが、何もあんなふうに最後にいじめることなかったのに。女ってやつは本当にえげつねえことをしやがる。
なんて、武史の隣で皆木のことを散々いじめてた俺が言えることじゃないけどな。
残りのゲームはこの第四ゲームを入れて多くてあと三回。まだ人質になっていないのは、武史、真紘、天沢の三人だ。そして、ゲームに参加していないのは、俺、武史、貴田、皆木の四人。三回のゲームに対して四人がゲームに参加できていない。つまるところ、一人は確実にゲームに参加できずに死んでしまうことになる。そうなる前に、ここは早いところゲームに参加するのが賢明な判断だ。……まあ、今回のターンで俺とあと一人が死ななければ、の話だが。
そんなことは誰もが分かっている。分かっているのに、さっきの第三ゲームでは誰も名乗り出なかった。ゲームに参加するということは、その分今すぐに死ぬ可能性を高めてしまうことになる。躊躇するのは当たり前だ。
どうせゲームに参加することで死ぬ確率が上がるなら、自分が好きだと思うやつを守るために名乗り出たい——そんな人間の心理を巧みに利用した、心底胸糞悪いゲームだ。
電気ウナギくんのお腹のタイマーを確認する。残り時間三分二十二秒。刻々と迫り来る死へのカウントダウンに、自然と俺の心臓は鼓動を早めた。
「おい、誰か参加してくれるよな? 参加しないみんな死ぬんだぞ? 小沼の時みたいに誰もゲームに参加しないってことは、自分が生き残る可能性を捨てるのと同じだ!」
ゲームに参加することで死ぬ確率が五十%になる——そう考えるのは、人質ではないみんなだ。俺は今、人質になっている。みんなの気持ちは分からなくもないが、今は自分が生き残るために誰かに名乗り出てもらうしかない。
「一樹さあ、人にもの頼むのに、ちょっと上から目線すぎ」
浅はかな俺の心理に貴田が噛み付く。
「はあ? なんだって? お前はいいよな。真紘に色目使ってすぐ助けてもらえて」
「色目なんて使ってないわよ! 真紘くんは心が綺麗だから自分から名乗り出てくれたんでしょ」
「さあ、どうだか。お前、真紘のこと妄信してるみたいだが、そいつは偽善者だぞ。俺たちが皆木をいじめてるの知ってて、先生に告げ口だけしてさ、実際皆木のこと積極的に助けようとはしない」
「ふん、大村の後ろにくっついていじめてる本人が何を言うのって感じよね〜?」
その台詞はそっくりそのままお前にも返してやるぞ!
女子の代表で皆木のこと散々いたぶっているくせにな。
「あーあ、もう二人とも時間がないし、不毛な議論はやめねえか。俺が参加すればいいんだろ」
俺と貴田が押し問答を繰り返していたところで、武史が手を挙げた。正直驚いた。俺は、武史の権力に惹かれてずっと彼の言うことを聞いてきたが、ぶっちゃけ武史は俺のことなんてどうでもいいと思ってるんじゃないかって感じていた。
「武史、い、いいのか?」
「ああ。どうせどこかで参加しないとダメだ。人質になっていない残りのメンバーの中で助けるなら、一樹だろ」
「武史……ありがとう!」
俺と武史の友情劇場を目の当たりにした貴田は面白くなさそうに、「フン」と鼻を鳴らす。真紘はどこかほっとした様子で、やっぱり偽善者だなって思う。天沢は心配そうに事の成り行きを見守り、皆木に至っては無表情だ。俺たちのいじめのターゲットになっているあいつからしてみれば、俺がさっさと死んでくれた方が良かったんだろうな。
というかこのゲーム、皆木がやり始めたんじゃないか?
自分をいじめているメンバー、いじめを傍観している人間たちに復讐するために。
突如湧き上がってきた疑念も、電気ウナギくんの「参加者は大村くんで決定します」の声で打ち消された。